1話 猫になった俺
魔界。
それは、悪魔や魔物、怪物と呼ばれる存在たちが住まう世界。
そしてその魔界は、ひとつではない。
宇宙に無数の星があるように――
魔界もまた、無数に存在しているらしい。
そんな魔界のひとつ。
薄暗い森の中で、俺は今日も周回していた。
『……次』
ピッ。
スマホをタップした瞬間、空間が裂ける。
黒い亀裂。
そこから、新たな魔物が這い出してきた。
「またですかぁぁぁ!?」
涙目のリリンが叫ぶ。
『スタミナが余ってるんだよ』
「体は回復しても心が回復しないんですぅぅ!!」
魔物が飛びかかる。
リリンが半泣きで魔法を放つ。
ボンッ!!
爆発。
【戦闘終了】
【勝利】
【経験値を獲得しました】
【プレイヤーレベルが上がりました】
『よし、続行』
「鬼ですぅぅぅ!!」
……そんな感じで。
俺は現在、絶賛レベル上げ中である。
戦闘中、わりと暇なので――
今後の方針を考えるついでに、ここ数日の出来事を整理することにした。
数日前。
俺は、見知らぬ森の中で目を覚ました。
目が覚め、意識がはっきりした瞬間――混乱した。
草木が生い茂る森。
湿った土の匂い。
耳元では虫の羽音がうるさいほど響いている。
薄暗い。
空気も重い。
どう考えても日本じゃない。
『……なんだここ』
意味がわからなかった。
目覚める直前の記憶をたどる。
……森に入った覚えなんてない。
俺は家にいたはずだ。
いつも通り、部屋でゲームをしていた。
上手くいかなくて――
そのまま、ふて寝した。
一瞬、誘拐かとも思った。
だが、こんな虫だらけの森に放置される理由がわからない。
しかも一人。
意味不明すぎる。
『……夢か?』
だが。
妙に感覚がリアルだった。
土の冷たさ。
草の感触。
湿気。
全部、生々しい。
とりあえず状況確認しようと思い、立ち上がろうとする。
――だが。
身体が、うまく動かなかった。
『……は?』
手足が短い。
重心がおかしい。
そもそも、立ち上がれない。
不思議に思い、自分の身体を見る。
黒い毛。
肉球。
ヒゲ。
『……』
嫌な予感がした。
恐る恐る前足で顔を触る。
すると、耳の位置が違う。
いつもの場所に耳がない。
頭の上に、ぴくりと動く獣の耳があった。
「……にゃ」
口から出たのは猫の鳴き声。
『……』
どうやら俺は、猫になってしまったらしい。
鏡がないので全身は見えない。
だが、確認するまでもなかった。
完全に猫だ。
また混乱した。
普通ならパニックになってもおかしくない。
だが――不思議と、すぐ冷静になった。
むしろ、妙に頭が冴えていく。
目覚めたら森。
猫の姿。
異世界っぽい空気。
……この状況。
『経験あるんだよな』
ゲームで。
思い出す。
目覚める直前までプレイしていたゲーム。
――《魔王ストリート》。
プレイヤーが“魔王側”として、魔物や悪魔を率いながら魔界統一を目指すゲームだ。
もともとはPC専用ゲームだったが、最近スマホ版との連動機能が追加された。
ちなみにPC版はR18。
好感度を上げるとエロシーンが解放されるタイプである。
……あっ。
俺としたことが――
ふて寝してしまったせいで、就職前のソシャゲのスタミナ消費してねぇわ。




