47話 命名
急遽やってきたゴブリン達を迎え入れた。
領民登録。
住宅地予定。
領民人気。
いきなり領地経営要素が増えたが、立ち止まっている暇はない。
今日のやる事を、こなしていこう。
『まずは……』
俺はスマホを開く。
魔王ストリート。
ログインボーナス画面が表示された。
【ログインボーナス】
【魔晶石×5】
『よし』
これは忘れない。
毎日貰えるものは貰う。
無料単発ガチャも確認してみる。
だが。
【現在ガチャは利用できません】
【運営による調整中です】
『だよなぁ……』
ガチャ禁止。
まだ継続中だった。
魔晶石はある。
回したい。
かなり回したい。
だが、異世界の魔王なんてものを引いた直後である。
運営が止めるのも分からなくはない。
『しばらく我慢だな』
次にSPを見る。
SPの消費は正直、魔王のごたごたから忘れていた。
だが魔王戦でSPの重要性を理解した。
無理に消費しなくてもいいだろう。
以前なら、スタミナは全部使い切るものだと思っていた。
ソシャゲ脳である。
だが。
この世界では違う。
SPは命綱だ。
『今日は無理に消費しなくていい』
石は割ってSP回復もできるしな。
やるべき事は他にもある。
新しい眷属の命名。
俺は思い出す。
魔王ガルンディアスと一緒に召喚された新しい眷属達。
まだ名前を付けていない奴がいる。
リザードマン。
灰羽カラス。
穴掘りモグラ。
『まずは新入りに名前を付けるか』
モエが目を輝かせた。
「おっ♡」
「命名タイム?」
『そうだな』
リリンも嬉しそうに頷く。
「なまえ……大事です」
「まおーさまに名前をもらうと、なんだか特別な感じがします……!」
ゼフィーは少し興味深そうにこちらを見る。
「魔王様の命名には、何かしらの効果があるようですものね」
『俺も詳しくは分かってないんだけどな』
スキル
【命名式】
パッシブスキル。命名した者の個性を強くし絆を深くする。
※ご褒美シーンが見れちゃうかも!
仲良くなるとドキドキするひと時がすごせちゃうぞ。
名前を付けると、個性が強くなる。
絆が深まる。
喋れるようになったり、妙な特徴が強く出たりする。
フランが女の子らしくなったのも。
コロが俺にべったりなのも。
完全に命名だけが原因とは言い切れない。
だが。
何かしら影響はしているはずだ。
『強くなるってより、キャラが濃くなる感じなんだよな……』
「キャラ?」
モエが首を傾げる。
『個性だ個性』
『名前を付けると、そいつらしさが強くなる』
「へぇ〜♡」
「スケベちゃん、意外とすごいじゃん♡」
『意外とは余計だ』
◇
まず前に出てきたのは、リザードマンだった。
背筋が伸びている。
槍を持ち、姿勢は綺麗。
鱗を持つ蜥蜴人。
人型ではあるが、魔物というより亜人に近い雰囲気がある。
真面目そうだ。
かなり真面目そうだ。
俺の前に立つと、片膝をついた。
「……」
言葉はない。
だが。
姿勢だけで分かる。
命令を待っている。
『お前は……』
俺は少し考える。
リザードマン。
リザード。
長い。
呼びやすさは大事だ。
『リザだ』
「……!」
リザードマンが顔を上げる。
『お前の名前はリザ』
『槍が得意そうだし、今後は前衛と護衛を任せる』
リザは胸に手を当てた。
そして、深く頭を下げる。
「リ……ザ……」
低く、硬い声だった。
まだぎこちない。
だが。
確かに自分の名前を口にした。
「リザ……拝命……」
『おぉ』
喋った。
少しだけだが、喋った。
ゼフィーが目を細める。
「やはり命名によって、意思疎通能力が強まるようですわね」
『っぽいな』
リザは真面目な顔のまま、槍を握り直す。
「命令……待つ」
『堅いな!?』
モエが笑う。
「真面目ちゃんだぁ♡」
リザはぴくりとも表情を変えない。
「真面目……任務」
『大丈夫かこいつ』
かなり堅い。
だが。
頼りにはなりそうだった。
◇
次は灰羽カラス。
灰色の羽を持つ大型のカラスだ。
大広間の柱の上に止まり、こちらを見下ろしている。
目が鋭い。
そして。
光る物を見ている。
さっきからモエの髪飾りを狙っていないか?
