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38話 魔王召喚 ☆

『…………』


俺は、しばらくスマホ画面を見つめていた。


詫び石。


魔晶石1000個。


ソシャゲすぎる!


だが。


ありがたい。


めちゃくちゃありがたい。


詫び石は、ソシャゲあるあるだな。


これぞソシャゲである。


『施設全部解放して拡張したのに……』


画面を見る。


現在の所持魔晶石。


魔晶石×2369


『まだこんなにある……』


「にゃふふ」


思わず笑みが漏れる。


豊か。


圧倒的豊か。


石があるだけで心が安定する。


『ありがとう運営』


いや。


本当に何者なんだあいつ。


色々と謎は明らかになった。


だが。


情報量が多すぎる。


処理しきれない。


使徒。


魔界グルンボーン。


う……頭が痛い。


『……神なのか?』


少なくとも。


それに近い“何か”ではある。


世界を止める。


空を割る。


人間の思考へ干渉する。


そんな事が出来る存在を、他に何と呼べばいいのか分からない。


『まあ……』


『運営でいいか』


考えるのをやめた。


すると。


ふと。


ある事に気づく。


『……ん?』


プレイヤー欄。


名前の横。


今まで無かった表示が増えていた。


【???の使徒】


『増えてるぅ……』


いや。


誰だよ。


結局何者か分からないじゃねぇか。


『???ってなんだよ!何か名乗れよ……』


だが。


正体を明かしたくないのか。


俺たちに理解できない何かなのか……?


適当なだけなのか。


『……』


そして。


嫌な事に気づく。


『今の思考も筒抜けなんだろうな……』


嫌だな。


いや。


かなり嫌だった。


脳内ツッコミまで見られてる可能性がある。


恥ずかしい。


かなり恥ずかしい。


『……』


だが。


一番問題なのは別だ。


運営を見た後では。


正直。


ガチャを引くのが怖い。


『また変なの出たらどうすんだよ……』


心の底からそう思う。


だが。


だからといって。


引かない訳にもいかない。


俺はまだ弱い。


この広すぎる領地。


敵対反応。


侵入者。


これから現れるかもしれない脅威。


全部に対処するには、戦力が足りない。


『もっと強くならないとな』


そして。


ここ重要。


『ここでの暮らしをエンジョイするためにも!』


スーパー銭湯。


レストラン。


ファッション店。


あんな快適空間を作ったのだ。


守らねばならない。


絶対に。


『よし』


『気を取り直して、またガチャだ』


俺は深呼吸する。


それから。


10連ガチャをタップした。


広場に魔法陣が展開される。


だが。


今度は前回ほど異常ではない。


普通。


いや、普通ではないけど。


比較対象が悪い。


光が弾け。


次々と召喚が始まった。


【魔導ランタン(☆2)】


【ゴブリンアーチャー(☆2)】


【ゴブリン(☆1)】


【ゾンビ(☆1)】


【ウルフ(☆2)】


【スケルトンソルジャー(☆2)】


【リザードマン(☆2)】


【灰羽カラス(☆1)】


【穴掘りモグラ(☆1)】


『おぉ』


かなり悪くない。


そう思った瞬間だった。


ゴブリン。


ウルフ。


スケルトンソルジャー。


既に存在している眷属達の召喚光が――。


出現せず。


そのまま、スマホへ吸い込まれていく。


光の粒子が、画面へ流れ込む。


まるでデータ化されているみたいだった。


すると。


画面が切り替わる。


【ゴブリン】


【個体名 キャベツ】


【+3】


【進化可能】


『進化!?』


思わず叫んだ。


なんだこれ。


ソシャゲの限界突破みたいになってる。


しかも。


画面下には、新たな表示。


【進化しますか?】


YES/NO


『するするする!!』


迷う理由がない。


俺は即座にYESを押した。


次の瞬間。


スマホが光る。


【進化開始】


【ゴブリン → ホブゴブリン】


『おぉぉ!?』


進化した。


マジで進化した。


だが。


キャベツ本人は、今ここにいない。


変化が分からない。


『……大丈夫かあいつ』


少し不安になる。


でも。


キャベツだしな。


多分元気だろう。


食料庫とか見張ってそう。


ピーマンと喧嘩してるかもしれない。


『ホブゴブリンになったら、ちょっと賢そうになるのかな……』


いや。


でもキャベツだしな。


なんか普通に、


「ギャッ!?」


とか言ってそうだった。


そんな事を考えながら、俺は新規召喚を確認する。


魔導ランタン。


リザードマン。


灰羽カラス。


穴掘りモグラ。


かなり当たりでは?


