28話 倍速再生と初回クリア報酬 ☆
27話の衣装室のシーン改稿しました。
衣装変更を終えたあと。
俺達は、そのまま魔王城の外へ出ていた。
『……あれ?』
俺は思わず足を止める。
以前までの城周辺は、もっと陰気だった。
黒ずんだ木。
乾いた地面。
どこか死んだような空気。
まさに“魔界の森”という感じだったはずだ。
だが今は違う。
劇的に変わったわけじゃない。
それでも――ほんの少しだけ、空気が違っていた。
城の近くの地面に、小さな草が生えている。
黒く痩せた土の隙間から、淡い緑が顔を出していた。
枯れ木ばかりだった景色にも、ところどころ葉の色が戻っている。
本当に少し。
言われなければ気づかない程度。
でも、確かに前より生命感が増していた。
『なんか……ちょっとだけ自然豊かになってね?』
「ほんとだ〜!」
モエがしゃがみ込み、草をつつく。
「前より空気よくなってる♡」
リリンも周囲を見回しながら、小さく目を瞬かせた。
「前はもっと暗かった気がします……」
ゼフィーは静かに木々へ視線を向ける。
「魔力の流れが、僅かに変わっておりますわね」
『魔力?』
「はい」
ゼフィーは細い指で、城の方角を示した。
「城が安定し始めているのでしょう」
『へぇ……』
本当に、この城は何でもありだな……
……と。
感心しかけた、その時だった。
視線を前へ向ける。
リリン。
モエ。
ゼフィー。
『いや目立つな!?』
俺は思わず叫んだ。
リリン。
モエ。
ゼフィー。
三人とも、完全に“ソシャゲの限定イベント”みたいな格好になっていた。
まずリリン。
黒と紫を基調にした小悪魔風ドレス。
細い肩紐とレースが何重にも重なり、胸元にはハート型の宝石が妖しく輝いている。
透け感のある黒レースの袖。
太ももへ絡みつく細い宝石チェーン。
ふわりと広がるフリルスカート。
歩くたび、きらきらと紫の装飾が揺れていた。
しかも本人は、少し恥ずかしそうに裾を押さえているせいで破壊力が増している。
次にモエ。
黒とピンクを基調にしたギャル系衣装。
肩出し。
腹出し。
ハートだらけのアクセサリー。
胸元から腰にかけて何本ものベルトが交差していて、無駄にジャラジャラしている。
太ももにはガーターベルト。
羽織っている上着は半分落ちかけていて、完全に“着崩してるギャル”だった。
「ウケる〜♡」
とか言いながらポーズまで決めている。
悪の女幹部感が凄い。
そしてゼフィー。
もう空気が違った。
紫を基調とした、大人びた水着姿。
薄い透け布を羽織り、腰や胸元には細い宝石チェーン。
夜の光を受けるたび、紫色の装飾がきらりと輝く。
どこか“ナイトプールのVIP席”にいそうな格好だった。
さらに、つば広の黒い帽子まで装備している。
露出は多い。
多いのだが――。
なぜか下品にならない。
むしろ、“高位存在の余裕”みたいなものが溢れていた。
長い脚をゆったり組みながら髪をかき上げる仕草ひとつで、周囲の空気まで支配してしまう。
プールサイドに座っているだけなのに、背景ごと高級イベントCGみたいになっていた。
しかも本人は自然体だ。
「どうかしまして?」
みたいな顔で微笑んでいる。
強い。
色んな意味で強い。
『絶対、戦闘する格好じゃねぇ……』
「ですが、魔力の流れは非常によろしいですわ?」
ゼフィーが、優雅に微笑みながら髪をかき上げる。
実際。
強い。
さっきまでとは、明らかに空気が違っていた。
リリンから漂う魔力も。
モエの圧も。
ゼフィーの存在感も。
全部、一段階跳ね上がっている。
『……ほんとに強化されてるんだよなぁ』
「な、なんだか身体が軽いです……」
「アタシも♡」
モエがその場で軽く跳ねる。
「なんか超テンション上がるんだけど!」
『やっぱ衣装補正あるんだな……』
意味は分からない。
だが、強い。
ソシャゲだから仕方ない。
『よし』
俺はスマホを開く。
目的は二つ。
初回クリア報酬の回収。
そして――。
新スキルの検証だ。
画面をタップする。
【20Lvスキル】
【倍速再生】
【二倍速で戦闘処理が行われる】
『行くぞ』
スキルを発動。
その瞬間だった。
――ブゥン。
世界が加速した。
「グルァァァ!!」
茂みから飛び出してきた黒狼。
だが。
次の瞬間には。
「はぁっ!」
リリンが一瞬で間合いを詰めていた。
速い。
明らかに速い。
普段の倍近い速度で身体が動いている。
爪が閃く。
黒狼の身体が吹き飛ぶ。
その直後。
「どけどけぇ♡」
モエが笑いながら蹴りを叩き込む。
敵が木に激突。
さらに。
ゼフィーの指先から紫色の魔力が放たれた。
「消えなさい」
ドォンッ!!
