↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
48/56

47話 命名

急遽やってきたゴブリン達を迎え入れた。


領民登録。


住宅地予定。


領民人気。


いきなり領地経営要素が増えたが、立ち止まっている暇はない。


今日のやる事を、こなしていこう。


『まずは……』


俺はスマホを開く。


魔王ストリート。


ログインボーナス画面が表示された。


【ログインボーナス】


【魔晶石×5】


『よし』


これは忘れない。


毎日貰えるものは貰う。


無料単発ガチャも確認してみる。


だが。


【現在ガチャは利用できません】


【運営による調整中です】


『だよなぁ……』


ガチャ禁止。


まだ継続中だった。


魔晶石はある。


回したい。


かなり回したい。


だが、異世界の魔王なんてものを引いた直後である。


運営が止めるのも分からなくはない。


『しばらく我慢だな』


次にSPを見る。


SP(スタミナポイント)の消費は正直、魔王のごたごたから忘れていた。


だが魔王戦でSPの重要性を理解した。


無理に消費しなくてもいいだろう。


以前なら、スタミナは全部使い切るものだと思っていた。


ソシャゲ脳である。


だが。


この世界では違う。


SPは命綱だ。


『今日は無理に消費しなくていい』


石は割ってSP回復もできるしな。


やるべき事は他にもある。


新しい眷属の命名。


俺は思い出す。


魔王ガルンディアスと一緒に召喚された新しい眷属達。


まだ名前を付けていない奴がいる。


リザードマン。


灰羽カラス。


穴掘りモグラ。


『まずは新入りに名前を付けるか』


モエが目を輝かせた。


「おっ♡」


「命名タイム?」


『そうだな』


リリンも嬉しそうに頷く。


「なまえ……大事です」


「まおーさまに名前をもらうと、なんだか特別な感じがします……!」


ゼフィーは少し興味深そうにこちらを見る。


「魔王様の命名には、何かしらの効果があるようですものね」


『俺も詳しくは分かってないんだけどな』




スキル


【命名式】


パッシブスキル。命名した者の個性を強くし絆を深くする。


※ご褒美シーンが見れちゃうかも!


仲良くなるとドキドキするひと時がすごせちゃうぞ。




名前を付けると、個性が強くなる。


絆が深まる。


喋れるようになったり、妙な特徴が強く出たりする。


フランが女の子らしくなったのも。


コロが俺にべったりなのも。


完全に命名だけが原因とは言い切れない。


だが。


何かしら影響はしているはずだ。


『強くなるってより、キャラが濃くなる感じなんだよな……』


「キャラ?」


モエが首を傾げる。


『個性だ個性』


『名前を付けると、そいつらしさが強くなる』


「へぇ〜♡」


「スケベちゃん、意外とすごいじゃん♡」


『意外とは余計だ』


◇


まず前に出てきたのは、リザードマンだった。


背筋が伸びている。


槍を持ち、姿勢は綺麗。


鱗を持つ蜥蜴人。


人型ではあるが、魔物というより亜人に近い雰囲気がある。


真面目そうだ。


かなり真面目そうだ。


俺の前に立つと、片膝をついた。


「……」


言葉はない。


だが。


姿勢だけで分かる。


命令を待っている。


『お前は……』


俺は少し考える。


リザードマン。


リザード。


長い。


呼びやすさは大事だ。


『リザだ』


「……!」


リザードマンが顔を上げる。


『お前の名前はリザ』


『槍が得意そうだし、今後は前衛と護衛を任せる』


リザは胸に手を当てた。


そして、深く頭を下げる。


「リ……ザ……」


低く、硬い声だった。


まだぎこちない。


だが。


確かに自分の名前を口にした。


「リザ……拝命……」


『おぉ』


喋った。


少しだけだが、喋った。


ゼフィーが目を細める。


「やはり命名によって、意思疎通能力が強まるようですわね」


『っぽいな』


リザは真面目な顔のまま、槍を握り直す。


「命令……待つ」


『堅いな!?』


モエが笑う。


「真面目ちゃんだぁ♡」


リザはぴくりとも表情を変えない。


「真面目……任務」


『大丈夫かこいつ』


かなり堅い。


だが。


頼りにはなりそうだった。


◇


次は灰羽カラス。


灰色の羽を持つ大型のカラスだ。


大広間の柱の上に止まり、こちらを見下ろしている。


目が鋭い。


そして。


光る物を見ている。


さっきからモエの髪飾りを狙っていないか?


