39話 全回復
魔王との凄まじい戦闘が終わった。
運営に、
異世界の魔王、断角王ガルンディアス。
とんでもないものを引いた
城だけでなく召喚まで何でもありになっていた。
プレイヤーレベルが上がって俺の能力が強くなった影響だろうか?
魔王との戦闘は圧倒的だった。
まさに“魔王”そのものだった。
しかも。
最後には運営と意味深なやり取りまでして消えていった。
残されたのは。
砕けた広場。
崩れた石畳。
焼け焦げた地面。
そして――。
『……はぁ』
全身から力が抜けた。
張り詰めていた緊張が、一気に切れる。
脚に力が入らない。
その場へ崩れ落ちた。
『し、死ぬかと思った……』
心臓がうるさい。
頭もクラクラする。
呼吸も乱れていた。
いや。
猫だけど。
とにかく限界だった。
「スケベちゃん……!」
モエがふらつきながら近づいてくる。
衣装はボロボロ。
髪も乱れていた。
リリンも肩で息をしている。
「ま、魔王さま……」
ゼフィーですら壁へ手をつき、息を整えていた。
「……とんでもない相手でしたわね」
いつもの余裕がない。
それだけで、どれほど異常な戦いだったか分かる。
『……』
だが。
そこで俺の頭が急速に冷えた。
『待て』
『みんなは!?』
慌てて立ち上がる。
まだ確認していない。
被害を。
眷属達を。
『ガウ!』
ガウは倒れていた。
だが。
呼吸はある。
『よ、よかった……』
ブモも地面へ座り込んでいた。
全身血だらけだが、生きている。
カルシウムも骨がかなり砕けていたが、なんとか動いていた。
「カ……タ……」
『無理すんな!!』
だが。
次の瞬間。
俺は言葉を失った。
『……え』
コロが動かない。
地面へ倒れたまま。
血を流し。
ぴくりとも動かない。
『コロ……?』
近づく。
揺する。
反応がない。
『おい』
『おいコロ』
返事がない。
いつもなら尻尾を振る。
名前を呼ぶだけで飛びついてくる。
なのに。
動かない。
『うそだろ……?』
さらに。
ホネ。
骨がバラバラになって散らばっている。
頭蓋骨だけが転がっていた。
オバッキーは黒く萎びていた。
胞子も出ていない。
グミは半分潰れている。
ぷるぷるすらしていなかった。
ちび助は壁際で倒れていた。
いつもみたいに悪態をつかない。
ピクリとも動かない。
そして――。
『フラン……』
言葉が詰まる。
フランの身体は。
バラバラだった。
腕。
脚。
胴体。
砕けた身体が、広場へ散らばっている。
無言。
いつも通り。
静かなまま。
『そんな……』
頭が真っ白になる。
死んだ。
みんな。
死んだ。
『俺の……せいだ』
無茶をさせた。
相手が悪すぎた。
もっと逃げるべきだった。
もっと慎重なら。
胸が締め付けられる。
吐き気がした。
リリンが震えている。
「う、うそ……」
モエも泣きそうな顔になっていた。
「そんな……」
ゼフィーが静かに目を伏せる。
誰も言葉を出せない。
その時だった。
スマホが光る。
『……?』
画面が自動で開いた。
そして。
そこに表示された文字を見て。
俺は固まった。
【戦闘終了】
次の瞬間。
眩い光が広場を包み込んだ。
『っ!?』
コロの身体が光る。
ホネの骨が浮かび上がる。
オバッキーが胞子を散らす。
グミがぷるぷる震える。
ちび助の身体が淡く発光する。
そして。
フランの身体。
散らばっていた肉体が、黒紫の光に包まれた。
腕が戻る。
脚が繋がる。
裂けた身体が再生していく。
『え……』
次の瞬間。
コロが目を開いた。
「クゥン?」
『……コロ?』
ホネの骨がガシャガシャ組み上がる。
「カタカタッ!!」
オバッキーがふよふよ浮かぶ。
グミが跳ねた。
「ぷるっ!」
ちび助が咳き込む。
「げほっ!? いてぇぇぇ!!」
そして。
フランが、ゆっくり立ち上がった。
「……」
いつもの無表情。
だが。
確かに動いている。
『生き返ったぁぁぁ!?』
思わず叫んだ。
リリンが泣きながらグミを抱きしめる。
モエはコロへ飛びついた。