爆発。
黒狼がまとめて吹き飛ぶ。
『おぉぉぉっ!?』
すげぇ!!
戦闘がめちゃくちゃ速い!!
だが――。
『……って速ぇ!?』
敵も速かった。
別の黒狼が、もの凄い勢いで飛びかかってくる。
爪の振りも速い。
動きも速い。
普通に二倍速だった。
『なるほど!?』
【二倍速で戦闘処理が行われる】
それは、こちらだけが加速する能力ではない。
敵味方含め、戦闘そのものが加速する。
完全にゲームの二倍速機能だった。
『意味ねぇじゃんって一瞬思ったけど……』
違う。
むしろ逆だ。
これ、めちゃくちゃ強い。
戦闘時間そのものが短縮される。
つまり――。
同じ時間で二倍近い戦闘回数をこなせる。
素材。
経験値。
探索効率。
全部が加速する。
『神スキルじゃねぇか!!』
完全に周回向け能力だった。
モエもテンションが上がっていた。
「やばっ♡」
「これ超楽しい!」
「す、すごいです……! どんどん敵が倒せます……!」
リリンもいつもよりハイテンションである。
ゼフィーだけは。
「素晴らしいですわ……♪」
完全に目が輝いていた。
戦闘狂である。
『お前ほんと好きだな戦闘……』
「はい♪」
即答だった。
怖い。
◇
だが。
当然問題もある。
SPだ。
探索速度が上がるということは。
SP消費速度も上がる。
【SP:7/65】
『うわっ、もうこんだけ減ったのか』
普段ならここで終了だった。
自然回復にも時間がかかる。
だが――。
今は違う。
『効率重視で行くぞ』
俺はスマホを操作する。
【魔晶石を1個消費します】
【YES/NO】
『YES』
ピコン。
次の瞬間。
【SP:72/65】
『おぉ!?』
身体の奥から力が湧いてくる感覚。
頭が妙に冴える。
これがSP回復か。
しかも。
限界値分そのまま加算されている。
つまり65回復。
『やっぱ便利だな魔晶石……』
貴重だが。
使いどころなら強い。
今日は検証日だ。
節約より効率。
それに――。
俺には確かめたい事がある。
初回クリア報酬。
探索組だけでは発生しなかった。
だが、俺自身が同行すれば。
『たぶん……出る』
俺達はそのまま森を進んでいく。
黒樹海。
枯れ枝の獣道。
黒霧湿地。
次々と未踏破エリアへ突入。
戦闘。
戦闘。
また戦闘。
倍速再生のおかげでテンポが異常に早い。
敵が現れる。
吹き飛ぶ。
素材回収。
移動。
また敵。
完全に周回ゲーだった。
『なんかもうソシャゲそのまんまだなこれ……』
そして。
エリアを進む度に表示される。
【エリア初回クリア】
【初回クリア報酬を獲得しました】
『来たぁぁぁっ!!』
思わず叫ぶ。
やはり。
俺の予想は正しかった。
眷属だけでは未踏破扱い。
俺自身が同行して初めて、“攻略完了”になる。
完全にプレイヤー参加型仕様だった。
これで多少石を割ってSP回復しても、それ以上に元がとれる。
モエが首を傾げる。
「スケベちゃん、めっちゃテンション高くない?」
『初回報酬で石がいっぱいなんだよ!』
「なにそれ♡」
そんな俺たちを見てリリンも少し嬉しそうだった。
『つまり、俺の能力が強くなるんだよ』
「おぉ……!」
リリンの目が輝く。
魔晶石を使って色々やりたい!
いくらあっても足りない。
『よし!』
『どんどん周辺エリアをクリアしていくぞ!!』
「はいっ!」
「おっけー♡」
「参りましょう♪」
そして。
ソシャゲ脳魔王による高速周回が、さらに加速していくのだった。




