36話 スケベ大魔王領 ☆
『…………』
俺は、しばらく無言で画面を見つめていた。
そして。
『やるか』
覚悟を決める。
もう止まれない。
止まるんじゃねぇぞ!そんなセリフが思い浮かんだ。
ここまで来たら、徹底的に快適空間を作るしかない。
俺は次々と施設解放ボタンを押していった。
訓練場。
遊技場。
図書館。
農園。
売店。
工房。
さらに――。
大浴場。
食堂。
衣装室。
既存施設の外部拡張まで全部実行する。
ぽこんっ。
ぽこんっ。
ぽこんっ。
軽快な効果音が連続する。
その度に魔晶石が減っていく。
『うわぁ……』
『めっちゃ減る……』
気づけば。
魔晶石を合計960個消費していた。
『高ぇ……』
普通に高い。
かなり高い。
だが――。
後悔はしていなかった。
むしろワクワクが勝っている。
完全に街づくりゲームだった。
すると。
ゴゴゴゴゴゴ……。
再び大地が揺れ始めた。
『また!?』
外を見る。
すると。
巨大城壁の内側。
森のあちこちで、建築物が次々と形成されていった。
石畳。
街道。
街灯。
噴水。
橋。
建物。
まるで見えない職人達が、一瞬で都市建設を進めているみたいだった。
『いやスケールがおかしいだろ……』
昨日からずっと言ってる気がする。
だが本当におかしい。
魔法建築とかいうレベルじゃない。
文明創造である。
まず最初に完成したのは――。
巨大な湯気を噴き上げる建物だった。
『……銭湯?』
白い湯気。
木造と石造りを合わせた巨大建築。
入口には魔導ランプが並び、幻想的な光を放っている。
しかも。
やたら広い。
『スーパー銭湯じゃねぇか!』
その瞬間。
スマホ画面の施設名が変化した。
【大浴場】
↓
【スーパー銭湯】
これ俺のツッコミに反応したのか……?
中を見る。
普通の風呂じゃなかった。
露天風呂。
岩風呂。
寝湯。
岩盤浴。
サウナっぽい部屋まである。
『魔王城に何を求めてるんだこのゲーム……』
だが。
正直めちゃくちゃ嬉しい。
モエの目が輝いた。
「えっ♡」
「なにこれヤバ〜♡」
「絶対行く!!」
リリンも興味津々で覗き込んでいる。
ゼフィーは優雅に微笑んだ。
「素敵ですわね」
「魔力循環も非常に良さそうですわ」
どうやらバフ施設らしい。
しかも。
【一定時間リラックス効果】
【疲労回復速度上昇】
【好感度補正】
などの表示まで出ている。
『風呂で好感度上がるのかよ……』
恐ろしい世界だった。
次に完成したのは――。
巨大レストラン。
『デカっ!?』
完全に高級ホテルのビュッフェ会場みたいだった。
テラス席。
巨大厨房。
長テーブル。
個室。
すると――。
「わぁぁ……♡」
モエが目を輝かせながら、料理テーブルへ駆け寄った。
ロースト肉。
巨大エビ。
焼きたてパン。
色鮮やかなケーキ。
魔力が淡く光る謎のスープ。
完全にテンションが上がっている。
「ねぇスケベちゃん見て!!」
「肉ある!!」
「しかもめっちゃ分厚い♡」
既に皿へ山盛りにしていた。
早い。
行動が早い。
リリンはというと。
「……すごい」
少し呆然としながら、デザートコーナーを見つめていた。
小さなケーキ。
果実タルト。
魔導パフェ。
色とりどりのゼリー。
明らかに女子受け全振りである。
「まおーさま……」
「これ全部食べてもいいんですか……?」
『ビュッフェだから多分いいんじゃないか?』
「びゅっふぇ……?」
聞き慣れない言葉に首を傾げながらも、リリンは嬉しそうにショートケーキを皿へ乗せていた。
可愛い。
めちゃくちゃ可愛い。
そして――。
ゼフィーは落ち着いた様子で店内を見回している。
「ふふ……」
「随分と洗練されておりますわね」
その視線は料理だけではない。
店内設備。
導線。
厨房。
魔導冷蔵設備。
保存棚。
細かい部分まで確認していた。
完全に大人だった。
「食材保存機能までありますのね」
「長期運営を前提に設計されていますわ」
『そこまで分かるのか……』
