第25話:今は敵じゃない
四日目。
昴は、VEGAの修理を手伝うことになった。
Sihたちは、機械に詳しかった。推進器の損傷を見て、すぐに修理方法を提案してくれた。
「これ、交換が必要」
Sihの一人が、推進器のノズルを指した。
「予備パーツ、ある?」
「……ない」
昴が、答えた。
「VEGAは、専用設計だから」
「なら、作る」
Sihが、即答した。
「鉱石から、金属を精製して、加工する」
昴は、目を見開いた。
「……そんなこと、できるのか?」
「できる。時間がかかるけど」
Sihが、淡々と答えた。
昴は、感心した。
Sihたちは、資源が限られた星で生きている。
だから、全てを自分たちで作る。
それが、彼らの生活だった。
――一方、マリアは、タラと一緒に水源の確認をしていた。
洞窟の奥。暗い。湿気が多い。
水が、岩の隙間から湧き出ている。
「この水源、枯れることはない?」
マリアが、聞いた。
「ない」
タラが、答えた。
「地下水脈に繋がってる。永久に湧く」
「……でも、いつか枯れるかもしれない」
「その時は、別の場所へ移る」
タラが、淡々と答えた。
「それが、私たちの生き方」
マリアは、その言葉に引っかかった。
「……執着しないの?」
「執着?」
「この場所に。この星に」
マリアが、タラの目を見た。
「守りたいとか、残したいとか、思わないの?」
タラは、少しだけ考えた。
そして――
「思わない」
タラが、首を振った。
「場所は、道具。使えなくなったら、捨てる」
マリアは、何も言えなかった。
――ああ、そうか。
Sihは、全てを道具として見ている。
場所も、人も、関係も。
感情を持たない。
執着しない。
それが、彼らの生き方なのか。
マリアは、少しだけ羨ましいと思った。
執着しなければ、失う痛みもない。
愛さなければ、別れの悲しみもない。
でも――
それで、生きていると言えるのか。
マリアには、分からなかった。
――その夜。
昴とマリアは、また部屋に戻った。
昴は、VEGAの修理の話をした。
「Sihたち、すごいな。金属を一から作るって言ってた」
「……そう」
マリアが、小さく答えた。
「私も、驚いた。彼ら、何でも自分たちで作る」
昴は、マリアの顔を見た。
疲れている。でも、どこか考え込んでいるような顔。
「……お前、何か気になることがあるのか?」
マリアは、少しだけ迷った。
そして――
「……Sihは、執着しない」
「執着?」
「場所にも、人にも」
マリアが、昴の目を見た。
「それが、いいことなのか、悪いことなのか、分からない」
昴は、考えた。
「……俺は、嫌だな」
「……なんで?」
「執着しないってことは、大切にしないってことだろ」
昴が、真剣な顔で言った。
「俺、日和を大切にしてる。亘一も、ヤヒロも、PQも。大切な人がいる」
昴の声が、温かくなった。
「それを失うのは、怖い。でも、だからこそ、守りたいと思える」
マリアは、息を呑んだ。
その言葉が、胸に刺さった。
――透も、同じことを言っていた。
「有限だから、今を大事にできる」と。
やっぱり、同じ人だ。
マリアは、涙が零れそうになった。
でも、堪えた。
「……そう」
マリアは、小さく答えた。
「あなたは、優しいのね」
昴は、少しだけ照れた。
「……そんなんじゃない」
沈黙が、流れた。
でも、今までとは違う沈黙。
少しだけ、温かい沈黙。
――その時、外で音がした。
爆発音。
昴とマリアは、同時に立ち上がった。
窓の外を見ると、炎が上がっている。
「……何だ、あれ」
『スバル、VEGAのセンサーに反応。未確認の機体、三機』
PQの声が、イヤモニから聞こえた。
マリアも、端末を見ていた。
「……Aion側でもない。Geneaでもない」
「じゃあ、何だ」
「……分からない」
二人は、部屋を飛び出した。
外では、Sihたちが慌てて逃げ惑っていた。
タラが、叫んでいた。
「略奪者だ! 隠れろ!」
昴は、タラに駆け寄った。
「略奪者って、何だ!」
「辺境を荒らす無法者! 戦争の外にいる、盗賊!」
タラが、昴を押した。
「逃げて! 戦わないで! No Flags!」
でも、昴は動かなかった。
目の前で、人々が襲われている。
Sihたちが、逃げている。
放っておけない。
昴は、VEGAへ走った。
「PQ、機体、動くか!」
『推進器は30%。でも、武装は使える』
「それで十分だ!」
昴は、VEGAに乗り込んだ。
マリアも――
一瞬だけ、迷った。
でも、決めた。
自分の機体は全損。でも、VEGAを援護することはできる。
マリアは、VEGAの手のひらに飛び乗った。
「スバル! 私も戦う!」
昴は、驚いた。
「お前――」
「今は、敵じゃない!」
マリアの声が、叫んだ。
「今は、Sihを守る!」
昴は、頷いた。
二機――いや、一機と一人。
敵同士が、初めて同じ側で戦った。




