46話 領民
ゴブリン達との再会を喜んでいた。
その時だった。
ピコン♪
聞き慣れた通知音が鳴る。
『ん?』
俺はスマホを見る。
新しい画面が表示されていた。
────────────────
【領民勧誘】
ゴブリン達が領民になりたそうにこちらを見ている。
領民にしますか?
〈Yes〉
〈No〉
※領民は微量の魔素を吸収され、城の維持運営に利用されます。
食堂の食事や大浴場などで回復可能です。
問題ありません。
────────────────
『ああ』
そういえば。
以前そんなクエストが出ていた。
────────────────
【イベントクエスト】
【領内の侵入者に対処せよ】
獲得した領内に、魔族・魔物などの敵対反応を確認。
敵対対象を、
・退治
・追放
・説得
・懐柔
・勧誘
などの方法で排除、または領民化せよ。
────────────────
『なるほどな……』
俺は改めて説明文を読む。
領民。
ただ住ませるだけではない。
魔素を徴収する。
その魔素を城の維持運営に利用する。
つまり――。
『税金みたいなもんか』
領民から少しずつ魔素を集める。
その魔素で施設を維持する。
食堂を動かす。
風呂を動かす。
城を維持する。
街灯を灯す。
そういう事だろう。
『領民が増える』
↓
『徴収できる魔素が増える』
↓
『領地が発展する』
↓
『さらに領民が増える』
『……』
完全に領地経営ゲームだった。
最近もう魔王ストリートじゃなくなってきている気がする。
領主ストリートである。
いや。
町長ストリートかもしれない。
『運営、絶対ノリで機能追加してるだろ』
そんな事を呟きながら説明を読み進める。
すると。
さらに下に文章が続いていた。
────────────────
贈り物や会話によって好感度が上昇します。
領民の悩みを解決するとさらに好感度が上昇します。
────────────────
『ん?』
『好感度?』
俺は思わず二度見した。
好感度。
ゲームでよく見る言葉だ。
だが。
領地経営で出てくるとは思わなかった。
『領民の好感度……』
『つまり住民満足度か?』
さらに。
ピコン♪
新しい画面が開く。
────────────────
【領地発展クエスト】
領民人気を100%にしよう!
現在:0%
報酬:魔晶石×1000
────────────────
『おぉ……』
俺は少し感心した。
便利だった。
かなり便利だった。
普通なら分からない。
領民が満足しているのか。
不満を抱いているのか。
裏で悪口を言われているのか。
革命を考えているのか。
そんなもの普通は見えない。
だが。
このシステムは違う。
数字で見える。
現在何%なのか。
あとどれくらいなのか。
全部分かる。
『どうやって計測してるんだこれ』
魔法なのか。
運営なのか。
考えても分からない。
だが。
機能としては優秀だった。
非常に優秀だった。
『人気が高い』
↓
『不満が少ない』
↓
『揉め事が少ない』
↓
『裏切りも起きにくい』
↓
『領地が安定する』
『……』
思わず感心する。
これ。
かなり重要な情報じゃないか?
