45話 最初の眷属
朝。
俺はゆっくり目を覚ました。
柔らかい感触。
甘い香り。
ふかふかのベッド。
『……』
見覚えのある天井。
ピンクと黒。
キラキラした小物。
観葉植物。
クッション。
『モエの部屋か』
昨夜の事を思い出す。
色々話した。
かなり話した。
なんなら少し話しすぎた気もする。
『……』
恥ずかしい。
今になって恥ずかしい。
何故だろう。
昨夜は平気だった。
むしろ勢いで喋っていた。
だが。
朝になると駄目だった。
思い出してしまう。
人間だった頃の事。
別に隠しているわけではない。
異世界から来た事。
愚痴。
不安。
色々。
『これが賢者タイムか……』
たぶん違う。
でもそんな気分だった。
ベッドから身体を起こす。
すると。
「おはよ♡」
モエが振り返った。
既に着替えている。
いつもの服。
いつもの笑顔。
いつものモエだった。
だが。
『……』
なんとなく。
少しだけ。
優しい気がした。
気のせいだろうか。
「なに〜?」
『いや』
『なんでもない』
「変なの♡」
モエは笑う。
だが。
その笑顔も少し柔らかい。
昨夜の話を聞いたからだろうか。
それとも。
俺の気のせいだろうか。
よく分からなかった。
「はい♡」
ひょいっ。
『おわっ』
モエが俺を抱き上げる。
当然のように。
自然な動作で。
『自分で歩けるんだが……』
「だってスケベちゃん軽いし♡」
『理由になってない』
「かわいいし♡」
『そうかもな』
モエがケラケラ笑う。
だって猫はかわいいもんだろ。
そして。
そのまま部屋を出た。
広い廊下。
巨大な魔王城。
朝の静かな空気。
魔導灯が淡く光っている。
遠くから声が聞こえる。
賑やかな声。
誰かが笑っている。
誰かが騒いでいる。
『大広間か』
「うん♡」
「みんな集まってると思うよ」
昨日は色々ありすぎた。
魔王。
運営。
死と復活。
買い物。
温泉。
だが。
今日からはまた日常だ。
領地運営。
敵対反応。
施設確認。
やる事は山ほどある。
『……』
俺は小さく息を吐く。
そして。
モエの腕の中で少しだけ身体の力を抜いた。
「ん?」
『いや』
『今日も頑張るか』
モエが笑う。
「うん♡」
「頑張ろう、スケベちゃん♡」
そうして俺達は大広間の扉を開いた。
ギィィ――。
重厚な扉が開く。
そして。
『……ん?』
大広間の中央。
そこには見慣れない集団がいた。
ゴブリン。
大量のゴブリンである。
二十。
いや。
三十匹近い。
『攻めてきた!?』
城とスマホの機能を全て把握しているわけではないが、
扉がしまったり、警報音がなったり
敵対反応の通知がきたりしそうなものだ。
だが何もなかった。
敵じゃないのか?
普通のゴブリン達の中に明らかに他と違う奴がいる。
身体つきが良い。
武器も持っている
身長は百八十センチ近い。
耳は尖っている。
肌は緑色。
だが。
顔立ちはゴブリンというより人間に近かった。
『……ホブゴブリン?』
ん……?もしかして――
その瞬間。
こちらに気付いたらしい。
大柄なゴブリンが片膝をつく。
そして。
後ろのゴブリン達も一斉に膝をついた。
『おぉ……』
なんか軍隊っぽい。
周囲を見る。
ブモが腕を組んで警戒している。
ガウも低く唸っていた。
カルシウムは剣へ手を伸ばしている。
だが。
ゴブリン達から敵意は感じない。
むしろ。
敬意すら感じる。
『話せそうだな』
俺はモエの腕から降りる。
そして。
ゴブリンの前へ進んだ。
『お前達は?』
すると。
大柄なゴブリンが顔を上げた。
そして。
聞き覚えのある声で言う。
「お久しぶりです」
『……ん?』
「魔王様」
『え?』
「キャベツです」
『……やっぱりキャベツか』
思った通りだった。
だが。
それでも驚く。
最初に会った時の面影はある。
だが。
成長しすぎだった。
「えぇぇぇ♡」
モエが目を丸くする。
「キャベツくん!?」
「めっちゃ大きくなってる♡」
リリンも驚いていた。
「ほ、本当にキャベツさんですか……?」
「別人みたいです……!」
ゼフィーは静かに頷く。
「見事な進化ですわね」
「ホブゴブリンですか」
「ゴブリン種の上位個体ですわ」
『やっぱりそうなのか』
「ええ」
「順当に成長したのでしょう」
「恐縮です」
以前より流暢に話している。
姿勢も堂々としていた。
その後ろでは。
見覚えのあるゴブリンアーチャーも立っている。
『ピーマンもいるじゃねぇか』
「ふっ」
ピーマンがキメ顔を作る。
いつも通りだった。
少し安心する。
キャベツが説明を始める。
どうやら。
ピーマンと共に順調に周辺のゴブリン達をまとめていたらしい。
そこへ。
突然の地形変化。
巨大な城。
新施設。
拡張された領地。
何事かと思い確認へ戻ってきたそうだ。
『それにしても……』
俺は周囲を見回す。
30人近いゴブリン達。
整列。
統率。
武装。
『二日でよくここまでまとめたな』
素直な感想だった。
キャベツは少しだけ胸を張る。
「魔王様から頼まれましたので!」
「絶対にやり遂げようと思いました!」
『おぉ……』
なんか隊長っぽい。
成長している。
かなり成長している。
だが。
そんなキャベツの表情が少し曇った。
「私達がいない間に何があったのでしょうか?」
『あー』
キャベツ達と別れてからのことを説明してやった。
城の増築。
新施設の解放。
運営との接触。
魔王召喚。
そして死と復活。
キャベツは拳を握る。
悔しそうだった。
本気で。
「お守りできず……」
『いや』
俺は首を振った。
『仕方ないだろ』
『お前にはお前の仕事があった』
『結果的に無事だったしな』
キャベツは黙る。
俺は続けた。
『だから気にするな』
『その代わり』
『これから頑張れ』
キャベツは顔を上げた。
そして。
力強く頷く。
「はい!」
その返事に。
周囲のゴブリン達も一斉に胸を叩いた。
ドンッ!
『おぉ……』
なんか本格的に軍団っぽくなってきたな。
俺はキャベツを見る。
最初の十連ガチャ。
一番最初に召喚された☆1ゴブリン。
名前を与え。
共に戦い。
ダブりで進化し。
今ではホブゴブリンとなり。
三十二人もの部下を率いている。
『……』
まさか。
あの時のゴブリンが。
ここまで成長するとは思わなかった。
『感慨深いもんだな』
キャベツはそんな俺の視線に気付いたのか。
少しだけ照れくさそうに頭を掻いた。
「まだまだです」
「これからもっと仲間を増やします」
『お、おう』
俺は少しだけ苦笑する。
頼もしい。
本当に頼もしい。
最初の眷属は。
俺が思っていた以上に成長していた。