「ええ」
「この施設、かなり重要ですわよ?」
そう言いながら、ゼフィーは優雅にワインらしき飲み物を口にする。
その瞬間。
【魔力回復速度上昇】
の表示が浮かんだ。
『飲み物でも発動するの!?』
しかも。
モエは肉料理で【攻撃力上昇】。
リリンはデザートで【精神安定】。
ゼフィーは飲み物で【魔力回復】。
料理によって効果が違うらしい。
『めちゃくちゃゲームじゃねぇか……』
完全にバフ飯だった。
『これ絶対大事だろ……』
ゲーム脳が警鐘を鳴らす。
食事重要。
かなり重要。
画面を見る
【食堂】
↓
【レストラン】
また変化していた。
他の施設名も確認してみる。
■衣装室
↓
■ファッション店
■訓練場
↓
■闘技訓練館
■遊技場
↓
■魔導遊戯館
■図書室
↓
■図書館
■農場
↓
■豊穣農園
■売店
↓
■スーパーストア
■工房
↓
■魔工房
『めちゃくちゃ現代化してないか……?』
次はファッション店を覗く。
『うわぁ……』
思わず声が漏れた。
綺麗。
とにかく綺麗だった。
巨大なショーウィンドウ。
魔導照明。
展示マネキン。
色とりどりの衣装。
ローブ。
ドレス。
軽装鎧。
和風衣装。
謎の近未来衣装。
『なんであるんだよ!?』
モエは既にテンションが限界突破していた。
「スケベちゃん!!」
「行こ行こ行こ!!♡」
「絶対可愛い服あるって!!」
「えっ、こっちも……!」
リリンも珍しく目を輝かせている。
完全に夢中だった。
そして――。
ゼフィーは、そんな二人を見ながら優雅に微笑む。
「ふふ♪」
「実に素晴らしい施設ですわね」
そう言いながら。
彼女は一着の黒いドレスを手に取った。
深い紫の装飾。
大胆でありながら気品あるデザイン。
めちゃくちゃ似合いそうだった。
「戦闘性能だけではありませんわ」
「衣装によって魔力効率まで変化しております」
『そこまで!?』
どうやら本当に装備扱いらしい。
女の子は強かった。
さっきまで“魔王領”だの“敵対反応”だの言っていたとは思えない。
施設巡りが楽しすぎた。
スーパー銭湯。
レストラン。
ファッション店。
見る物全てが規格外で、ワクワクする。
完全にテーマパーク気分である。
時間感覚が完全に狂っていた。
『このままじゃ、一日終わるぞこれ……』
まだ見ていない施設も多い。
闘技訓練館。
魔導遊戯館。
図書館。
豊穣農園。
スーパーストア。
魔工房。
全部気になる。
かなり気になる。
だが――。
『他の施設巡りは、また今度だな』
まずは、やる事をやってしまおう。
ファッション店を出て広場になっている所へ向かう。
ここでいいか。
召喚をしよう。
こんな巨大テーマパークに今の十数人だけでは寂しい。
それに領内の侵入者とやらにも対処しないといけないしな。
だが、どれくらいガチャを回すか……。
さっき。
増築1000。
時間短縮100。
施設解放と拡張960。
合計2060個もの魔晶石を使ったばかりだ。
また予想もつかない事で、魔晶石が必要になるかもしれない。
どうしようか……
まあ深く考えても仕方ない。
ガチャの引きを見ながら判断しよう。
考えをまとめた俺は10連ガチャをタップする。
すると――。
今までとは比べ物にならない現象が起こった。
広場の中央。
巨大な魔法陣のような紋様が、淡く発光していた。
以前より。
明らかに魔力濃度が高い。
『……なんか嫌な予感するな』
次の瞬間――。
世界が止まった。
『……は?』
風が止まる。
音が消える。
空間そのものが静止したような感覚。
次の瞬間。
巨大な魔法陣が、広場全体へ展開された。
今までのガチャ演出とは、明らかに違う。
紫。
黒。
金。
幾重もの光輪。
空へ伸びる魔力柱。
そして――。
空が、割れた。
「にゃ……?」
裂け目の向こう。
“何か”がこちらを見ていた。
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