23話 大浴場 ☆
間違えて23話と24話を同時に投稿していたようです…
ですがブクマ、評価、感想いただいたので感謝の気持ちをこめて二話同時投稿ということにしておきます!
食事を終えた後。
『……さて』
俺は椅子の上で軽く伸びをする。
満腹。
暖かい食事。
落ち着いた空気。
かなり満たされていた。
だが――
『飯の後と言えば、やっぱ風呂だよな』
「おふろー♡」
モエが即反応する。
リリンが呟く
「……また、お風呂はいってもいいですか……?」
(きもちよかったです……)
『当然いいに決まっている!』
ゼフィーは優雅に微笑む。
「ふふ。あれほどの食事の後ですもの。お風呂も期待してしまいますわ。」
『よし。行くか』
食堂を出て、大浴場へ向かう。
廊下を歩きながら、
俺は改めて城の異常さを感じていた。
広い。
静か。
暖かい。
しかも清潔だ。
誰も掃除していないはずなのに、
埃ひとつ落ちていない。
『……マジでどうなってんだこの城』
カルシウム辺りが夜中に掃除してる可能性もあるけど。
あいつ妙に几帳面だし。
◇
大浴場の扉を開く。
その瞬間――
ぶわっ、と湯気が流れ出た。
暖かな空気。
石造りの床。
反響する水音。
広い。
とにかく広い。
「うわっ……!」
モエが目を輝かせる。
「なにここ!?」
「温泉テーマパークじゃん!」
『テーマパークは知らんだろお前』
「なんかそんな感じするの!」
実際、分からなくもない。
巨大な湯船。
寝湯。
露天風の場所。
泡が出てる場所まである。
『風呂の種類多すぎだろ……』
ゼフィーも静かに周囲を見渡していた。
「……これほど大量のお湯を使うとは」
「贅沢ですわね」
『そんな珍しいのか?』
「ええ」
ゼフィーが頷く。
「水も、燃料も、安全も必要ですもの」
「特に今の魔界では、ここまで余裕のある浴場は滅多にありませんわ」
『……』
食事だけじゃない。
風呂ですら贅沢。
思った以上に、
魔界の環境は悪いらしい。
◇
その時。
「……」
リリンが、もじもじしていた。
『ん?』
「……まおーさま」
『どうした?』
「……」
視線が泳ぐ。
頬が赤い。
『……あー』
思い出した。
元人間バレしてた。
前までは、
猫だから平気だった。
だが今は違う。
“元人間の男”
という認識が入ってしまっている。
『大丈夫大丈夫』
俺は軽く前足を振る。
『僕、悪い猫じゃないよ』
「……?」
当然通じない。
モエだけ笑った。
「なにそれー♡」
『昔いた世界のネタだ』
『ほら、最初にも言っただろ』
『種族が違う』
『俺なんて常に全裸だぞ』
「……そ、それはそうですけど……」
リリンが顔を赤くする。
『だから気にする必要ない』
『安心しろ』
『俺は猫だ』
「……でも元人間さんです……」
『……』
ダメだ。
今回は誤魔化せない。
モエがニヤニヤしていた。
「でもスケベちゃん、うちらのこと見て興奮するんでしょー?」
『……』
『する』
「認めたー!!♡」
『もう隠さねぇ』
衣装室で限界を迎えた。
オープンスケベ大魔王である。
リリンが真っ赤になる。
「ま、まおーさま……!」
だが、その時。
ゼフィーが微笑んだ。
「わたくしは、魔王さまを魔王として認めていますわ」
『ん?』
「ですから、護衛しなければなりません」
嫌な予感。
次の瞬間。
ふわっ。
『待て』
抱え上げられた。
「なので、一緒に入りますわ♪」
『待てって』
そのままゼフィーが歩き出す。
揺れる。
色々揺れる。
近い。
非常に近い。
『……』
危険だ。
精神的に。
モエは爆笑していた。
「アハハッ!」
「スケベちゃん運ばれてるー♡」
リリンも慌てて追いかけてくる。
「ま、待ってくださいー!」
さっきまで恥ずかしがっていたのに、
もう吹っ切れたらしい。
ちゃぷん。
湯船へ入る。
『……はぁ』
思わず息が漏れる。
暖かい。
身体が溶ける。
『やっぱ風呂は最高だな……』
ゼフィーも静かに湯へ浸かる。
モエは泳いでいる。
自由すぎる。
リリンは少し離れた場所で、
恥ずかしそうに肩まで浸かっていた。
湯気。
水音。
暖かな空気。
なんというか――
平和だ。
外は魔界だというのに。
◇
しばらくして。
俺は湯船に浮かびながら、
ふと思ったことを口にした。
『そういえばさ』
「なんでしょう?」
ゼフィーがこちらを見る。
『この森って、なんか変じゃないか?』
「変、ですか?」
『全部って訳じゃないけど』
『黒っぽく枯れた木、多くないか?』
森を探索していて、
ずっと気になっていた。
普通の草木もある。
だが。
ところどころ、
黒ずみ、痩せ、枯れかけた木が混ざっている。
空気も少し重い。
すると。
ゼフィーが目を細めた。
「……なるほど」
「さすが魔王さまですわ」
