第33話:襲撃
夜明け前。
昴は、VEGAのコックピットに座っていた。
出撃前の静寂。
周囲には、他の機体が並んでいる。亘一のARGONAUT《SHIFT》も、すぐ隣にあった。
『スバル、準備はいい?』
PQの声が、優しかった。
「……ああ」
昴は、深呼吸した。
――大丈夫。
今回の作戦は、掃討作戦。
Aion側の前線拠点を叩く。
それだけだ。
でも――
昴の心は、ざわついていた。
嫌な予感が、消えない。
亘一の声が、通信で聞こえた。
『スバル、調子はどうだ?』
「……大丈夫」
『そうか』
亘一の声が、少しだけ心配そうだった。
『何かあったら、すぐに言えよ』
「……ああ」
昴は、頷いた。
――その時。
黒瀬の声が、全体通信で響いた。
『全機、出撃せよ』
VEGAが、立ち上がった。
推進器が、唸りを上げる。
昴は、基地を見下ろした。
格納区画。
そこに、ヤヒロがいる。
日和も、医療班の詰め所にいる。
――大丈夫。
防衛部隊が、残っている。
何も、起きない。
昴は、自分に言い聞かせた。
VEGAが、飛び立った。
夜明けの空。
星が、まだ見えている。
昴は、前を向いた。
――行くぞ。
――その頃。
基地の格納区画。
ヤヒロは、VEGAの整備記録を整理していた。
静かだった。
整備班の他の連中は、休憩中。
ヤヒロだけが、残っていた。
「……ふう」
ヤヒロは、記録を閉じた。
そして――
VEGAの格納スペースを見た。
空っぽだった。
VEGAは、今、出撃中。
ヤヒロは、少しだけ寂しいと思った。
「……スバル、無事に帰ってこいよ」
ヤヒロは、呟いた。
――その時。
警報が、鳴り響いた。
けたたましい音。
ヤヒロは、飛び上がった。
「……何だ!?」
通信が、入った。
『格納区画、敵襲! 繰り返す、格納区画、敵襲!』
ヤヒロは、窓の外を見た。
空から、機影が降りてくる。
複数。
Aion側の機体だった。
「……くそ!」
ヤヒロは、走った。
整備班の連中を起こす。
「起きろ! 敵が来た!」
整備班の連中が、慌てて飛び起きた。
「何!?」
「Aion側の機体が、格納区画を狙ってる!」
ヤヒロが、叫んだ。
「防衛部隊は!?」
『防衛部隊、迎撃中! だが、数が多い!』
通信が、悲鳴のようだった。
ヤヒロは、歯を食いしばった。
――くそ。
これは、囮だったんだ。
Aion側の本命は、こっちだった。
ヤヒロは、整備班の連中に叫んだ。
「何があっても、VEGAの格納スペースを死守する!ここをやられるとVEGAを整備できなくなる!」
「でも、俺たち、戦闘訓練受けてない!」
「関係ねえ!」
ヤヒロが、工具箱を掴んだ。
「使える物は、全部使う! 行くぞ!」
整備班の連中が、頷いた。
そして――
格納区画の防衛線が、張られた。
――その時。
前線。
昴は、Aion側の拠点を攻撃していた。
でも――
敵が、いない。
拠点は、ほぼ無人だった。
『スバル、おかしい』
PQの声が、警告した。
『敵が、少なすぎる』
「……ああ」
昴も、気づいていた。
これは――
囮だ。
昴は、通信を開いた。
「黒瀬司令! これは囮です! 基地が――」
その時。
通信が、入った。
『全機に告ぐ! 基地が襲撃を受けている! 格納区画、交戦中!』
昴の血の気が、引いた。
「……基地!?」
『直ちに帰投せよ!』
黒瀬の声が、叫んだ。
昴は、VEGAを反転させた。
「PQ、全速!」
『了解!』
VEGAが、加速した。
昴の心臓が、バクバクと跳ねていた。
――ヤヒロ。
日和。
みんな、無事でいてくれ。
昴は、祈った。
でも――
間に合うのか。
答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。
――格納区画。
ヤヒロは、溶接トーチを振り回していた。
Aion側の兵士が、突入してくる。
ヤヒロは、トーチで威嚇した。
「来るな!」
炎が、兵士を押し返す。
でも――
弾が、飛んでくる。
ヤヒロは、物陰に隠れた。
「くそがよーーー!」
ヤヒロが、叫んだ。
整備班の連中も、必死で抵抗していた。
工具を投げる。
オイルを撒く。
電源ケーブルで感電させる。
あらゆる手段を使って、時間を稼いだ。
でも――
敵は、多すぎた。
ヤヒロは、背中を壁につけた。
息が、荒い。
身体が、重い。
――もう、限界か。
でも――
まだ、諦めない。
ヤヒロは、立ち上がった。
そして――
VEGAの格納スペースを見た。
空っぽだった。
VEGAは、今、戻ってきている。
もう少し。
もう少しだけ、時間を稼げば。
ヤヒロは、トーチを握り直した。
「……来いよ、くそったれども」
ヤヒロが、笑った。




