50話 魔工房
『よし』
俺は立ち上がった。
『施設巡りだ』
リリン。
モエ。
ゼフィー。
そして俺。
スケベ大魔王領の視察を再開する。
まず向かうのは――。
魔工房。
新たに追加された施設の一つだ。
武器。
防具。
家具。
加工。
解体。
強化。
説明だけ見ると生産施設だよな。
『たぶん』
あると便利なやつだ
食料も大事。
住宅も大事。
だが。
武器や防具も重要だ。
家具や生活用品も必要になる。
領地が大きくなればなるほどな。
この世界は魔界なのだから。
歩きながら周囲を見る。
ゴブリン達は既に活動を始めていた。
広場を修理する者。
地面を測る者。
住宅地予定地を確認する者。
キャベツも何やら指示を出している。
完全に現場監督だった。
『馴染みすぎだろ』
「キャベツくん、すごいね〜♡」
モエも感心している。
『最初に会った時はただのゴブリンだったんだがな』
今では立派な指揮官である。
ゴブリン生何が起きるか分からない。
そんな事を考えていると。
目的地が見えてきた。
『おぉ……』
思わず声が漏れる。
デカかった。
とにかくデカい。
石造りの巨大建築。
横幅も広い。
高さもある。
スーパー銭湯と同じくらいの規模だ。
煙突のような塔まで生えている。
『工場じゃん』
俺の感想はそれだった。
鍛冶屋ではない。
工房でもない。
完全に工場である。
「かっこいい〜♡」
モエが目を輝かせる。
リリンも見上げていた。
「おおきいです……!」
『確かに』
武器屋にしては大きすぎる。
だが。
それだけ重要施設なのだろう。
俺達は入口へ向かう。
巨大な扉。
近付いた瞬間。
ゴゴゴゴ……。
自動で開いた。
『自動ドア!?』
また文明レベルが分からなくなった。
魔界なのか。
未来なのか。
中へ入る。
そして。
全員が足を止めた。
『……』
『でっか』
中央。
そこに。
超巨大な機械が置かれていた。
黒い金属。
青白く光る魔導回路。
大型タッチパネル。
巨大な素材投入口。
透明な生成スペース。
そして。
複数の魔導結晶。
『……』
『3Dプリンターだ』
もちろん違う。
だが。
俺にはそう見えた。
素材を入れる。
設計図を選ぶ。
完成品を出力する。
どう考えても巨大な3Dプリンターだった。
「なにこれ〜♡」
モエが機械をぺたぺた触る。
『たぶん生産設備だな』
『ここで装備作るんだろ』
ゼフィーも興味深そうに眺める。
「魔導錬成装置ですわね」
『知ってるのか?』
「似たような物はありますわ」
「ですが、ここまで大型なのは初めて見ます」
その時。
ピコン♪
スマホが反応した。
────────────────
【魔工房】
素材を投入して装備を作成します。
武器
防具
家具
加工
解体
強化
────────────────
『そのまんまだな』
さらに詳細を開く。
すると。
大量の項目が表示された。
剣。
槍。
弓。
盾。
鎧。
机。
椅子。
棚。
ベッド。
木箱。
食器。
その他色々。
『ちゃんと家具まで作れる』
『便利だな』
領地運営との相性が良すぎる。
その時。
モエが手を挙げた。
「スケベちゃん♡」
『ん?』
「とりあえず押してみよう♡」
『お前は毎回それだな』
だが。
俺も同意見だった。
触ってみるのが一番早い。
俺はタッチパネルを操作する。
すると。
画面が切り替わった。
────────────────
素材を投入してください
────────────────
『なるほど』
『まず素材か』
そこで。
俺はアイテムボックスを開いた。
そして。
固まった。
『……』
沈黙。
『……あっ』
思い出した。
全部売った。
木材。
石材。
牙。
骨。
魔石。
素材類。
ほぼ全部。
売却済みである。
『あっ』
完全に思い出した。
魔王騒動の後。
施設解放。
買い物。
ガチャ。
魔晶石欲しい。
素材売ろう。
そんな流れだった。
『やらかしたぁぁぁ!!』
思わず叫んだ。
リリンがびくっとする。
「ま、まおーさま!?」
『素材全部売った』
「え?」
『全部売った』
「え?」
『スーパーストアで全部売った』
