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不死の彼女は三度目に俺を殺すーPQ: Rebirth Protocolー  作者: 深蒼 理斗


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第37話:誰かを責めたくて仕方ないんだ

基地の医療区画は、混乱していた。

 負傷者が、次々と運び込まれる。

 日和は、必死で処置を続けていた。

 止血。固定。トリアージ。

 全部、学んだ通りに。

 でも――

 現実は、教科書よりも残酷だった。

 血の匂い。

 うめき声。

 死の気配。

 日和は、涙を堪えながら、手を動かし続けた。

 ――その時。

 亘一が、医療区画に入ってきた。

 日和の姿を見つけた。

「日和!」

 日和が、顔を上げた。

 亘一の顔を見た瞬間――

 張り詰めていた糸が、切れた。

 日和は、亘一に駆け寄った。

 そして――

 抱きついた。

「……亘一さん」

 日和の声が、震えた。

「怖かった……」

 亘一は、日和を抱きしめた。

「……大丈夫。もう、終わった」

「でも、ヤヒロさんが――」

 日和が、泣き出した。

 亘一は、何も言わなかった。

 ただ、日和を抱きしめ続けた。

 ――その頃。

 昴は、ヤヒロの私物を整理していた。

 整備区画の、ヤヒロの作業台。

 工具が、綺麗に並んでいる。

 整理整頓されている。

 ヤヒロらしい。

 昴は、工具箱を開けた。

 中には、工具だけじゃなく――

 写真が、一枚入っていた。

 若い頃のヤヒロ。

 笑顔で、誰かと肩を組んでいる。

 家族か、友人か。

 昴には、分からなかった。

 でも――

 ヤヒロにも、大切な人がいたんだ。

 昴は、その写真を見つめた。

 涙が、零れた。

『スバル……』

 PQの声が、優しかった。

「……何?」

『無理しないで』

「……無理なんか、してない」

 昴の声が、震えた。

「ただ、ヤヒロの遺品を、整理してるだけだ」

『でも、君、泣いてる』

「……泣いてない」

 昴は、涙を拭った。

 でも――

 止まらなかった。

 PQは、何も言わなかった。

 ただ、そこにいてくれた。

 昴は、写真を工具箱に戻した。

 そして――

 工具箱を閉じた。

「……PQ」

『うん』

「俺、ヤヒロに何もしてあげられなかった」

 昴の声が、震えた。

「間に合わなかった」

『……スバルのせいじゃない』

「でも――」

『スバルのせいじゃない』

 PQが、繰り返した。

『ヤヒロは、自分で選んだ。戦うことを』

 昴は、何も言えなかった。

『それは、誰のせいでもない』

 PQの声が、温かかった。

『だから、自分を責めないで』

 昴は、天井を見上げた。

 涙が、頬を伝った。

「……でも、悔しい」

『……うん』

「許せない」

 昴の声が、低くなった。

「Aionを、許せない」

 PQは、何も言わなかった。

 ただ、昴の感情を、受け止めていた。

 昴は、拳を握った。

 ――ヤヒロ。

 お前の分まで、俺は戦う。

 昴は、心の中で誓った。

 ――その夜。

 昴は、マリアの独房へ向かった。

 監視兵が、止めた。

「天城、今日は面会許可が出ていない」

「……分かってる」

 昴が、答えた。

「でも、会わせてくれ」

「規則だ」

 監視兵が、首を振った。

 昴は、食い下がった。

「頼む。五分でいい」

「駄目だ」

 監視兵が、断固として拒否した。

 昴は、諦めた。

 でも――

 独房の扉の前に立った。

 そして――

 小さく、呟いた。

「……マリア、聞こえるか?」

 返事はなかった。

 でも――

 昴は、続けた。

「今日、ヤヒロが死んだ」

 昴の声が、震えた。

「Aionの奪還作戦で」

 昴は、扉に額をつけた。

「……お前を、取り返そうとして」

 沈黙。

 昴は、続けた。

「お前のせいじゃない。分かってる」

 昴の声が、優しくなった。

「でも、俺、今、誰かを責めたくて仕方ないんだ」

 昴は、拳で扉を叩いた。

「……なんで、こんなことになったんだ」

 その時。

 扉の向こうから、小さな声が聞こえた。

「……ごめんなさい」

 マリアの声だった。

 昴は、息を呑んだ。

「マリア……」

「私のせいで、ヤヒロさんが――」

 マリアの声が、震えていた。

「ごめんなさい」

 昴は、何も言えなかった。

 ――違う。

 マリアのせいじゃない。

 でも、そう言えなかった。

 昴の心は、混乱していた。

 怒りと、悲しみと、優しさが、混ざり合っていた。

 昴は、扉に手を置いた。

「……マリア、お前のせいじゃない」

 昴の声が、優しくなった。

「戦争のせいだ」

「……でも」

「お前のせいじゃない」

 昴が、繰り返した。

 沈黙が、流れた。

 そして――

 マリアの声が、小さく聞こえた。

「……ありがとう」

 昴は、小さく笑った。

 昴は、扉から離れた。

 監視兵が、昴を見ていた。

「……もういいのか?」

「……ああ」

 昴は、頷いた。

 そして――

 去った。

 ――マリアは、独房の中で、扉に手を置いていた。

 昴が、去っていく足音が聞こえた。

 マリアは、涙が零れた。

 ――優しい。

 やっぱり、優しい。

 透と、同じ。

 彼方と、同じ。

 でも――

 マリアは、涙を拭った。

 そして――

 心の中で、決意した。

 ――もう、これ以上、誰も死なせたくない。

 スバルも、日和も、亘一も。

 みんな、守りたい。

 でも――

 どうすればいいのか。

 マリアは目を閉じた。

 答えは、まだ見つからない。

 でも、何かが変わり始めている――そんな予感だけが、胸に残っていた。

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