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プロローグ

しばらく毎日投稿していきます。

とある魔界の森の中。

湿った土の匂いと濃い魔素の気配が漂うその場所で――


ひとりの少女が、必死に息を荒げていた。

「はぁっ……はぁっ……!」


肩で息をしながらも、少女はその場に崩れない。

小さな体。細い手足。だがその姿は、明らかに人間ではなかった。


頭から生える小さな角。背中にはコウモリのような翼。


そして腰のあたりから伸びる細い尻尾。

――悪魔。


それも、どう見ても幼い。見た目は幼い。

ピンク色のツインテールが揺れ汗に濡れて頬に張りついている。


そして何より――

その服装。胸元も太ももも大きく露出した、いかにも“サキュバス”といった格好。

はっきり言ってしまえば、かなりエロい。


(これ、日本なら即通報案件だろ)


俺は心の中でツッコミを入れる。だがここは日本ではない。


魔界だ。なら――セーフだ。たぶん。


「もう……リリンは戦いたくないですぅぅ……!」


少女――リリンが涙目で叫ぶ。その目の前には、牙を剥いた魔物。


低く唸り今にも飛びかかってきそうな獣型の存在だ。


普通なら、逃げる。だがリリンは逃げない。

震えながらも、その場に踏みとどまっている。


(こわい……でも……)


その感情が――


俺の頭に直接流れ込んでくる。


『いいね、その気持ち』


俺は軽く応じる。もちろん声には出していない。


出せないのだ。なぜなら――


「にゃ」


俺は猫だからだ。黒い毛並み。肉球。ヒゲ。完全に猫。


どういうわけか魔界で猫の姿になってしまった俺は――


この状況を少し離れた場所から“操作していた”


手元にあるのは、一台のスマートフォン。

現代日本で使っていたものと、まったく同じ形。


だが違うのは――

『これ俺にしか見えてないんだよな』


画面には見慣れたゲームのUI。


タイトルは――


『魔王ストリート』


ついさっきまで俺が遊んでいたソシャゲだ。


「はやく終わりにしてくださいぃぃ……!」

リリンが涙声で訴える。だが俺は、画面から目を離さない。


『ダメだ。スタミナが余ってる』


「鬼ですかぁぁぁ!?」


『効率だよ効率。レベル上げないと始まらないだろ』


「体は回復しても心が回復しないんですぅぅ!!」


……正論だが、無視だ。

俺は画面をタップする。


ピッ。


その瞬間――


空間が歪んだ。


「ひっ……!」


リリンがビクッと震える。

空気がねじれ、黒い裂け目が開く。

そしてそこから――


新たな魔物が、這い出てきた。


「うわああああああああ!!またぁぁぁ!?」


『はい次の戦闘開始』


俺は淡々と操作する。完全に“ゲーム感覚”だ。

だが現実だ。


魔物は本物だし、リリンも本物。


そして――


戦えば、ちゃんと強くなる。

それがわかっているから、止める理由がない。


「もう無理ですぅぅ……!」


涙目で叫びながらもリリンは動く。地面を蹴り魔物に向かっていく。


その動きは速い。小さな体からは想像できないスピードだ。


そして――


「はぁっ!!」


ボンッ!!


小さな爆発。魔物が吹き飛ぶ。

しばらくして――静寂。


戦闘終了。


同時にリリンの体が淡く光る。

傷が消え疲労も消える。まるで何事もなかったかのように。


「……あれ?」


(なおった……?)


『戦闘後は全回復。仕様通りだな』


俺はスマホを確認する。経験値獲得。

レベルアップ。スタミナ増加。


『……よし』


順調だ。完璧に回っている。

だがそのとき――


「……まおーさま」


リリンが、ふらふらと近づいてくる。


(つかれました……)


『体は回復してるだろ』


(こころが……)


『精神疲労か』


なるほど。そこは回復しないらしい。

ゲームの穴だな。

……まあいい。


俺は画面を閉じる。


『この戦闘が終わったら休憩でいいぞ』


「ほんとですか……!?」


ぱあっと表情が明るくなる。


(やっと……やすめる……)


……まあ、スタミナ的にもそろそろ限界だ。

そのくらいはいいだろう。


だが次の瞬間――


リリンの表情が、ぱっと変わった。


「じゃあ……!」


とてとてと近づいてくる。


「約束ですからね……?」


『ん?』


「なでます」


『あ』


すっ――


小さな手が、俺の頭に触れる。


なで……なで……


『……』


あったかい。

やわらかい。

やさしい。


その瞬間。


喉の奥が勝手に震えた。


ゴロゴロゴロ……


ちょ、待て、勝手に鳴るな


止められない。完全に猫の本能だ。


「わぁ……!」


リリンの感情が一気に弾ける。


(かわいい……!)


なで……なで……


(もっと……)


『おい』


なで……なで……


(もっと……!)


『おいおい』


ゴロゴロゴロゴロ……


止まらない。完全に支配されている。

……だが。


『……まあ、いいか』


悪くない。むしろ、かなりいい。


猫の体。


謎のスマホ。


そして眷属の悪魔。


わけがわからない状況だが――

ひとつだけ確かなことがある。


『これ、めちゃくちゃ面白いな』


俺はスマホを見つめる。まだスタミナは残っている。


ガチャも引ける。戦闘もできる。


そして――


強くなれる。


『……さて』


猫の魔王。


スケベ大魔王。


その物語は――


もう、とっくに始まっていた。

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