27話 解放された新スキル ☆
回復薬、転移石影縫いの短剣、ボロイ寝袋、緊急用に転移石などを渡し
キャベツとピーマンを送り出したあと、俺はそのまま城の大広間へ戻っていた。
静かだ。
さっきまでゴブリン達が騒いでいたせいか、余計にそう感じる。
広い玉座の間。
高い天井。
薄暗い魔界特有の空気。
なのに、俺の手元だけは妙に現代的だった。
スマホである。
『さて……確認作業だな』
俺は玉座へ飛び乗る。
最近はもう普通にここが定位置になってきた。
猫が玉座に座ってスマホをいじる。
絵面は終わっているが、気にしたら負けだ。
スマホを操作し、エリアマップを開く。
「おお……」
思わず声が漏れた。
寝ている間に、探索組が進めていたエリアが解放されている。
しかもかなり広い。
【黒樹海 2~10】
【枯れ枝の獣道 1~10】
【黒霧湿地 1~3】
かなり進んでいた。
探索効率が思った以上にいい。
だが――。
『ん?』
俺は画面を見て眉をひそめた。
解放はされている。
だが、全部“未踏破”表示だった。
『……いや待て』
確かに眷属達は敵を倒していた。
探索も成功していた。
なのに未踏破。
しかも――。
『初回クリア報酬が発生してない』
俺はスマホ画面をじっと見つめる。
つまり。
眷属だけで探索は可能。
周回も可能。
だが、初回クリア判定は別。
『……もしかして俺がいないと駄目なのか?』
かなりありえる。
ソシャゲでよくある。
オート周回は可能。
でも初回だけは手動攻略必須。
ゲームとしては理解できる。
理解できるが――。
『現実でやらされると面倒くせぇ……』
思わず本音が漏れた。
いやまあ、完全放置ゲーにならないだけマシか。
もし眷属だけで全部終わるなら、俺本当に玉座から動かなくなる気がするし。
いや今も割と動いてないけど。
『つまり各地を自分で回る必要があるってことか』
初回クリア報酬。
これはかなり重要だ。
魔晶石。
装備。
素材。
今後どういう報酬が出るかわからない以上、無視はできない。
しかも倍速再生もある。
効率化できる可能性が高い。
『よし』
俺は次の画面を開いた。
プレイヤースキル一覧。
レベル20。
今までの流れ的に、新スキルが解放されているはずだ。
スクロールする。
【5Lvスキル】
【マジックハンド】
【10Lvスキル】
【念話】
【15Lvスキル】
【素材ドロップ】
そして――。
【20Lvスキル】
【倍速再生】
【二倍速で戦闘処理が行われる】
「にゃああああぁぁぁっ!!!」
思わず声を出して立ち上がった。
倍速再生。
ソシャゲでは定番。
だが。
便利。
とにかく便利。
周回効率がまるで違う。
『これは……!』
『なんか凄く便利そうだ!』
テンションが上がる。
いや、かなり上がる。
ソシャゲ脳として、倍速再生には夢がある。
戦闘時間短縮。
周回効率アップ。
素材集め高速化。
文明。
これは文明だ。
『早速試してみよう』
俺はスキル発動を試みる。
意識を集中。
脳内で“倍速再生”を念じる。
だが――。
『……あれ?』
何も起こらない。
もう一回。
無反応。
『んー……?』
説明文を見直す。
【二倍速で戦闘処理が行われる】
『……あー』
なるほど。
戦闘中限定っぽい。
普段から世界全部が倍速になるわけではないらしい。
ちょっと安心した。
もし常時二倍速とかだったら、普通に酔いそうだし。
『でもこれはかなり効率良くなりそうだな』
二倍速戦闘。
つまり。
敵を二倍速でフルボッコ。
『わくわくするな……!』
完全にゲーム感覚だった。
異世界に来てるくせに、脳みそだけはソシャゲユーザーのままである。
いや、むしろ悪化してる気がする。
『よし!』
『今日は初回クリア報酬と倍速再生の検証だ!』
問題はメンバー。
誰を連れていくか。
探索組はかなり動いていた。
普通に考えれば休ませるべきだろう。
『ゼフィー達は休んで――』
「嫌です」
即答だった。
『はやっ!?』
ゼフィーが真顔でこちらを見ている。
微動だにしない。
圧が強い。
「問題ありません」
「上位悪魔【ハイデーモン】は一日二日程度、休息不要です」
『いやでも疲れるだろ普通』
「疲れていません」
『いや絶対――』
「疲れていません」
圧。
圧が強い。
なんなんだこいつ。
戦闘民族か?スーパー野菜人になっちゃうのか?
