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不死の彼女は三度目に俺を殺すーPQ: Rebirth Protocolー  作者: 深蒼 理斗


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第29話:そういう人が必要だと思う

基地に戻って、三日。

 昴は、やっと日常を取り戻しつつあった。

 VEGAの最終整備。報告書の作成。医療チェック。

 全部、淡々とこなした。

 でも――

 心は、どこか別の場所にあった。

 マリアのことを、考えていた。

 今、どうしてるんだろう。

 独房で、一人で。

 怖がっているんだろうか。

 それとも――

『スバル、また考えてる』

 PQの声が、イヤモニから聞こえた。

「……バレてるか」

『当たり前。心拍が上がってる』

 PQが、少しだけ呆れたような声を出した。

『マリアのこと、そんなに気になる?』

「……分からない」

 昴は、正直に答えた。

「でも、放っておけない」

『……そう』

 PQは、何か言いたそうだった。

 でも、言わなかった。

 昴も、それ以上聞かなかった。

 ――その夜。

 昴は、居住区の自室に戻った。

 日和が、夕食を作って待っていてくれた。

「お帰り、お兄ちゃん」

「……ただいま」

 昴は、テーブルに座った。

 日和が、料理を並べた。スープ、パン、サラダ。簡素だが、温かい。

「……美味い」

「ほんと? 良かった」

 日和が、嬉しそうに笑った。

 昴は、その笑顔を見て、少しだけ心が軽くなった。

 ああ、そうだ。

 俺には、日和がいる。

 守るべき人が、ここにいる。

 昴は、日和に聞いた。

「……お前、マリアに会ったんだって?」

 日和が、頷いた。

「うん。お兄ちゃんが心配してるって聞いたから」

「……余計なこと言うなよ」

「だって、本当じゃん」

 日和が、少しだけ意地悪そうに笑った。

 昴は、照れた。

「……別に、心配なんか」

「嘘。顔に書いてある」

 日和が、昴の顔を覗き込んだ。

「お兄ちゃん、あの人のこと、気になってるでしょ」

 昴は、何も言えなかった。

 ――バレてる。

 日和は、続けた。

「マリアさん、いい人だったよ」

「……そうか」

「うん。悲しそうだったけど、優しかった」

 日和の声が、少しだけ沈んだ。

「あの人、子供が欲しいって言ってたのに、Aionでは禁止されてるんだって」

 昴は、息を呑んだ。

「……そうなのか」

「うん。可哀想だよね」

 日和が、昴の目を見た。

「もし、戦争が終わったら、マリアさんも幸せになれるといいな」

 昴は、頷いた。

「……ああ」

 ――その時。

 ドアがノックされた。

 昴が、開けると――

 亘一が立っていた。

「よう、スバル」

「亘一……どうした?」

「ちょっと、話がある」

 亘一が、真剣な顔で言った。

「二人きりで」

 昴は、眉を寄せた。

 日和が、立ち上がった。

「じゃあ、私、お風呂入ってくるね」

「……ああ」

 日和が、部屋を出た。

 昴と亘一が、残された。

 亘一が、テーブルに座った。

 昴も、向かいに座った。

「……で、何の話だ?」

 亘一は、少しだけ迷った。

 そして――

「……スバル、俺、日和のこと、好きになった」

 昴は、固まった。

「……は?」

「日和。お前の妹」

 亘一が、真剣な目で言った。

「俺、日和と付き合いたい」

 昴の頭が、真っ白になった。

 ――え。

 え?