「よかったぁぁぁ!!」
ゼフィーが目を見開いている。
「これは……」
「蘇生……?」
俺は呆然とスマホを見る。
そこには追加説明が表示されていた。
【戦闘終了時、眷属は全回復します】
【死亡状態も含みます】
『……』
頭が真っ白だった。
抜け落ちていた。
戦闘終了で全回復。
つまり。
死んでも。
蘇る。
『いや、分かるかぁぁぁ!!』
そんな仕様。
普通思わないだろ。
眷属が戦闘で死亡したのは初めてだ。
今までずっと無事だった。
だから。
死んだら終わりだと思っていた。
『び、びっくりした……』
全身から力が抜ける。
腰が砕けそうだった。
コロが近寄ってくる。
「クゥン?」
心配そうに、みつめてきた。
『お前ぇぇぇ……』
コロが不安そうにすり寄ってくる。
生きてる。
温かい。
いや。
コボルトだから体温高い。
とにかく生きてる。
『よかったぁぁぁ……』
ホネはカタカタ鳴いている。
オバッキーは胞子を撒き散らしていた。
ちび助は。
「チッ……死ぬかと思ったぜ……」
とか言いながら震えていた。
いや、死んでただろお前。
フランは何事もなかったように、自分の腕を拾って確認している。
安心した。
本当に。
心の底から。
安心した。
ソシャゲでは。
戦闘中にHPがゼロになっても、戦闘終了後には全回復している。
それがセオリーだ。
だから。
理屈としては分かる。
だが――。
『死んでも全回復するとは思わないだろ普通……』
傷の回復と同じで。
死亡しても全回復するなんて。
思いついても眷属に
『試しに一回死んでみろ』
なんて言える訳がない。
普通にトラウマになる。
『……でも』
俺はスマホを見る。
死んでも蘇る。
これは。
とんでもない能力だ。
『死を覆す』
それだけでも異常なのに。
もっと恐ろしい事へ気づいてしまった。
『これ……戦略が変わるぞ』
頭が冷えていく。
戦術。
編成。
運用。
ゲーム脳が勝手に計算を始めてしまう。
死を覚悟した兵士は強い。
現実でも。
物語でも。
歴史でも。
“死ぬ前提”の特攻は、とんでもない戦果を生み出す事がある。
しかも。
俺の眷属は。
死んでも戻ってくる。
SPさえあれば。
『……』
嫌な想像をしてしまった。
ブモが敵陣へ突っ込む。
ガウが相打ち覚悟で噛みつく。
リリン達が限界以上の魔法を撃つ。
全滅前提の総攻撃。
そして。
戦闘終了後、全回復。
『いや待て待て待て』
危険だ。
この能力。
思想まで狂わせる。
しかも俺には、魔晶石がある。
石を割ればSP回復。
SPが戻れば復活可能。
理論上。
死を前提とした特攻隊が成立してしまう。
『……俺の眷属、とんでもねぇな』
声が乾く。
普通なら成立しない。
死ねば終わりだからだ。
だが。
俺の眷属は違う。
この世界の常識を破壊している。
運営。
混沌神。
あいつは。
こんな能力を、俺へ与えた。
『……』
だが。
俺は静かに首を振った。
『駄目だ』
そんな使い方。
したくない。
確かに合理的かもしれない。
強いかもしれない。
でも。
コロが死んで動かなくなった時。
ホネがバラバラになった時。
フランの身体が砕け散った時。
俺は、本気で怖かった。
苦しかった。
二度と見たくないと思った。
復活するから平気。
そんな簡単な話じゃない。
痛みも。
恐怖も。
死ぬ瞬間の感覚も。
全部、本物のはずだ。
『……だから』
俺は小さく呟く。
『なるべく死なせない』
それが俺の方針だ。
たとえ蘇れるとしても。
こいつらは。
使い捨ての駒じゃない。
死を軽く考えちゃいけない。
痛みも恐怖もある。
みんな本当に苦しそうだった。
『……』
俺は静かに拳を握る。
もっと強くならないといけない。
この領地を守るために。
みんなを守るために。
そして――。
次に強敵が現れた時に。
今度は、ただ蹂躙されるだけでは終わらせないために。
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