特にリザードマン。


明らかに戦力になりそうだ。


だが――。


次の瞬間。


空気が変わった。


『……ん?』


スマホ画面が震える。


ビリビリと。


嫌な振動。


同時に。


広場中央の魔法陣が、異常膨張を始めた。


『お、おい……?』


さっきまでとは違う。


明らかに違う。


魔力濃度。


圧力。


空気。


全部がおかしい。


黒い雷が走る。


空間が軋む。


魔法陣が膨れ上がる。


『またヤバいやつか!?』


次の瞬間――。


黒い魔力。


赤い雷。


空間が軋む。


『ちょっ……!?』


やばい。


またやばい。


本能がそう告げる。


そして――。


SURスーパーウルトラレア


【異世界の魔王】


【個体名 断角王ガルンディアス】


【召喚完了】


【眷属登録されました】


『異世界の魔王!?』


次の瞬間。


広場中央。


巨大な黒い魔法陣から、“それ”が現れた。


ドォン――ッ!!


空気が沈む。


重い。


圧倒的な重圧。


黒銀の長髪。


赤金の瞳。


漆黒のマント。


全身を覆う古傷。


そして。


頭部には。


折れた角。


『……』


デカい。


存在感が。


立っているだけで、周囲の空気が変質していた。


モエが息を呑む。


リリンが硬直する。


ゼフィーですら警戒姿勢。


『運営の時ほどじゃない……』


だが。


十分ヤバい。


圧倒的強者。


それだけは分かった。


そして。


魔王はゆっくりと周囲を見回した。


「む……」


低い声。


だがよく通る。


「弾ききれなかったか」


『……は?』


「俺様が召喚されるとはな」


完全に不機嫌そうだった。


というか。


なんか普通に喋ってる。


しかも。


めちゃくちゃ偉そう。


ガルンディアスは周囲を見回す。


巨大城壁。


石畳。


街灯。


施設群。


スーパー銭湯。


レストラン。


ファッション店。


その赤金の瞳が、僅かに細まった。


「……ほぅ」


感心したような声。


『え』


ちょっと嬉しそう。


だが。


次の瞬間。


視線がこちらへ向いた。


そして――。


空気が変わった。


ズンッ――!!


『っ!?』


圧。


さっきまでとは比較にならない。


本気の殺気。


「貴様……!」


魔王の瞳が鋭く細まる。


「その気配は……!!」


黒い魔力が吹き荒れる。


地面が軋む。


「その様な姿をしていても騙されんぞ!!」


『にゃっ!?』


「混沌神だな!?」


『混沌神!?』


『何言ってんだ!?』


意味が分からない。


『俺が神? 俺は普通の人間――』


『いや、今は普通の猫だ』


魔王は完全に臨戦態勢だった。


「問答無用!!」


「貴様はここで――殺す!!」


ドンッ!!


地面が爆散した。


速い。


いや。


速すぎる。


見えない。


空気が裂けた。


そう認識した瞬間には――。


魔王が目の前にいた。


「にゃぁぁぁぁ!?」


漆黒の拳が振り下ろされる。



挿絵(By みてみん)



拳圧だけで空間が軋む。


広場の石畳が砕ける。


死ぬ。


直感した。


だが――。


「させませんわ!!」


ゼフィーが割り込む。


紫黒の魔法陣が瞬時に多重展開された。


防壁。


結界。


障壁。


重ね掛け。


ドゴォォォォォンッ!!


拳が着弾した瞬間。


衝撃波が広場を吹き飛ばした。


石畳が跳ね上がる。


街灯が軋む。


地面が陥没する。


『重っ!?』


ゼフィーが吹き飛ぶ。


コートの裾が裂ける。


だが。


障壁は砕け切っていない。


魔王の眉が僅かに動く。


「……チッ」


露骨に煩わしそうだった。


その瞬間。


「ガウッ!!」


ガウが飛び込む。


低い。


速い。


地を滑る影。


牙が首筋を狙う。


魔王が片手で掴む。


ガギィッ!!


火花。


牙が軋む。


「獣にしては悪くない」


そのまま叩きつけようとした瞬間――。


「ブモォォォォ!!」


ブモが突っ込んだ。


超重量級の拳。


筋肉の塊。


大地を砕きながら突進する。


魔王が振り返る。


片腕で受け止める。


ドゴォォォォンッ!!


衝撃波。


広場が揺れる。


空気が爆発する。


『うおぉぉ!?』


ブモが押していた。


純粋な筋力で。


魔王の足が僅かに滑る。


ただ。


鬱陶しそうに眉を歪める。


「……群れて噛み付くか」


「虫のようだな」


その瞬間。


カタカタカタッ!!


カルシウムが背後から斬りかかった。


静か。


無駄が無い。


骨とは思えない洗練された剣筋。


さらに。


召喚されたばかりのリザードマンも飛び込む。


低姿勢。


軍隊式。


槍が一直線に伸びる。


「シャァァァァッ!!」


左右同時攻撃。


魔王が身体を捻る。


カルシウムの剣を避ける。


だが。


避けた先へ、槍がある。


ガギィィンッ!!


