第24話:NEEDS MUST WHEN THE DEVIL DRIVES
登場人物
Tala
種族自称: Sih
人間側の呼称: Nivaran
出身地: NIVARA/ Rim Belt(外縁)地帯
翌朝、昴は水の運搬を命じられた。
洞窟の奥にある水源から、居住区までバケツで運ぶ。単純作業。でも、重労働。バケツが重い。水が揺れる。こぼれる。また汲む。
Sihたちは、無口だった。
必要なことしか話さない。「こっち」「そこ」「待て」。それだけ。
でも、手際は良かった。無駄がない。全てが、効率化されている。
昴が水をこぼしそうになったとき、すぐに支えてくれた。
昴が疲れて座り込んだとき、水を差し出してくれた。
優しい。
でも、距離がある。
感情を、表に出さない。
昴は、Sihの一人に聞いた。
「……お前ら、いつもこんな感じなのか?」
Sihが、首を傾げた。
「どんな感じ?」
「無口で、感情を出さない」
「感情を出すと、争いになる」
Sihが、淡々と答えた。
「だから、出さない」
昴は、その言葉に引っかかった。
「でも、それじゃ分かり合えないだろ」
「分かり合う必要はない」
Sihが、即答した。
「必要なのは、共存。理解じゃない」
昴は、何も言えなかった。
――ああ、そうか。
この星では、理解よりも、ルールが優先される。
感情よりも、契約が優先される。
それが、彼らの生き方なのか。
――一方、マリアは燃料の精製を手伝っていた。
岩から採取した鉱石を砕き、不純物を取り除き、精製する。化学の知識が必要な作業。マリアは、Hubで学んだ知識を使って、効率的に進めた。
Sihたちが、感心していた。
「……上手い」
「ありがとう」
マリアは、小さく答えた。
でも、心はどこか別の場所にあった。
昴のことを、考えていた。
昨夜、床で寝ていた昴。
ベッドを譲ってくれた、優しさ。
透と、同じ。
彼方と、同じ。
やっぱり、同じ人だ。
魂が、同じだ。
でも――
気づいてもらえない。
マリアは、拳を握った。
苛立ちと、悲しみが、混ざり合っていた。
――その夜。
昴とマリアは、部屋に戻った。
疲れていた。身体が、重い。
昴は、床に横になった。
マリアは、ベッドに座った。
沈黙。
――また、この沈黙だ。
昴は、耐えられなくなった。
「……なあ」
マリアが、顔を上げた。
「何?」
「……お前、Sihのこと、どう思う?」
マリアは、少しだけ考えた。
「……合理的」
「合理的?」
「ええ。感情を排除して、ルールで動く」
マリアが、昴の目を見た。
「Aionと、似てる」
昴は、眉を寄せた。
「……それって、いいことなのか?」
「分からない」
マリアが、視線を逸らした。
「でも、争いが起きない。それは、いいことだと思う」
昴は、反論したかった。
でも、言葉が出なかった。
確かに、Sihは争わない。
ルールがあるから。
契約があるから。
でも――
それで、幸せなのか。
昴には、分からなかった。
「……お前、Aion側の人間だろ」
昴が、聞いた。
「不死、なんだろ?」
「……ええ」
マリアが、小さく答えた。
「クローン更新で、何度も生きてる」
「……何度も?」
それは、どのくらいの年月なのか。
「……どのくらい生きてるんだ?」
「……分からない」
マリアが、俯いた。
「年齢は、意味がない。Aionでは、外見年齢だけが基準」
昴は、何も言えなかった。
不死。
永遠に生きる。
それは、どんな感覚なのか。
想像できなかった。
「……でも、お前、悲しそうだ」
昴が、呟いた。
マリアが、顔を上げた。
「……何?」
「お前の目、悲しそうだ」
昴が、マリアの目を見た。
「不死なのに、なんで?」
マリアは、何も言えなかった。
ただ、視線を逸らした。
――言えない。
言えるわけがない。
透を失った悲しみ。
彼方を失った悲しみ。
そして、今、目の前にいるのに、気づいてもらえない悲しみ。
全部、言えない。
マリアは、ベッドに横になった。
背中を向けた。
「……もう、寝る」
昴は、何も言わなかった。
ただ、天井を見つめた。
――悪魔が迫れば、何でもしなければならない。
昴は、その言葉を思い出した。
マリアが、初日に言った言葉。
今、昴とマリアは、まさにその状況だった。
敵同士が、共存しなければならない。
嫌でも、協力しなければならない。
それが、生き延びる唯一の方法だから。
昴は、目を閉じた。
でも、眠れなかった。
マリアのことが、頭から離れなかった。