「えぇぇぇぇ!?」
モエが吹き出した。
「バカだ〜♡」
『うるさい』
「いやだって♡」
「タイミング最悪じゃん♡」
『うるさい』
二回言った。
大事な事なので二回言った。
俺は頭を抱える。
これ。
絶対重要施設だ。
領地発展の中心施設だ。
なのに。
素材がない。
『終わった……』
「終わってないよ♡」
モエは笑っていた。
「また集めればいいじゃん♡」
『それはそう』
正論だった。
悔しい。
だが正論だった。
ゼフィーも苦笑している。
「幸い探索場所はありますもの」
『だな』
俺は気を取り直して画面を確認する。
素材がないので作成はできない。
だが。
設計図だけは見られるらしい。
俺は一覧を眺める。
木製装備。
石製装備。
骨製装備。
家具。
生活用品。
農具。
工具。
さらに。
下へスクロールすると。
見た事もない名前が並んでいた。
魔鋼の剣。
魔晶装甲。
魔導家具。
飛行補助具。
『夢が広がるな……』
今は作れない。
だが。
将来的には作れるらしい。
『これは当たり施設だな』
武器。
防具。
家具。
生活用品。
全部ここで作れる。
領地運営との相性が良すぎる。
探索で素材を集める。
↓
魔工房で加工する。
↓
装備が増える。
↓
探索効率が上がる。
↓
さらに素材が増える。
完全な好循環だった。
『これは重要施設だ』
ゼフィーも頷く。
「ええ」
「恐らく領地発展の中核になりますわ」
『だろうな』
その時。
リリンが小さく手を挙げた。
「まおーさま」
『ん?』
「べっどもつくれますか?」
『あー』
検索する。
ベッド。
大量に出た。
木製ベッド。
豪華ベッド。
天蓋付きベッド。
魔導ベッド。
王族ベッド。
色々ある。
『作れるな』
「おぉ〜!」
リリンが嬉しそうに跳ねた。
『そんなに嬉しいのか?』
「もっとふかふかにしたいです!」
『なるほど』
女の子だった。
ベッドは重要らしい。
モエも便乗する。
「モエも〜♡」
「おっきいベッドほしい♡」
『お前の部屋十分豪華だろ』
「もっとほしい♡」
欲望に忠実だった。
俺は苦笑する。
だが。
悪くない。
夢が広がる施設だった。
問題は一つ。
『素材があればな……』
「頑張って集めようね♡」
『うるさい』
モエがケラケラ笑う。
俺は巨大な魔導錬成装置を見上げた。
今は何も作れない。
だが。
この施設は間違いなく重要だ。
素材集めの意味が一気に増えた。
どうやら。
しばらくは探索組に頑張ってもらう事になりそうだった。
『……いや』
『待てよ?』
俺はふと思った。
ゴブリン達は今。
住宅地を作ろうとしている。
広場の修理もある。
今のところ全部手作業だ。
木を切る。
運ぶ。
組み立てる。
石を積む。
当然時間がかかる。
だが。
俺は振り返る。
巨大な魔導錬成装置。
超大型3Dプリンター。
あれが使えれば話は別だ。
『素材さえあれば』
『家も家具も量産できるんじゃないか?』
家そのものは無理でも。
壁材。
柱。
床板。
扉。
窓。
そういった建材を生産できるなら話は変わる。
あとは組み立てるだけだ。
家の材料を生産して組み立てるだけなら効率が良さそうだ。
ゼフィーが頷く。
「可能性はありますわね」
「少なくとも普通の作業より遥かに効率は良いでしょう」
『だよな』
今のゴブリン達は。
木を切る。
運ぶ。
加工する。
組み立てる。
全て手作業だ。
だが。
建材の加工工程を飛ばせるなら。
住宅地の完成も、かなり早くなるはずだ。
『キャベツ達の村作り』
『こっち使った方が早そうだな』
今は素材不足で何もできない。
だが。
逆に言えば。
素材さえ集まればいい。
探索。
素材集め。
生産。
領地開拓。
綺麗に繋がっている。
『なるほどな』
俺は少し感心した。
素材は売るのが効率的だと思った。
だが。
違った。
領地を発展させる資源だ。
『……売らなきゃ良かった』
心の底から思った。
「また集めればいいよ〜♡」
『うるさい』
モエがケラケラ笑う。
俺はため息を吐いた。
どうやら。
素材集めの重要度が一気に上がったらしい。