肩へ掠る。


『当てた!?』


ほんの僅か。


だが確実に。


その瞬間。


空中。


ゼフィーが魔法陣を展開した。


紫黒の光が空を覆う。


「穿ちなさい!!」


数十本の魔力槍。


同時射出。


その瞬間。


リリンとモエも動く。


「やっちゃえぇぇ!!」


「もえてっ!!」


黒炎。


紫雷。


暴風。


魔力弾。


複数同時展開。


連携。


完璧だった。


魔王の周囲で爆発が連鎖する。


ドゴォォォォォンッ!!


轟音。


魔力嵐。


衝撃波。


視界が白く染まる。


『いけぇぇぇぇ!!』


ガウが再突撃。


ブモが踏み込む。


カルシウムが連撃。


リザードマンが槍を回転させる。


ゼフィーが追撃魔法。


リリンとモエが同時詠唱。


全員が、一切止まらない。


普通のハイデーモン。


普通のサキュバス。


普通の小悪魔。


そんなレベルではない。


ガチャ。


経験値。


レストランの食事バフ。


施設強化。


連携訓練。


積み重ねた全てが、ここで発揮されていた。


惜しむらくは――。


領地内だからと油断して、全員おしゃれ重視のファッションだった事だ。


リリンは可愛い系。


モエは露出多め。


ゼフィーは大人カジュアルコーデ。


戦闘用高レア衣装ではない。


『なのに強ぇぇぇ!!』


善戦してるんじゃないか。


そう思ったのも束の間。


その猛攻の中心。


爆煙の中で。


赤金の瞳だけが光っていた。


ゾワッ――。


全員の背筋が凍る。


次の瞬間。


爆煙が“割れた”。


ドンッ!!


黒い魔力が吹き荒れる。


爆発そのものを力で押し潰した。


魔王が現れる。


傷はある。


マントも裂けている。


だが。


致命傷ではない。


それどころか。


その表情には、怒気が混じっていた。


「……鬱陶しい」


低い声。


空気が震える。


「弱い癖に」


「次から次へと湧いて出るな」


ドンッ!!


魔力が爆発する。


全員が吹き飛んだ。


『ぐぇぇぇぇ!?』


ガウが地面を転がる。


ブモが踏ん張る。


リリンが壁へ叩きつけられる。


モエが悲鳴を上げる。


カルシウムの骨が数本飛ぶ。


リザードマンの槍が折れる。


その瞬間――。


魔王の動きが止まった。


赤金の瞳が細まる。


「……」


さっきまでの余裕とは違う。


観察するような目。


そして。


低く呟いた。


「混沌神ではない者は、生かすつもりだったが……」


『……え?』


「それにしても」


「守護者が、この弱さはありえん」


守護者?


意味が分からない。


だが。


魔王は、じっとこちらを見ていた。


その視線が鋭くなる。


「貴様……」


空気が震える。


「混沌神ではなく、使徒か……?」


「貴様も被害者か。哀れな……」


『だから混沌神って何なんだよ!!』


俺の叫びに。


ガルンディアスは、吐き捨てるように言った。


「貴様に力を与えた――」


「調停者気取りの化け物だ!!」


――ザザッ。


『っ!?』


その瞬間。


頭の奥に、再びあの感覚が走った。


ノイズ。


意識へ直接流れ込む異質な気配。


『またか!?』


運営だ。


間違いない。


そして。


頭の中へ、あの軽い声が響いた。


『やあ。ディアスくん』


『久しぶりだね』


「……っ!!」


魔王の表情が露骨に歪む。


完全に嫌そうだった。


『いきなりそんなネタバレをしないでくれよ』


『もっと焦らして反応を見たかったのに』


運営は楽しそうだった。


『まさか、ぼくに続けてディアスくんを引くなんてね』


『流石に予想外だったよ』


『まだ調整前だから、ガチャをされると困るんだよね』


『しばらくガチャは禁止ね』


「にゃにいいいいい!?」


俺は叫んだ。


ガチャ禁止!?


そんな馬鹿な。


人生終了である。


すると。


魔王が、ブチ切れた。


「貴様ぁぁぁぁ!!!」


凄まじい魔力が吹き荒れる。


大地が揺れる。


空間が軋む。


そして。


魔王は、理解できない言語で叫んだ。


「GJKDサGLJリィィィ!!!!」


理解できない。


聞き取れない。


だが。


とんでもなく怒っている事だけは分かった。


「こちらへ接触した事――!!」


「後悔させてやる!!」


「念話の気配を辿って、貴様を今度こそ殺す!!!」


怖ぇぇぇぇぇ!?


運営は笑う。


『ははは♪』


めちゃくちゃ楽しそうだった。


最悪である。


そして次の瞬間。


魔王の姿が――消えた。


『え』


本当に。


一瞬だった。


転移。


いや。


瞬間移動。


空間そのものを飛び越えたみたいに、痕跡すら残さず消失した。


残ったのは。


吹き荒れる余波。


ボロボロの広場。


呆然とする眷属達。


そして――。


頭の中で、楽しそうに笑う“運営”の声が響いた。

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