『いや、そんな大層なもんじゃ』
「いえ」
ゼフィーが静かに続ける。
「まだ少ししか探索していないので、断言はできませんが――」
「恐らくここは、“黒樹海”と呼ばれる地域ではないかと」
『黒樹海?』
「ええ」
湯気の向こうで、
ゼフィーの表情が少し真面目になる。
「東方に存在する、魔素の薄い瘦せた土地ですわ」
「王都の者達からは、ほとんど見向きもされません」
『……』
「土地は痩せ、資源も少ない」
「強力な魔物も少ないですわ」
「ですから、危険度も低い」
なるほど。
『チュートリアル……』
『なるほどな』
『初心者向けマップってことか』
「ちゅーとりある……?」
『初心者向けって意味だ』
「ああ……」
ゼフィーが少し納得したように頷く。
『ゲームとして考えると、かなり自然なんだよな』
最初から、
王都近くの危険地帯に放り込まれていたら即終わっていたかもしれない。
いや猫だから変なことしなけりゃ大丈夫か。わからん。
だが。
この土地は違う。
弱い魔物。
少ない資源。
見捨てられた辺境。
だからこそ――
俺みたいな新米魔王でも何とかなりそうだ。
『……ちゃんと考えられてるな』
誰が。
何のために。
そこまでは分からない。
だが。
この世界には、
明らかに“ゲーム的な意図”が存在している。
湯船にぷかぷか浮かびながら、
そんなことを考える。
その時。
『……てか、ゼフィーなんか詳しいな』
「ふふ」
ゼフィーが微笑む。
「わたくし、王都出身で王都に住んでいましたもの」
『あー、なるほど』
だから知識があるのか。
やっぱ辺境とは情報量が違うんだろう。
『……ん?』
ふと。
違和感が浮かぶ。
『待てよ』
ゲームでは普通だった。
ガチャを引く。
キャラが出る。
それだけ。
だが。
『これ、現実なんだよな……?』
俺は湯の中で固まる。
『……召喚って、どうなってるんだ?』
聞こえる所にいたのか、モエが首を傾げる。
「どういう意味ー?」
『いや』
『お前らって、この世界の住人だったんだろ?』
「そだよ?」
『じゃあ俺のガチャって……』
嫌な予感がした。
『この世界の誰かを引っ張ってきてるのか?』
「……」
一瞬。
空気が止まる。
『……それって誘拐では?』
ゲームなら笑える。
だが。
現実で考えると、
かなりヤバい。
『ソシャゲを現実換算すると怖ぇな……』
俺は思わず真顔になる。
気になった。
かなり気になる。
『おーい』
俺は手招きする。
『リリン、モエもこっち来い』
「はーい♡」
「……はい……」
二人が近くへ寄ってくる。
湯気の中。
四人で湯船に浸かりながら、
俺は尋ねた。
『お前ら、元々どこにいたんだ?』
最初に答えたのはゼフィーだった。
「わたくしは王都ですわ」
「南区画のネロヴァという場所におりました」
『ネロヴァ』
初めて聞く地名だ。
リリンも小さく頷く。
「……リリンも、王都です……」
「ネロヴァにいました……」
『お前ら知り合いだったのか?』
リリンが答える。
「……いえ」
「でも、名前くらいは知ってました……」
なるほど。
狭い世界なのかもしれない。
モエは肩まで湯に浸かりながら言った。
「もえは別の街ー」
「王都じゃないけど、結構にぎやかなとこだったよ?」
『へぇ』
つまり。
三人とも、
ちゃんとこの世界で生活していた。
人生があった。
日常があった。
『……』
やっぱり、
ただのデータじゃない。
完全に“生きてる存在”だ。
すると。
ゼフィーが静かに言った。
「ですが」
「召喚された瞬間、理解しましたわ」
『ん?』
「強い存在に呼ばれた、と」
リリンも小さく頷く。
「……なんとなく、感覚で分かりました……」
モエも湯をぱしゃぱしゃしながら続ける。
「なんかねー」
「“この人が主だ”って感じ?」
「なのに猫だし知らん場所だし混乱したよねー」
『……』
契約。
眷属化。
ゲームでは、
ただのシステムだった。
だが。
現実では、
もっと本能的な何かなのかもしれない。
『……怖ぇな』
俺がぼそっと呟くと。
ゼフィーがくすりと笑った。
「ふふ」
「ですが、嫌ではありませんわ」
「わたくしは、魔王さまを気に入っていますもの」
『……』
さらっと言うな。
モエも笑う。
「モエはここでの生活楽しみ!わくわくするー!」
「ご飯うまいし、お風呂あるし♡」
リリンも小さく頷いた。
「……リリンも」
「ここ、好きです……」
『……』
なんか。
ちょっと安心した。
無理やり従わせてるだけだったら、
かなり罪悪感があったし。
『……まあ』
俺は湯船に浮かび直す。
『だったら、ちゃんと面倒見るか』
魔王。
眷属。
領域。
まだ全部よく分かってない。
でも。
少なくとも。
この城に来た連中には、
安心して暮らしてほしい。
そう思った。




