29話 倍速周回と衣装能力 ☆
【エリア初回クリア】
【初回クリア報酬を獲得しました】
ピコン。
俺の視界にだけ、見慣れたゲームUIが表示される。
『よしっ!』
思わず尻尾がぴんと立った。
嬉しい時、猫の身体は正直だ。
「魔王さま、尻尾立ってます……」
「機嫌わかりやす〜♡」
魔晶石が増えていく。
気持ちいい。
めちゃくちゃ気持ちいい。
完全にソシャゲの脳汁タイムだった。
「また増えたんですか?」
リリンが不思議そうにこちらを見る。
当然だ。
この画面は俺にしか見えていない。
モエ達からすれば、俺は突然テンションが上がってる猫でしかない。
『増えた』
『しかも初回報酬うめぇ』
「うめぇって顔してる♡」
モエがケラケラ笑う。
実際かなり美味しい。
倍速再生のおかげで戦闘時間そのものが短縮されている。
敵が出る。
倒す。
素材回収。
移動。
また敵。
テンポが異常にいい。
特に今の俺達は強かった。
衣装補正。
あれが完全にぶっ壊れている。
「はぁっ!」
リリンの爪が閃く。
黒狼が一撃で吹き飛ぶ。
しかも速い。
以前より明らかに動きが軽い。
小悪魔衣装の影響なのか、身体能力そのものが上昇している感じだった。
さらに。
「ハートブレイク♡」
モエが笑いながら指を鳴らす。
次の瞬間。
黒い魔力が弾けた。
ドォンッ!!
敵がまとめて吹き飛ぶ。
『うおっ!?』
俺は目を丸くする。
さっきまで使っていなかった攻撃だ。
「えへへ♡」
「なんか使えた〜♪」
モエ本人もノリで使っていた。
そしてゼフィー。
「跪きなさい」
静かな声。
その瞬間。
紫色の魔力が地面を走る。
敵の動きが止まった。
次の瞬間には、圧縮された闇魔法が敵を呑み込む。
ズドォォォン!!
爆発。
木々が揺れる。
『いや威力高っ!?』
「衣装の力でしょうね」
ゼフィーは涼しい顔で髪を払った。
余裕である。
強者感がすごい。
戦闘しながら、俺はある事に気づいていた。
『……これ』
『衣装ごとにスキル増えてないか?』
「スキル?」
リリンが首を傾げる。
俺は誰にも見えないスマホ画面を開く。
そこには。
【固有スキル】
【サポートスキル】
【必殺技】
見覚えのない項目が増えていた。
しかも。
衣装によって内容が違うっぽい。
『マジかよ……』
どうやら一定条件を満たした衣装を装備すると、専用能力まで解放されるらしい。
完全にイベント限定キャラ仕様だった。
『衣装室チートすぎるだろ……』
普通に考えておかしい。
着替えただけで強くなる。
いや、強くなるどころじゃない。
戦闘スタイルそのものが変わっている。
リリンなんて、今までより魅了系の魔力が強くなってる気がする。
モエは範囲攻撃。
ゼフィーは制圧系。
役割まで変わっていた。
『やっぱ探索ごとに着替えた方がいいな……』
衣装によって能力が違うなら、相性がある。
毒エリア向け。
ボス戦向け。
周回向け。
そういうのもありそうだった。
しかも。
露出が高い衣装ばかりではない。
衣装室で見た。
和風の振袖。
軍服っぽい服。
姫騎士風。
ゴシックドレス。
メイド。
水着。
バニー。
頭おかしい量あった。
『完全にイベント衣装ガチャなんだよなぁ……』
しかも。
強い。
めちゃくちゃ強い。
問題なのは――。
その全部を試したくなってしまう事だった。
◇
そんな感じで探索は順調に進んでいた。
黒樹海入口。
枯れ枝の獣道。
黒霧湿地。
東の草原
次々と突破していく。
だが。
『……移動めんどくせぇな』
俺はぼそっと呟いた。
戦闘は速い。
倍速再生のおかげでサクサク終わる。
問題はそこじゃない。
移動だ。
現実の森は広い。
とにかく広い。
ソシャゲなら画面切り替え一瞬。
数秒で次ステージ。
だが現実は違う。
歩く。
歩く。
また歩く。
湿地とか普通に足場悪い。
『ゲームだと省略されてた部分って、こんな大変だったのか……』
モエも少し疲れた様子で伸びをする。
「ねぇ〜、乗り物とか欲しくない?」
『分かる』
めちゃくちゃ分かる。
狼。
馬。
飛行系。
何でもいい。
移動用の足が欲しい。
『ガチャで乗り物とか出ねぇかな……』
だが。
そんな都合よく出る気もしない。
となると。
『現地調達か……?』
「現地調達?」
『魔物を手懐けるとか』
「おぉ〜!」
モエの目が輝く。
「テイマーっぽい♡」
たしかにロマンはある。
だが問題は方法だ。
『どうやるんだ……?』
仲良くする?
