24話 風呂上がりと長すぎる1日 ☆
間違えて23話と24話を同時に投稿していたようです…
ですがブクマ、評価、感想いただいたので感謝の気持ちをこめて二話同時投稿ということにしておきます!
◇
湯気の立ち込める大浴場。
ちゃぷ……ちゃぷん……
静かな水音が響く。
暖かな空気。
石造りの壁。
広い湯船。
外は魔界だというのに、
この空間だけ妙に平和だった。
『……ふぅ』
俺は湯船へぷかりと浮かぶ。
気持ちいい。
疲れが抜けていく。
すると。
「ぷるる〜♪」
グミが湯の中で気持ちよさそうに揺れていた。
『……ちょっと溶けてないか?』
「ぷるっ」
いつもより柔らかい。
というか、若干伸びている。
リリンが慌てて両手で持ち上げる。
「……グミ、のびてます……!」
びよーん。
『伸びてるな』
モエが笑う。
「アハハ!スライム餅じゃん♡」
『食うなよ?』
「まだ食べてないしー?」
“まだ”ってなんだ。
怖い。
◇
風呂の隅では。
カタカタカタ……
カルシウムが、自分の骨を磨いていた。
『なんで風呂で骨磨いてんだよ』
「カタ……!」
妙に誇らしげである。
モエが笑いながら近づく。
「カルちゃん今日ツヤツヤじゃーん♡」
「……カタ♪」
少し嬉しそうだ。
完全に感情あるだろこいつ。
その近くでは。
ブモが慎重に湯船を移動していた。
小さい魔物達を踏まないように。
「ブモォ……」
『お前ほんと優しいよな』
「……ブモ」
照れてる。
分かりやすい。
脳筋なのに保護者感がすごい。
◇
その時。
ぽちゃん。
『ん?』
湯船に何か浮いていた。
腕だった。
『フラン!?』
見ると、
フランの左腕が取れていた。
「……」
本人は無反応。
無言で腕を拾い、
ぐっと差し込む。
装着完了。
『慣れてんなぁ……』
「……」
そのまま何事もなかったかのように湯へ浸かる。
ホラーである。
だが。
リリンが小さく言った。
「……フラン、ちょっと嬉しそうです……」
『……あー』
なんとなく分かる。
口元が、
少しだけ緩んでいる気がした。
◇
少し離れた場所では。
ふよふよ……
オバッキーが湯気の中を漂っていた。
胞子の影響なのか、
空気が妙に眠い。
『……なんか眠くないか?』
「ふわぁ〜……」
モエがもう半分寝ている。
リリンも目を擦った。
「……ねむいです……」
『オバッキーの胞子か』
「ぷしゅ〜……♪」
ちょっと嬉しそうだった。
癒し空間を作っている自覚があるらしい。
◇
『……』
俺は改めて周囲を見渡す。
大浴場。
湯気。
笑い声。
のんびりした空気。
魔物達まで風呂に入っている。
『……なんだこれ』
魔界感が薄い。
平和すぎる。
『でもまあ……悪くないか』
その時。
ゼフィーが静かに微笑んだ。
「魔王さま、かなり満足そうですわね」
『そりゃな』
『風呂は気持ちよかったし』
『目の保養にもなった』
「まあ♪」
ゼフィーが楽しそうに笑う。
危ない。
口が滑った。
モエがニヤニヤしている。
「スケベちゃん正直〜♡」
『もう隠さねぇ』
オープンスケベ大魔王である。
リリンが顔を真っ赤にして湯へ沈みかけていた。
◇
しばらくして。
俺達は風呂から上がった。
身体がぽかぽかする。
気持ちいい。
『……探索組も戻ったら入らせてやりたいな』
今外に出ているのは、
キャベツ。
コロ。
ホネ。
ピーマン。
ちび助。
ガウ。
SP消費による探索とレベル上げ中だ。
戦闘後自動回復が切れたら危険。
だから休息も重要になる。
『帰ってきたら風呂だな』
コロなんか絶対喜びそうだ。
ホネは沈みそうだけど。
◇
部屋へ戻る廊下。
静かな空気。
暖かな照明。
俺は軽く伸びをした。
『……さて』
あとは寝るだけだな。
かなり濃い一日だった。
いや。
濃すぎた。
目が覚めて。
リリンを召喚して。
周回して。
レベルを上げて。
城ができて。
眷属が増えて。
食堂ができて。
衣装室ができて。
