33話 魔晶石の使い道
大広間が少し落ち着いた頃。
俺は玉座の上で、いつものようにスマホを取り出した。
『さて……』
今日の予定を決める時間だ。
魔界へ来てから、完全にこれが日課になっていた。
スマホを開く。
ホーム画面。
魔王ストリート。
黒い背景に紫色のUI。
見慣れたゲーム画面――のはずなのに。
今ではもう、単なるゲームには見えない。
ここは現実だ。
この世界そのものと繋がっている。
俺は画面をポチポチ操作しながら、現在の状況を確認していく。
画面を開いた瞬間。
ぽこんっ。
軽快な音と共に、ログインボーナス画面が表示された。
【ログインボーナス】
魔晶石×5
『おっ』
思わず声が漏れる。
たった5個。
されど5個。
積み重ねは大事だ。
そうしていると。
後ろからゼフィーが、くすっと笑った。
「始まりましたわ♪」
その声に、モエがすぐ反応する。
「あー、出た出た♡」
「あれ始まると地味に長いんだよねぇ〜」
『大事な作業なんだ!』
「だってスケベちゃん、これ始めると急に真顔になるし〜♡」
「しかも途中から誰の声も聞こえてないよね?」
『……否定できん』
実際、かなり集中している。
ゲーム時代の癖だ。
効率。
資源。
施設。
スタミナ。
ガチャ。
確認することが多すぎる。
すると今度は、リリンが二人を軽くたしなめた。
「しっ」
「邪魔しちゃダメです」
『リリンありがとう!』
心の中で全力感謝した。
やはりリリンは癒し。
俺は気を取り直し、再びスマホ画面へ視線を戻す。
昨日はかなり動いた。
魔晶石集め。
初回クリア報酬。
スタミナを石で回復しながら、効率重視で黒樹海周辺を攻略していた。
その結果――。
『おっ』
プレイヤーレベル。
LV24。
かなり上がった。
しかも。
所持魔晶石。
3429個。
『うへへ……』
思わず笑う。
多い。
かなり多い。
めちゃくちゃホクホクしていた。
何に使おうか悩む。
だが――。
それが楽しい。
『ふふ……贅沢な悩みだ』
前世でソシャゲをやっていた頃。
石が足りない。
ガチャ回したい。
スタミナ回復したい。
育成したい。
課金したい。
金が足りない。
常に資源不足だった。
だが今は違う。
使う選択肢を悩めるほどある。
それだけでテンションが上がる。
しかも。
昨日、黒樹海周辺を探索した事で、エリアマップも更新されていた。
黒樹海入口。
枯れ枝の獣道。
黒霧湿地。
枯死林地帯。
東の草原。
周囲の地形が、少しずつ見えてきている。
『……ゲームみたいだな本当に』
いや。
ゲームなのかもしれない。
だが、同時に現実でもある。
その違和感が未だに不思議だった。
『ん?』
キャラのアイコンに変化があった。
キャラの一覧を開く。
ゼフィーだ。
『なんだこれ』
タップする。
すると。
ステータス欄の下に、見慣れない表示が追加されていた。
――ご褒美シーン閲覧によりステータス上昇。
『…………』
しばらく固まった。
『なんだこれ』
めちゃくちゃゲームっぽい。
そんな部分まで再現されるのか。
『えぇ……』
俺は思わずゼフィーを見る。
ゼフィーは優雅に微笑んだ。
「どうかされました?」
『いや……なんでもない』
なんでもある。
めちゃくちゃある。
ご褒美シーンで強化されるってなんだ。
完全にギャルゲー仕様じゃねぇか。
しかも。
もしこれが本当に機能しているなら――。
『……好感度、重要では?』
かなり重要では?