 何を言ってるんだ、この人は。

 昴は、立ち上がった。

「待て待て待て」

「何を?」

「何をじゃねえよ!」

 昴の声が、大きくなった。

「日和と、付き合う? お前が?」

「……ああ」

 亘一が、頷いた。

「お前が遭難してる間、日和と話す機会が多くてな」

 亘一の顔が、少しだけ赤くなった。

「最初は、お前の妹だから気にかけてただけだった。でも――」

 亘一が、昴の目を見た。

「気づいたら、好きになってた」

 昴は、何も言えなかった。

 ――亘一が、日和を。

 好きに、なった。

 昴の頭が、追いつかない。

「……で、でも」

「でも?」

「日和は、まだ二十歳だぞ!」

「俺も二十四だ。四歳差」

 亘一が、即答した。

「問題ない」

「問題ないって……!」

 昴が、机を叩いた。

「娘はやらん!」

「娘じゃなくて妹だろ」

「妹でも一緒だ!」

 昴の声が、叫びになった。

「日和は、俺の大切な家族だ! 簡単に、誰かに渡せるか!」

 亘一は、黙って聞いていた。

 そして――

 静かに言った。

「……スバル、俺は本気だ」

 その声が、真剣だった。

「日和を、幸せにする」

 昴は、亘一の目を見た。

 嘘をついていない。

 本気だ。

 でも――

 昴は、納得できなかった。

「……お前、朔のことで、まだ整理ついてないだろ」

 亘一の顔が、一瞬曇った。

「……ああ」

「なのに、日和と付き合うのか?」

 昴が、詰め寄った。

「日和を、悲しませるつもりか?」

「悲しませない」

 亘一が、即答した。

「だから、ちゃんと向き合う。朔のことも、日和のことも」

 亘一が、立ち上がった。

「俺は、逃げない」

 昴は、亘一の目を見た。

 ――ああ、こいつ、本気だ。

 昴は、少しだけ力が抜けた。

「……お前、本当に日和のこと、好きなんだな」

「……ああ」

 亘一が、頷いた。

「好きだ」

 昴は、深く息を吐いた。

 そして――

 亘一の肩に、手を置いた。

「……いいか、亘一」

「……何?」

「日和を、泣かせたら」

 昴の声が、低くなった。

「俺が、お前をぶっ飛ばす」

 亘一は、少しだけ笑った。

「……了解」

「あと、ちゃんと大事にしろ」

「……ああ」

「あと、変なことすんな」

「……分かってる」

「あと――」

「スバル、しつこい」

 亘一が、笑った。

 昴も、少しだけ笑った。

 そして――

 手を差し出した。

「……頼んだぞ、亘一」

 亘一が、その手を握った。

「……任せろ」

 二人は、握手した。

 ――その時、ドアが開いた。

 日和が、顔を出した。

「……あの、お風呂、まだ沸いてなかったから」

 日和が、二人を見た。

「……何の話してたの?」

 昴と亘一は、顔を見合わせた。

 そして――

 亘一が、日和に近づいた。

「日和」

「……え?」

「俺と、付き合ってくれないか」

 日和は、目を見開いた。

 顔が、真っ赤になった。

「……え、え?」

「俺、日和のこと、好きだ」

 亘一が、真剣な目で言った。

「だから、付き合ってほしい」

 日和は、昴を見た。

 昴は、小さく頷いた。

 ――認めた、という合図。

 日和は、また亘一を見た。

 そして――

 小さく、頷いた。

「……うん」

 亘一が、笑った。

 日和も、笑った。

 昴は、二人を見て――

 複雑な気持ちだった。

 嬉しい。

 日和が、幸せそうだから。

 でも、寂しい。

 日和が、誰かのものになってしまったから。

 昴は、小さく呟いた。

「……娘が取られた気分だ」

『妹だよ』

 PQが、ツッコんだ。

 昴は、苦笑した。

「……分かってる」

 ――その夜。

 昴は、一人で部屋にいた。

 日和は、亘一と話をしに行った。

 昴は、ベッドに横になった。

 天井を見つめた。

 ――日和が、恋をした。

 それが、嬉しいような、寂しいような。

 昴は、自分の感情が、よく分からなかった。

 でも――

 一つだけ、確かなことがあった。

 亘一なら、大丈夫だ。

 日和を、守ってくれる。

 昴は、そう信じていた。

『スバル』

 PQの声が、優しかった。

「……何?」

『君も、誰か見つけたら?』

「……誰かって?」

『大切な人』

 PQが、静かに言った。

『君にも、そういう人が必要だと思う』

 昴は、何も言えなかった。

 ――大切な人。

 頭の中に、マリアの顔が浮かんだ。

 昴は、それを振り払った。

 違う。

 マリアは、敵だ。

 大切な人じゃ、ない。

 でも――

 心は、そう簡単に割り切れなかった。

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