『おい』


「カァ」


『お前、今なんか盗ろうとしてないか?』


「カァ」


目を逸らした。


絶対していた。


『お前はハイロだ』


「カァ?」


『灰色だからハイロ』


『偵察担当だ』


灰羽カラスは首を傾げる。


そして。


翼を広げた。


「ハイ……ロ」


『おぉ』


こいつも喋った。


ただ。


声が少しガラガラしている。


「ハイロ……見る」


『見る?』


「遠く……見る」


そう言って、ハイロは窓の方へ飛んだ。


一瞬で高い位置へ移動する。


速い。


視界も広そうだ。


偵察要員としてはかなり優秀だろう。


◇


最後は穴掘りモグラ。


小柄。


丸い。


爪が大きい。


目は小さい。


土を掘るために生まれたような姿をしている。


大広間の床を見て、うずうずしていた。


『掘るなよ』


「モグ?」


『ここは掘るな』


「モグ……」


しょんぼりした。


分かりやすい。


『お前は……もぐたんだ』


「モグ!」


『土木担当な』


『住宅地作りで活躍してもらうぞ』


もぐたんは両手の爪を上げた。


「もぐたん!」


明るい声だった。


『お前は喋るの早いな』


「ほる!」


『掘るなって言っただろ!?』


「ほりたい!」


『欲望に素直すぎる』


フランが無言で近づく。


そして、もぐたんの隣に立った。


「……」


もぐたんがフランを見上げる。


「はこぶ?」


フランがこくりと頷く。


「……」


「ほる!」


「……」


「はこぶ!」


何か通じ合っていた。


『労働コンビが誕生したな……』


モエが手を叩いて笑う。


「かわい〜♡」


リリンもにこにこしている。


「ふたりとも、なかよしさんです……!」


ゼフィーは感心したように頷いた。


「土木作業と運搬作業」


「相性は良さそうですわね」


『だな』


住宅地作り。


地下倉庫。


避難路。


採掘場。


畑を耕す


穴掘りでできるのは、こんなもんか。


もぐたんの出番は多そうだった。


◇


新しい眷属三名の命名が終わった。


リザ。


ハイロ。


もぐたん。


それぞれに個性が出始めている。


命名式。


やはり効果はある。


すぐに強くなる訳ではない。


ステータスが跳ね上がる訳でもない。


だが。


自我。


言葉。


感情。


得意分野。


そういうものが前に出てくる。


『さて』


次が本題だ。


俺はゴブリン達を見る。


キャベツの後ろに並ぶ三十二匹。


まだ名前がない。


普通のゴブリン達だ。


領民であって、眷属ではない。


つまり、俺と直接の繋がりはない。


『こいつらに名前を付けたらどうなるか』


これはかなり重要な検証である。


領民にも命名式が効くなら。


今後、領地運営は大きく変わる。


働き者になる者。


戦闘が得意になる者。


農業が得意になる者。


大工になる者。


料理人になる者。


そういう個性が育つかもしれない。


『キャベツ』


「はい!」


『お前の部下達にも名前を付ける』


キャベツの目が見開かれた。


「よろしいのですか……!」


『ああ』


『番号みたいで悪いけどな』


「番号?」


キャベツが首を傾げる。


そうか。


英語は分からないのか。


モエ達もきょとんとしている。


『まあ、気にするな』


俺は一匹目のゴブリンを見る。


ゴブリンのG。数字の1。


『お前はジーワンだ』


「ギッ!?」


そのゴブリンが震えた。


そして、胸を叩く。


「ギギッ!」


念話越しに伝わる。


名前。


貰った。


嬉しい。


そんな感情。


『お、おう』


思ったより喜んでいる。


モエが笑う。


「ジーワンくん♡」


「なんか強そう♡」


『そうか?』


「うん♡」


『ただの一番なんだけどな』


「いちばん?」


『いや、なんでもない』


次のゴブリン。


『お前はジーツー』


「ゴブッ!」


『お前はジースリー』


「ギャッ!」


『ジーフォー』


『ジーファイブ』


『ジーシックス』


どんどん命名していく。


ゴブリン達はその度に喜んだ。


跳ねる。


胸を叩く。


頭を下げる。


中には泣いている奴もいる。


『そんなに嬉しいのか……』


キャベツが静かに言う。


「名前を頂くという事は、特別な事です」


『そうなのか?』


「はい」


「私も、名前を頂いた日を覚えています」


『……』


そう言われると、少し照れる。


俺は適当に付けたつもりだった。


キャベツ。


ピーマン。


ブモ。


カルシウム。


正直、ふざけた名前も多い。


だが。


本人達にとっては違うのだろう。


名前を貰う。


個として認められる。


それは、思っていたより大きな意味を持つらしい。


『……そっか』


俺は少しだけ真面目な気持ちになった。


そして。


また命名を続けた。


ジーセブン。


ジーエイト。


ジーナイン。


ジーテン。


ジーイレブン。


ジートゥエルブ。


途中で噛みそうになる。


『長いなこれ』


モエが吹き出した。


「自分で付けたんでしょ♡」


『そうなんだけどな』


さらに続ける。


ジーサーティー。


ジーサーティーワン。


アイスを連想してしまう名前だな。


最後。


俺は一番端にいたゴブリンを見る。


そいつは緊張で固まっていた。


『お前はジーサーティーツー』


「ギャアアアッ!」


大歓声。