『おい』
「カァ」
『お前、今なんか盗ろうとしてないか?』
「カァ」
目を逸らした。
絶対していた。
『お前はハイロだ』
「カァ?」
『灰色だからハイロ』
『偵察担当だ』
灰羽カラスは首を傾げる。
そして。
翼を広げた。
「ハイ……ロ」
『おぉ』
こいつも喋った。
ただ。
声が少しガラガラしている。
「ハイロ……見る」
『見る?』
「遠く……見る」
そう言って、ハイロは窓の方へ飛んだ。
一瞬で高い位置へ移動する。
速い。
視界も広そうだ。
偵察要員としてはかなり優秀だろう。
◇
最後は穴掘りモグラ。
小柄。
丸い。
爪が大きい。
目は小さい。
土を掘るために生まれたような姿をしている。
大広間の床を見て、うずうずしていた。
『掘るなよ』
「モグ?」
『ここは掘るな』
「モグ……」
しょんぼりした。
分かりやすい。
『お前は……もぐたんだ』
「モグ!」
『土木担当な』
『住宅地作りで活躍してもらうぞ』
もぐたんは両手の爪を上げた。
「もぐたん!」
明るい声だった。
『お前は喋るの早いな』
「ほる!」
『掘るなって言っただろ!?』
「ほりたい!」
『欲望に素直すぎる』
フランが無言で近づく。
そして、もぐたんの隣に立った。
「……」
もぐたんがフランを見上げる。
「はこぶ?」
フランがこくりと頷く。
「……」
「ほる!」
「……」
「はこぶ!」
何か通じ合っていた。
『労働コンビが誕生したな……』
モエが手を叩いて笑う。
「かわい〜♡」
リリンもにこにこしている。
「ふたりとも、なかよしさんです……!」
ゼフィーは感心したように頷いた。
「土木作業と運搬作業」
「相性は良さそうですわね」
『だな』
住宅地作り。
地下倉庫。
避難路。
採掘場。
畑を耕す
穴掘りでできるのは、こんなもんか。
もぐたんの出番は多そうだった。
◇
新しい眷属三名の命名が終わった。
リザ。
ハイロ。
もぐたん。
それぞれに個性が出始めている。
命名式。
やはり効果はある。
すぐに強くなる訳ではない。
ステータスが跳ね上がる訳でもない。
だが。
自我。
言葉。
感情。
得意分野。
そういうものが前に出てくる。
『さて』
次が本題だ。
俺はゴブリン達を見る。
キャベツの後ろに並ぶ三十二匹。
まだ名前がない。
普通のゴブリン達だ。
領民であって、眷属ではない。
つまり、俺と直接の繋がりはない。
『こいつらに名前を付けたらどうなるか』
これはかなり重要な検証である。
領民にも命名式が効くなら。
今後、領地運営は大きく変わる。
働き者になる者。
戦闘が得意になる者。
農業が得意になる者。
大工になる者。
料理人になる者。
そういう個性が育つかもしれない。
『キャベツ』
「はい!」
『お前の部下達にも名前を付ける』
キャベツの目が見開かれた。
「よろしいのですか……!」
『ああ』
『番号みたいで悪いけどな』
「番号?」
キャベツが首を傾げる。
そうか。
英語は分からないのか。
モエ達もきょとんとしている。
『まあ、気にするな』
俺は一匹目のゴブリンを見る。
ゴブリンのG。数字の1。
『お前はジーワンだ』
「ギッ!?」
そのゴブリンが震えた。
そして、胸を叩く。
「ギギッ!」
念話越しに伝わる。
名前。
貰った。
嬉しい。
そんな感情。
『お、おう』
思ったより喜んでいる。
モエが笑う。
「ジーワンくん♡」
「なんか強そう♡」
『そうか?』
「うん♡」
『ただの一番なんだけどな』
「いちばん?」
『いや、なんでもない』
次のゴブリン。
『お前はジーツー』
「ゴブッ!」
『お前はジースリー』
「ギャッ!」
『ジーフォー』
『ジーファイブ』
『ジーシックス』
どんどん命名していく。
ゴブリン達はその度に喜んだ。
跳ねる。
胸を叩く。
頭を下げる。
中には泣いている奴もいる。
『そんなに嬉しいのか……』
キャベツが静かに言う。
「名前を頂くという事は、特別な事です」
『そうなのか?』
「はい」
「私も、名前を頂いた日を覚えています」
『……』
そう言われると、少し照れる。
俺は適当に付けたつもりだった。
キャベツ。
ピーマン。
ブモ。
カルシウム。
正直、ふざけた名前も多い。
だが。
本人達にとっては違うのだろう。
名前を貰う。
個として認められる。
それは、思っていたより大きな意味を持つらしい。
『……そっか』
俺は少しだけ真面目な気持ちになった。
そして。
また命名を続けた。
ジーセブン。
ジーエイト。
ジーナイン。
ジーテン。
ジーイレブン。
ジートゥエルブ。
途中で噛みそうになる。
『長いなこれ』
モエが吹き出した。
「自分で付けたんでしょ♡」
『そうなんだけどな』
さらに続ける。
ジーサーティー。
ジーサーティーワン。
アイスを連想してしまう名前だな。
最後。
俺は一番端にいたゴブリンを見る。
そいつは緊張で固まっていた。
『お前はジーサーティーツー』
「ギャアアアッ!」
大歓声。