ファッションショーが始まって。
大浴場ができて。
他にも色々あった……
『……』
情報量がおかしい。
『魔界に来て、まだ二日なんだよな……』
信じられない。
体感だと――
『……まるで小説で二十話くらい進んだ気分だ』
「……?」
リリンが首を傾げた。
『いや、独り言だ』
自分でも意味分からんかった。
◇
その時。
リリンがじっとこちらを見ていた。
『ん?』
「……もう、寝ちゃうんですか……?」
『あー……』
思い出した。
ファッションショー前に約束していた。
リリンの部屋で撫でられるって。
『……忘れてた』
「……っ」
一瞬。
リリンの尻尾が、
しゅんと下がる。
『悪い』
『ちゃんと覚えてたんだけど、色々ありすぎてな』
「……ほんとですか?」
『ほんとほんと』
すると。
リリンの表情が、
少しだけ柔らかくなる。
「……なら、よかったです……」
小さく尻尾が揺れた。
◇
リリンの部屋。
柔らかな灯り。
ふわふわしたベッド。
可愛らしい小物。
どこか甘い香り。
『……完全に女の子の部屋だな』
「……リリンの部屋です……」
その通りだった。
リリンがベッドへ座る。
そして。
期待した目でこちらを見る。
『……』
分かりやすい。
俺はベッドへ飛び乗った。
すると。
リリンが、そっと俺を抱き上げる。
「……えへへ……」
そのまま膝の上へ乗せられた。
『お、おう』
なんか慣れたなこれ。
リリンは嬉しそうに、
俺の頭を撫で始める。
なで……なで……
耳。
頬。
首元。
黒い毛並みを、
優しく指が梳いていく。
「……まおーさま、ふわふわです……」
『猫だからな』
「……かわいい……」
『魔王なんだけどな……』
魔王である。
だが。
リリンの目は完全に、
“可愛い猫を見る目”だった。
尊敬はしている。
ちゃんと魔王だとも思っている。
でも同時に――
“可愛い”
らしい。
複雑だ。
「……えへへ……」
リリンは幸せそうに、
俺を抱えたまま撫で続ける。
耳の後ろを触られると妙に落ち着く。
『……』
猫化してから変なところで猫っぽくなった気がする。
リリンが小さく呟いた。
「……まおーさま、今日もすごかったです……」
『ん?』
「……ごはんも、お風呂も……」
「みんな、嬉しそうでした……」
『……まあな』
リリンは俺の背中を優しく撫でる。
「……まおーさま、やさしいです……」
『そうか?』
「はい!」
即答だった。
なんだか少し照れる。
そのまま。
静かな時間が流れる。
暖かな部屋。
柔らかなベッド。
優しく撫でる小さな手。
『……』
悪くない。
かなり。
心地良かった。
しばらくして。
リリンの撫でる手が
ゆっくり止まる。
「……すぅ……」
『……寝たか』
眠っていた。
俺を抱えたまま。
完全に安心しきっている。
『……』
寝顔を見る。
無防備だ。
角も尻尾も
力が抜けている。
『風邪引くぞ』
俺はリリンの腕からそっと抜け出した。
ぴょん、とベッドへ降りる。
そして。
前足で布団を引っ張る。
『ぬっ……』
猫の身体だと地味にやりづらい。
俺はスキル《マジックハンド》を発動する。
前足が人間の手へ変化した。
『よし、これなら――』
何とかリリンの身体へ布団をかける。
「……んぅ……」
少しだけ身じろぎする。
だが起きない。
布団へ包まれると
安心したように小さく丸まった。
『……よし』
ちゃんと寝かせられたな。
俺は満足する。
その時。
リリンが寝ぼけたまま
布団の中から手を伸ばした。
ぎゅっ。
『おわっ』
捕まった。
しかも離さない。
「……まおーさま……」
寝言だった。
『……』
仕方ない。
俺はそのまま
布団の端へ潜り込む。
暖かい。
『……猫って便利だな』
小さいから余裕で入れる。
リリンは安心したように
俺を抱え込んだ。
『……』
悪くない。
かなり。
そんなことを思いながら――
俺も静かに
眠りへ落ちていった。