本人だけでなく、周囲のゴブリン達も騒ぎ出した。


「ギギギ!」


「ゴブッ!」


「ギャッ!」


『長い名前で呼びづらいのに喜びすぎだろ』


リリンは目を輝かせていた。


「すてきです……!」


「みんな、なまえをもらえて嬉しそうです……!」


『名前の意味はかなり雑だけどな』


「でも、まおーさまがくれた名前です」


「だから、うれしいんだと思います」


『……』


そう言われると。


何も言えなかった。


◇


命名を終えた俺は、スマホを確認する。


すぐに派手な変化はない。


進化もしない。


喋れるようになった訳でもない。


『やっぱり眷属じゃないから意味ないか?』


だが。


念話越しに伝わる感情は、さっきより少しはっきりしていた。


ジーワン。


ジーツー。


ジースリー。


それぞれが、自分の名前を意識している。


まだ個性と呼ぶほどではない。


だが。


小さな芽のようなものはある。


『時間をかけて変わっていく感じか』


一日。


二日。


一週間。


一ヶ月。


生活していく中で、少しずつ個性が強くなるのかもしれない。


領民にも命名式は有効。


ただし。


眷属ほど早くはない。


『検証結果としては十分だな』


俺は小さく頷いた。


◇


名前を付け終えたところで、次は仕事の割り振りだ。


急に三十二人も増えた。


ただ飯を食わせるだけでは駄目だ。


領民として、しっかり働いてもらう。


『まず』


『スーパー銭湯とレストランの使用は許可する』


その瞬間。


ゴブリン達が意味がわかってなさそうだ。


「ギギ!?」


「ゴブ!?」


「ギャギャ!」


俺は続ける。


『働け』


空気が少し引き締まる。


『魔王に壊された広場の修理』


『施設周辺の整備』


『住宅地作り』


『この三つを優先する』


キャベツが胸を叩いた。


「お任せください!」


『ゴブリン全体の指揮はキャベツ』


「はい!」


『ピーマン』


「ふっ」


ピーマンがキメ顔を作る。


『お前はゴブリン十名を連れて森を探索』


「お任せを!」


やたら自信満々だった。


『ただし調子に乗るなよ』


「そ、そのような事は……」


リリンがじっと見る。


ピーマンの顔が赤くなった。


「……ありません!」


モエが笑う。


「ピーマンくん分かりやす〜♡」


ピーマンはキメ顔を崩さないよう必死だった。


『ハイロも連れていけ』


「カァ」


柱の上からハイロが返事する。


『索敵担当だ』


「見る」


『頼むぞ』


探索組には、重要な役目がある。


領民が戦闘に参加した場合。


ドロップは発生するのか。


経験値は入るのか。


レベルアップするのか。


戦闘後に回復するのか。


もし死んだ場合、SPで復活するのか。


『……最後はできれば確認したくないけどな』


死んだらどうなるか。


これは重要だ。


だが。


わざと試す気はない。


絶対にない。


領民は眷属ではない。


もし復活しなかったら終わりだ。


『無理はするな』


俺はピーマンを見る。


『危険だと思ったら逃げろ』


『検証より命優先だ』


ピーマンは少し驚いた顔をした。


そして。


真面目に頷く。


「承知しました」


いつものキメ顔ではなかった。


少しだけ頼もしかった。


◇


次にもぐたん。


『もぐたんは住宅地作りの下見だ』


「ほる!」


『まだ掘るな』


「ほりたい!」


『だからまだだって』


フランが無言で近づき、もぐたんの背中を軽く押さえた。


「……」


「ほれない!」


『助かる』


フランは小さく頷いた。


『フランはもぐたんと一緒に資材運搬』


「……」


こくり。


もぐたんが爪を振る。


「ほる!」


『あとでな』


『ちゃんと場所を決めてからだ』


「あとで!」


理解したらしい。


たぶん。


◇


リザは俺の前へ進み出た。


「命令……」


『リザは大広間と城門周辺の警備』


「了解」


『あとキャベツの補佐も頼む』


リザはキャベツを見る。


キャベツもリザを見る。


一瞬、空気が固まる。


熱血隊長。


生真面目副官。


『相性良さそうだな』


「そうでしょうか」


キャベツは少し不安そうだ。


リザは無表情で言う。


「規律……必要」


キャベツが背筋を伸ばす。


「は、はい!」


『もう副官っぽいな』


これはこれで上手くいきそうだった。


◇


指示を出し終えると、大広間が一気に動き出した。


キャベツがゴブリン達をまとめる。


ピーマンが探索組を選ぶ。


ハイロが天井近くを飛び回る。


もぐたんが床を掘ろうとしてフランに止められる。


リザが静かに配置を確認する。


モエは楽しそうに眺めている。


リリンはグミを抱きしめながら、にこにこしていた。


ゼフィーは満足そうに頷いている。


『……』


なんか。


本当に領地経営っぽくなってきた。


急に増えたゴブリン達。


新しい眷属。


命名式。


住宅地。


探索。


検証。


やる事は山ほどある。


だが。


昨日までとは違う。


動かせる人手がある。


任せられる部下がいる。


そして。


みんなが自分の役割を持ちはじめている。


『悪くないな』


俺は小さく呟いた。


スケベ大魔王領。


5日目。


俺の領地は、また少しだけ賑やかになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。