第52話:STILL WATERS RUN DEEP
VEIL-09のセンサーが、光を捉えた。
B戦域の混戦。Genea側の量産機がAionの撤退部隊を追い回し、光条が交差し、機体の破片が散っている。その中に、一機だけ違う動きをしているものがあった。
速い。
量産機とは桁が違う加速で、Aion側の機体を一機ずつ落としている。センサーが識別コードを返す。
ORIGIN-01《VEGA》。
マリアの指が、操縦桿の上で動いた。
ここまで二十分。Aionの撤退機に紛れて来た。VEEの隊列復帰警告は六回目で消した。七回目は来なかった。
VEGAは三機の量産機を相手にしている。一機が墜ち、二機目が退き、三機目が射線を変えた瞬間にVEGAが横を抜けて背後を取った。あの大規模会戦で、マリアはVEGAと直接戦っている。RB-3とRB-1を同時に発動した昴に武装を全て剥がされた。開けた宙域で正面から挑めば、勝てない。
だから、正面からは行かない。
マリアは機体の出力を絞った。VEGAが三機目を落とすのを待つ。落とした直後の一瞬——センサーが広域に切り替わる空白。
三機目の推進器が爆発した。
VEIL-09が加速した。残骸の影から飛び出し、VEGAの左側面に突っ込む。死角から入る。
衝撃。
二機の装甲が擦れ、火花が散った。VEGAが弾かれて回転する。この一撃で落とすつもりはない。注意を引く。こちらに向かせる。
VEGAが体勢を立て直した。
マリアは小惑星帯の方向へ機首を向けた。B戦域の外縁に、岩塊が密集した宙域がある。障害物の中なら、VEGAの速度は殺せる。射線が通らない。格闘距離に持ち込める。
加速。背後にVEGAの反応。
——追ってきた。
マリアの心臓が跳ねた。追ってくると分かっていたのに。
*
左肩の外装に擦過痕。構造に問題はない。
『識別コード、VEIL-09。マリアだ』
パラス隊にいたはずの機体が、単独でここにいる。
VEIL-09が小惑星帯の方向へ加速している。
『スバル、罠だ。障害物でVEGAの機動性を殺す気だ』
「分かってる」
通信が入った。味方の量産機からだ。
《VEGA、大丈夫か! 今の衝撃——》
「大丈夫だ。あの機体を追う」
《——待て、天城! 単独行動は許可されてない! 指揮系統に——》
昴は通信を切った。
コックピットが静かになった。味方の声が消え、戦場のノイズが消え、残ったのはVEGAの駆動音とPQの気配だけだった。
『スバル。通信、切ったね』
「ああ」
『……了解』
PQはそれ以上何も言わなかった。
VEGAが加速した。味方の反応が後方に遠ざかる。
前方に、小惑星帯。岩塊が無数に漂う暗い空間。太陽光が岩の影に遮られ、センサーの有効範囲が落ちる。
マリアは、ここを選んだ。VEGAの速さも、RBの恐ろしさも知っているから、地形で殺しにきた。正しい戦術だった。
『……スバル、マリアは殺す気かもしれない』
「知ってる」
それでも、追う。マリアが敵だということは分かっている。通信を切ったことも。軍規違反だということも。
ただ、行かなければいけないと思った。
VEGAが小惑星帯に入った。前方に、VEIL-09の排熱痕。
マリアは、奥で待っている。
*
REGULUSは、単独で移動していた。
VEEが戦況を更新した。
「CASTOR、POLLUX——戦闘不能。パイロットは生存。重傷」
ルシアンは応答しなかった。
「VEIL-09、B戦域外縁、小惑星帯方向。ORIGIN-01《VEGA》も同方向へ移動。交戦の可能性」
「最短コースを出せ」
「到着まで推定十四分」
ルシアンはモニターから目を離さなかった。双子が壊され、マリアが逃げ、戦線が崩れた。全てが、ほどけていく。
マリアを回収する。
それだけが、今のルシアンを動かしていた。