王様や領主が一番欲しい能力かもしれない。
民衆の本音。
それが数値で分かる。
革命前に察知できる。
反乱前に気付ける。
治安悪化も分かる。
領地運営チートだった。
『便利すぎるだろ』
モエが首を傾げる。
「どうしたの〜?」
『いや』
『また変な機能が増えた』
「運営?」
昨夜モエの部屋で情報共有したので。
モエはしっかり理解している。
『たぶんな』
「また面倒そう?」
『いや』
『今回は便利そうだ』
「おぉ〜♡」
モエはよく分かっていない顔で拍手した。
リリンも首を傾げる。
「りょうみん……?」
「みんな、このお城の住人になるって事ですか?」
『いや、城の中に住むのは俺と眷属だけだ』
『施設の周りに住宅地を自分達で作らせよう』
そんな事を言いながら。
俺はゴブリン達を見る。
キャベツ達は緊張した顔をしていた。
「魔王様」
「私達は……」
後ろのゴブリン達も不安そうだ。
『……』
キャベツ達を見る。
三十人以上。
全員がこちらを見ていた。
期待。
不安。
緊張。
そんな感情が入り混じった顔だった。
考えてみれば当然だ。
今までは森で暮らしていた。
群れを作り。
狩りをして。
その日その日を生きていた。
だが。
これからは違う。
領地。
城。
施設。
ルール。
生活。
全部が変わる。
キャベツが口を開く。
「魔王様」
「私達は……」
後ろのゴブリン達も不安そうだった。
だが。
彼らは言葉を喋れない。
聞こえるのは。
「ギギ……」
「ゴブ……」
そんな声だけだ。
しかし。
念話を通して伝わってくる。
住んでいいのか。
追い出されないのか。
ここにいてもいいのか。
そんな不安が。
なんとなく分かった。
『……』
俺はゴブリン達を見る。
三十匹以上。
全員がこちらを見ていた。
期待。
不安。
緊張。
色んな感情が混ざっている。
『当たり前だろ』
俺は笑った。
『そのための領地だ』
ゴブリン達がざわつく。
「ギッ!」
「ゴブ!」
「ギギギ!」
歓声らしい。
たぶん。
『ただし』
俺は続ける。
『城の中に住むのは俺と眷属だけだ』
一瞬。
空気が固まった。
「ゴ……」
「ギ?」
しょんぼりした空気になる。
分かりやすい。
『安心しろ』
『追い出す訳じゃない』
『施設の周囲に住宅地を作る』
『お前達でな』
その瞬間。
念話越しに喜びが伝わってきた。
家。
安全な寝床。
仲間との暮らし。
そんな感情が一気に溢れる。
「ギャアア!」
「ゴブッ!」
「ギギギギ!」
一気に騒がしくなる。
モエが小さく笑った。
「スケベちゃん」
『なんだ』
「領主っぽい♡」
『そうか?』
「今のは結構それっぽかったよ♡」
リリンも嬉しそうに頷く。
「みなさん、喜んでます……!」
『だな』
実際かなり喜んでいた。
中には泣きそうな顔をしているゴブリンまでいる。
『そんなに嬉しいのか?』
そう思ったが。
よく考えれば当然だった。
安全な住処。
温かい食事。
風呂。
仲間。
それが保証されるのだ。
むしろ喜ばない方がおかしい。
ゼフィーが静かに微笑む。
「良い判断ですわ」
『そうか?』
「ええ」
「領地とは城だけではありません」
「人が住み」
「働き」
「生活して初めて領地になります」
『……』
なるほど。
言われてみればその通りだ。
今までは城だった。
だが。
これからは違う。
住宅地ができる。
住民が増える。
畑もできる。
店もできる。
子供だって生まれるかもしれない。
『本当に国みたいになってきたな……』
俺は思わずそう呟いた。
そしてスマホへ視線を落とす。
光る〈Yes〉ボタン。
どう考えても答えは決まっていた。
『よし』
俺は迷わずボタンを押した。
【Yes】
ピコン♪
────────────────
領民登録完了
登録人数:32
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次の瞬間。
ゴブリン達の身体が淡く光った。
「ギャギャ……」
「グギギ……」
「ギギ……」
どうやら何か感じるらしい。
すると。
キャベツが片膝をつく。
「ありがとうございます」
後ろのゴブリン達も続く。
一斉に。
頭を下げた。
『お、おう』
なんか照れる。
すると。
ピコン♪
また通知。
────────────────
領民人気
0% → 3%
────────────────
『上がった』
「上がったね♡」
モエが笑う。
『……3%だけどな』
「少ないの?」
『少ない』
かなり少ない。
三十二人も領民になった。
喜んでいた。
頭まで下げていた。
なのに三%。
『厳しくないか運営』
だが。
少し考えて納得した。
領内にはまだ敵対反応が残っている。
住宅地もない。
畑もない。
領民になったばかりだ。
それに。
人気というより。
これは領地全体の幸福度なのだろう。
三十二人が喜んでも。
領地そのものが発展していなければ数字は伸びない。
『先は長そうだな』
最初は一人だった。
猫だった。
森だった。
だが今は違う。
城がある。
仲間がいる。
領民がいる。
気付けば。
本当に領主みたいになっていた。
『……』
『責任重大だな』
俺は少しだけ苦笑した。
だが。
悪い気分ではなかった。