餌付け?
殴って服従?
全然分からん。
『……城戻ったら食堂で餌確保しとくか』
「餌付け前提なんですね」
リリンが苦笑する。
でも実際、動物系なら餌は効きそうだった。
『移動手段は絶対必要だな……』
探索エリアが広がれば広がるほど重要になる。
特に東の草原。
あそこから先は、さらに世界が広そうだった。
遠くまで続く地平線。
黒樹海とは違う景色。
まだ見ぬ地域。
未探索エリア。
新しいボス。
新しい報酬。
『……楽しみになってきたな』
気づけば、俺は笑っていた。
◇
そして。
気づけば空は暗くなっていた。
紫色の月明かりが森を照らしている。
『やべ』
『普通に夜まで探索してた』
「楽しかったです……!」
リリンが少し嬉しそうに笑う。
モエは草原へ大の字になりかけていた。
「も〜歩き疲れた〜♡」
ゼフィーだけは平然としている。
強い。
基礎スペックが違う。
だが、ここで問題がある。
野宿。
『嫌だ』
即答だった。
風呂入りたい。
ベッドで寝たい。
あと飯。
野宿はロマンあるけど今じゃない。
特に今の魔王城には――風呂がある。
もう駄目だ。
一度文明を知ってしまうと戻れない。
しかも今日はかなり探索した。
身体は普通に疲れている。
『転移石使うか……』
正直、少し迷う。
転移石は☆3アイテム。
たぶん普通にレアだ。
だが。
今日だけでも分かった。
この世界は“効率”がかなり重要だ。
移動時間。
SP管理。
探索速度。
全部が繋がっている。
それに――。
『まあ、またガチャで出るだろ』
ソシャゲ脳だった。
効率を考え、俺は迷わず使う事にする。
『帰るぞ』
俺は誰にも見えないスマホを前足で操作する。
モエ達から見れば、俺は虚空をぺしぺし叩いているだけだ。
未だにこの光景はシュールだった。
【転移石を使用しますか?】
『YES』
「……また始まりましたわね」
ゼフィーが慣れた様子で微笑む。
「魔王さま、何もないところ触ってます……」
リリンが不思議そうに呟いた次の瞬間。
足元に紫色の魔法陣が広がった。
「えっ……!?」
リリンが目を見開く。
モエも慌てて飛び退いた。
「ちょっ、なにこれ!?!?」
地面に浮かび上がった魔法陣は、淡く光を放ちながらゆっくり回転している。
複雑な文字。
幾重にも重なる紋様。
周囲の空気まで震えていた。
『おぉ……』
実際に見ると、俺もちょっとテンションが上がる。
ゲームだと一瞬の演出だったが、現実になるとかなり幻想的だった。
そして次の瞬間。
ブワッ――。
視界が光に包まれた。
身体がふわりと浮く。
重力感覚が消える。
景色が伸びる。
流れる。
歪む。
「きゃぁっ!?」
リリンが思わず俺を抱き寄せた。
「うわっ、浮いてる浮いてる!?」
モエが完全にパニックである。
一方ゼフィーだけは、優雅に髪を押さえていた。
慣れてる。
なんでだよ。
そして――。
一瞬。
本当に一瞬だった。
ぐにゃりと視界が歪み。
次の瞬間には。
見慣れた魔王城の大広間が目の前に広がっていた。
「……え?」
リリンがぽかんと口を開ける。
「戻ってる……?」
モエもきょろきょろと周囲を見回した。
「え、マジで一瞬じゃん!?」
『おぉ〜……』
俺も少し感動する。
やっぱ帰宅機能便利すぎる。
完全にファストトラベルだった。
しかも快適。
「すごいです……!」
リリンが目を輝かせる。
「空間転移系の魔法ですのね」
ゼフィーが興味深そうに魔法陣の残光を見る。
モエは感動より先に限界だった。
「むり〜♡」
モエは、その場で大の字に倒れ込んだ。
「歩き疲れた〜♡」
「お風呂入りた〜い♡」
大広間の床へぺたっと張り付いたまま、じたばたしている。
『分かる』
俺も入りたい。
めちゃくちゃ入りたい。
だがその前に。
俺はスマホを見る。
増えた魔晶石。
解放されたエリア。
新しく増えた素材。
そして衣装スキル。
『……やれる事、増えてきたな』
探索。
周回。
レベル上げ。
衣装。
拠点発展。
やれる事がどんどん増えていく。
まるで本当に――。
ゲームが広がっていくみたいだった。