戦闘。
探索。
拠点運営。
そこに加えて好感度。
急にギャルゲー感が増してきた。
『いや待て』
『冷静になれ俺』
『これは魔王として必要な交流だ』
自分に言い聞かせる。
たぶん。
するとモエが俺の顔を覗き込んできた。
「スケベちゃん、なんかニヤニヤしてない?♡」
『してない』
「してるしてる〜♡」
リリンが少しむっとした顔になる。
ゼフィーは楽しそうに笑っている。
『……話を変えよう』
危険だ。
この話題は危険すぎる。
俺は即座にガチャ画面を開いた。
『よし』
『とりあえず日課の無料単発ガチャだ』
無料。
素晴らしい響きである。
毎日回せる。
何が出るか分からない。
ソシャゲ最大の麻薬。
俺は迷わずボタンを押した。
紫色の魔法陣が回転する。
演出は地味。
光も弱い。
まあ無料単発だ。
期待はしない。
そして。
出てきたのは――。
【欠けた鉄鍋 ☆1】
料理成功率微増。
『…………』
沈黙。
『なんだこれ』
つっかえねぇ。
食堂があれば基本的に料理しないし。
いや、キャベツやピーマンのように城を離れる時役に立つか。
無料単発の結果としては地味すぎる。
ブモあたりは喜びそうだが。
『まあ単発ガチャなんてこんなもんか……』
夢を見る方が悪い。
俺はすぐに気持ちを切り替えた。
『よし』
『切り替えていこう』
今の俺には。
3429個もの魔晶石がある。
単発ハズレ程度で動揺する量ではない。
『10連が……68回?』
冷静に考えて頭がおかしい。
本物のソシャゲなら。
ピックアップガチャ。
天井。
完凸。
いくらでも夢が見られる量だ。
だが――。
この魔界グルンポーンには、ピックアップガチャなんて存在しない。
全部闇鍋。
完全ランダム。
そして。
ここは現実だ。
俺の能力によって“ゲームのように見えている”だけ。
たぶん。
実際に生活している。
飯を食う。
風呂に入る。
寝る。
拠点を整える。
皆で笑う。
完全に生活だ。
そして――。
俺はもう、城の便利さを知ってしまった。
大浴場。
衣装室。
広いベッド。
食堂。
快適な空間。
『……もっと充実させたい』
皆を満足させたい。
素直にそう思った。
もちろん。
ガチャでレアが出ればテンションは上がる。
SSR。
UR。
ぶっ壊れ性能。
ロマンだ。
だが。
実際に生活して、わかった。
ゲームではない。現実で生きているのだ。
良い暮らしがしたいと思うの当然だろう。
今の俺に必要なのは生活基盤だった。
『生活第一だ』
魔王城。
眷属。
この環境を整える事こそ、最優先。
そして余った魔晶石でガチャだ。
『魔晶石に余裕があるうちに』
『施設を全部解放した方がいい』
初期投資。
そう判断した。
特に。
衣装室。
あれは完全に価値観が変わった。
ゲーム時代では、ただの着せ替え施設だった。
キャラを配置して眺める。
スクショを撮る。
それだけの、おまけ要素。
だが。
ここでは違う。
現実に落とし込まれたことで――超当たり施設になっていた。
レベルが上がる。
着替えるだけで強くなる。
衣装ごとに戦闘スタイルが変わる。
戦闘だけじゃない。
モエはテンションが上がる。
リリンも可愛い服を楽しそうに選ぶ。
ゼフィーは優雅に着こなす。
つまり最高。
『衣装室レベルの当たり施設が他にもあるかもしれない』
そう考えると、ワクワクしてくる。
なら。
施設関係は全部解放するべきだ。
できることは全部やる。
魔晶石は惜しまない。
城の増築もできる。
できる事が増える。
生活水準も上がる。
俺は施設一覧を開いた。
現在のプレイヤーレベルで解放可能な施設は
■大浴場
疲労回復
■食堂
料理作成
食事効果
■衣装室
衣装変更
■訓練場
戦力強化施設
レベル上げ
模擬戦
スキル練習
連携確認
■遊技場
娯楽施設
魔導カード
ダーツ
スロット
闘技ゲーム
■図書室
情報施設
魔物図鑑
魔界知識
地図
■農場
野菜、薬草栽培
■売店
素材売買
アイテム販売
限定品
家具
■工房
武器修理
防具
家具
解体
加工
『……ヤバい』
欲しい施設が多すぎる。
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