「ゼフィー姉さん、また戦いたいだけじゃないの~?」
モエがニヤニヤしながら言う。
「違います」
「戦闘が好きなだけです」
『それをバトルジャンキーって言うんだよ』
本当に大丈夫かこのハイデーモン。
結局。
ゼフィーの猛烈な説得に押し切られた。
メンバーは。
リリン。
モエ。
ゼフィー。
いつもの主力組だ。
残りの眷属達は城で休ませる。
『さて』
俺は玉座から飛び降りた。
ふかふかの赤い絨毯に着地し、そのまま尻尾を揺らす。
今日は初回クリア報酬の確認。
そして――新スキル【倍速再生】の検証。
やることは多い。
城から出る前に、まずは準備だ。
準備は大切。
つまり――。
『衣装室だな』
俺がそう言うと、隣を歩いていたリリンが小さく首を傾げた。
「わたしは、このメイド服でいいですか?」
ひらり。
黒と白を基調にしたフリル付きのスカートが揺れる。
どうやら、かなり気に入っているらしい。
以前より表情も柔らかい。
リリンは胸元のリボンをそっと触りながら、少しだけ期待した目でこちらを見ていた。
『駄目だ。』
「……え?」
ぴたり。
リリンの動きが止まる。
後ろを歩いていたモエが、にやぁっと笑った。
「え、なになに〜?」
「スケベちゃんのスケベタイム?」
『違う』
即否定。
大事なことだから即否定だ。
『これは戦力強化だ』
『衣装でレアリティが変わる以上、着替えは重要なんだ』
「……」
リリンがじーっと見てくる。
ゼフィーも口元を隠しながら、くすりと微笑んだ。
『スケベ目的じゃない』
「目が泳いでますわよ?」
『気のせいだ』
「絶対うそじゃん♪」
モエがゲラゲラ笑う。
ぐっ……。
たしかに、かなり楽しみではある。
だが違う。
メインは安全確認だ。
本当だぞ。
俺は誤魔化すように咳払いすると、巨大な扉の前に立った。
ギィィ……。
ゆっくりと衣装室の扉が開いた。
そこに広がっていたのは――大量の衣装だった。
豪華なドレス。
戦闘用の軽装。
踊り子風。
魔女風。
姫騎士風。
水着。
バニー。
どう考えても防御力ゼロの布切れ。
そして何故か露骨に光沢のある怪しい衣装まである。
『魔王ストリート……相変わらず頭おかしいな……』
「これ絶対、戦う格好じゃなくない?」
モエが黒い紐みたいな衣装を摘まみながら言う。
俺もそう思う。
だが、この能力で重要なのは、装備の材質や防御性能じゃない。
見た目だ。
以前の検証でも、普通の服より、明らかに“レア衣装っぽい見た目”の方が能力値が上がっていた。
なんなら、物理的に考えたら絶対弱くなるだろって布面積でも、普通に強化されていた。
つまり――。
ファッション的に“イケてる感じ”なら強いのだ。
意味が分からない。
いや、ゲームとしては分かる。
分かるけど納得はしたくない。
それに、前回の衣装変更を見ていて思った。
どうもこのゲーム。
露出度や派手さに比例してレアリティ補正が上がってる気がする。
最低だな、このゲーム。
いや――。
最高かもしれん。
改めて思う。
魔王ストリート。
あのゲーム。
完全にソシャゲ運営の欲望で出来ている。
『……でも強くなるんだよなぁ』
性能を盛るために布が消える。
世のソシャゲと同じだった。
すると、モエが別の衣装を引っ張り出す。
「見てこれ♡」
黒と金を基調にしたギャルっぽい衣装。
大量のベルト。
肩出し。
腹出し。
無駄にジャラジャラした装飾。
どう見ても悪役寄りである。
「これ絶対アタシ用じゃん♡」
『似合いそうなのが悔しい』
「えへへ~♡」
モエはノリノリで鏡の前へ向かう。
一方。
リリンは少し離れた場所で、おろおろしていた。
「わ、わたしは普通のでいいです……!」
そう言いながら手に取っているのは、黒と紫を基調にしたドレス。
胸元にはハート型の宝石。
透け感のある袖。
細い宝石チェーン。
どう見ても高レア枠だった。
『普通とは』
「えっ」
『それ、めちゃくちゃSSRっぽいぞ?』
「えすえすあー……?」
まだ用語が分かってないらしい。
だが、リリンは鏡に映った衣装を見て、少しだけ目を輝かせていた。
……気になってはいるんだな。
『……でも強くなるんだよなぁ』
そして、ここで思い出す。
魔王ストリート。
あのゲーム――。
R18だった。
『……』
エッチなこと、できるんだろうか。
いや待て。
猫だぞ俺。
普通に考えたら無理だ。
だが――。
『ご褒美シーン』
あった。
確かにあった。
ゲーム内では魔法の力で主人公が人間化していた。
そして。
ズッコンバッコンしていた。
『……はっ』
俺は気づく。
『もしかしてマジックハンドって、その伏線じゃないか?』
今は前足だけ。
だが。
もしスキルを極めたら。
『全身人間化……!?』
「魔王さま?」
『なんでもない』
危ない。
思考がR18方向へ滑っていた。
だが、魔王ストリート。
実は少し特殊だった。
ご褒美シーンの相手。
必ずしも主人公ではない。
キャラ同士だったり。
モブ相手だったり。
ネットでは脳破壊された同志達が大量発生していた。
『……』
『そう考えると、ご褒美シーンはなくてもいいかもしれないな』
「何を納得してますの?」
『目の保養くらいが平和だ』
うん。
平和が一番。
俺は深く頷いた。
『よし!』
『動きやすい衣装に着替えて探索出発だ!』
そして。
ソシャゲ脳魔王による、倍速周回検証が始まろうとしていた。