本人だけでなく、周囲のゴブリン達も騒ぎ出した。
「ギギギ!」
「ゴブッ!」
「ギャッ!」
『長い名前で呼びづらいのに喜びすぎだろ』
リリンは目を輝かせていた。
「すてきです……!」
「みんな、なまえをもらえて嬉しそうです……!」
『名前の意味はかなり雑だけどな』
「でも、まおーさまがくれた名前です」
「だから、うれしいんだと思います」
『……』
そう言われると。
何も言えなかった。
◇
命名を終えた俺は、スマホを確認する。
すぐに派手な変化はない。
進化もしない。
喋れるようになった訳でもない。
『やっぱり眷属じゃないから意味ないか?』
だが。
念話越しに伝わる感情は、さっきより少しはっきりしていた。
ジーワン。
ジーツー。
ジースリー。
それぞれが、自分の名前を意識している。
まだ個性と呼ぶほどではない。
だが。
小さな芽のようなものはある。
『時間をかけて変わっていく感じか』
一日。
二日。
一週間。
一ヶ月。
生活していく中で、少しずつ個性が強くなるのかもしれない。
領民にも命名式は有効。
ただし。
眷属ほど早くはない。
『検証結果としては十分だな』
俺は小さく頷いた。
◇
名前を付け終えたところで、次は仕事の割り振りだ。
急に三十二人も増えた。
ただ飯を食わせるだけでは駄目だ。
領民として、しっかり働いてもらう。
『まず』
『スーパー銭湯とレストランの使用は許可する』
その瞬間。
ゴブリン達が意味がわかってなさそうだ。
「ギギ!?」
「ゴブ!?」
「ギャギャ!」
俺は続ける。
『働け』
空気が少し引き締まる。
『魔王に壊された広場の修理』
『施設周辺の整備』
『住宅地作り』
『この三つを優先する』
キャベツが胸を叩いた。
「お任せください!」
『ゴブリン全体の指揮はキャベツ』
「はい!」
『ピーマン』
「ふっ」
ピーマンがキメ顔を作る。
『お前はゴブリン十名を連れて森を探索』
「お任せを!」
やたら自信満々だった。
『ただし調子に乗るなよ』
「そ、そのような事は……」
リリンがじっと見る。
ピーマンの顔が赤くなった。
「……ありません!」
モエが笑う。
「ピーマンくん分かりやす〜♡」
ピーマンはキメ顔を崩さないよう必死だった。
『ハイロも連れていけ』
「カァ」
柱の上からハイロが返事する。
『索敵担当だ』
「見る」
『頼むぞ』
探索組には、重要な役目がある。
領民が戦闘に参加した場合。
ドロップは発生するのか。
経験値は入るのか。
レベルアップするのか。
戦闘後に回復するのか。
もし死んだ場合、SPで復活するのか。
『……最後はできれば確認したくないけどな』
死んだらどうなるか。
これは重要だ。
だが。
わざと試す気はない。
絶対にない。
領民は眷属ではない。
もし復活しなかったら終わりだ。
『無理はするな』
俺はピーマンを見る。
『危険だと思ったら逃げろ』
『検証より命優先だ』
ピーマンは少し驚いた顔をした。
そして。
真面目に頷く。
「承知しました」
いつものキメ顔ではなかった。
少しだけ頼もしかった。
◇
次にもぐたん。
『もぐたんは住宅地作りの下見だ』
「ほる!」
『まだ掘るな』
「ほりたい!」
『だからまだだって』
フランが無言で近づき、もぐたんの背中を軽く押さえた。
「……」
「ほれない!」
『助かる』
フランは小さく頷いた。
『フランはもぐたんと一緒に資材運搬』
「……」
こくり。
もぐたんが爪を振る。
「ほる!」
『あとでな』
『ちゃんと場所を決めてからだ』
「あとで!」
理解したらしい。
たぶん。
◇
リザは俺の前へ進み出た。
「命令……」
『リザは大広間と城門周辺の警備』
「了解」
『あとキャベツの補佐も頼む』
リザはキャベツを見る。
キャベツもリザを見る。
一瞬、空気が固まる。
熱血隊長。
生真面目副官。
『相性良さそうだな』
「そうでしょうか」
キャベツは少し不安そうだ。
リザは無表情で言う。
「規律……必要」
キャベツが背筋を伸ばす。
「は、はい!」
『もう副官っぽいな』
これはこれで上手くいきそうだった。
◇
指示を出し終えると、大広間が一気に動き出した。
キャベツがゴブリン達をまとめる。
ピーマンが探索組を選ぶ。
ハイロが天井近くを飛び回る。
もぐたんが床を掘ろうとしてフランに止められる。
リザが静かに配置を確認する。
モエは楽しそうに眺めている。
リリンはグミを抱きしめながら、にこにこしていた。
ゼフィーは満足そうに頷いている。
『……』
なんか。
本当に領地経営っぽくなってきた。
急に増えたゴブリン達。
新しい眷属。
命名式。
住宅地。
探索。
検証。
やる事は山ほどある。
だが。
昨日までとは違う。
動かせる人手がある。
任せられる部下がいる。
そして。
みんなが自分の役割を持ちはじめている。
『悪くないな』
俺は小さく呟いた。
スケベ大魔王領。
5日目。
俺の領地は、また少しだけ賑やかになった。




