表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の彼女は三度目に俺を殺すーPQ: Rebirth Protocolー  作者: 深蒼 理斗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/55

第21話:人の気も知らないで

 ――世界が、音を失った。

 いや、違う。音が多すぎて、一つ一つが分離できなくなった。昴の鼓膜に届くのは、ノイズの奔流。心臓の音。血流の音。VEGAの駆動音。敵機の推進器の音。全てが、等価値で、同時に聞こえる。

 そして、視界が変わった。

 世界が、透明になった。

 敵の装甲の向こうが見える。内部フレームの配置。推進器の出力配分。武装の残弾数。マリアの呼吸。ルシアンの心拍。全てが、データとして昴の脳に流れ込んでくる。

 ――これが、RB-1。Over-Sync。

『スバル、聞こえる?』

 PQの声が、昴の思考の中で響いた。もう、外から聞こえる声じゃない。昴の思考そのものだった。

「……ああ、聞こえる」

 昴が答えると、その言葉が思考として、PQに届く。

『今の君と僕は、完全に同期してる。君の思考速度は、通常の3.7倍。反応速度は、4.2倍』

「……すごいな」

『すごいけど、危険だ。7分以内に決着をつけないと――』

「分かってる」

 昴は、目を開けた。

 ルシアンとマリアが、再び攻撃態勢に入っている。

 でも、遅い。

 昴には、二人の動きが、まるでスローモーションのように見えた。

 ルシアンが、砲撃の準備をしている。照準が、VEGAの推進器に向けられている。発射まで、あと1.2秒。

 マリアが、側面を取ろうとしている。でも、迷いがある。機体の動きに、0.3秒の遅延がある。心が、追いついていない。

 全部、見える。

 昴は、動いた。

 VEGAが、光のように加速した。

 ルシアンの砲撃が来る前に、射線から外れる。

 そして、反撃。

 ライフルを撃つ。照準は、REGULUSの武装。

 光が走り、ルシアンの主砲が砕けた。

《――何!》

 ルシアンの声が、初めて焦った。

 昴は、止まらなかった。

 次は、マリアだ。

 VEGAが、マリアの機体に肉薄する。

 マリアが、反撃しようとした。

 でも、遅い。

 昴は、マリアの武装を一つ一つ破壊していった。

 右腕のライフル。砕ける。

 左肩のミサイルポッド。爆発する。

 推進器の補助ノズル。焼き切れる。

 マリアの機体が、どんどん丸腰になっていく。

《やめて……!》

 マリアの声が、悲鳴のように響いた。

 でも、昴は止まらなかった。止まれなかった。

 RB-1とRB-3の高揚感が、昴を支配していた。戦うことの快感。勝つことの快感。敵を無力化することの快感。

 全部、気持ちいい。

 それが、恐ろしかった。でも、止められなかった。

『スバル……』

 PQの声が、悲しそうだった。

『君、止まれてない』

「……分かってる」

 昴は、答えた。

「でも、今は――」

 その時、ルシアンが割り込んできた。

 主砲は失ったが、副武装がまだある。

 REGULUSが、体当たりしてきた。

 昴は、回避した。

 でも、ルシアンの機体が、VEGAとマリアの機体の間に割り込む。

《マリア、撤退しろ》

 ルシアンの声が、命令形だった。

《君では、勝てない》

「……でも」

《行け》

 マリアの機体が、後退し始めた。

 昴は、追おうとした。

 でも、ルシアンが邪魔をする。

 VEGAとREGULUS、一対一。

 昴は、ルシアンを圧倒した。

 RB-1の思考速度で、ルシアンの動きが全て読める。

 攻撃を避け、隙を突き、反撃する。

 REGULUSの装甲が、どんどん削れていく。

 ルシアンは、必死に防戦した。

 でも、勝てない。

 ――その時。

 昴の視界が、揺れた。

 ノイズが、走った。

 画面が、一瞬だけブラックアウトする。

「……何?」

『副作用だ』

 PQの声が、焦った。

『RB-1の副作用。視界ノイズ』

「……もう? まだ3分も経ってないぞ!」

『RB-3と併用してるから、負荷が予想より大きい』

 また、ノイズが走った。

 今度は、2秒間。

 その隙に、ルシアンが攻撃してきた。

 昴は、視界が戻ってから回避した。

 でも、間に合わなかった。

 砲撃が、VEGAの側面を削った。

「くそっ……!」

『スバル、RB解除する!』

「待って――」

『待てない! このままじゃ、君が壊れる!』

 また、ノイズ。

 今度は、5秒間。

 真っ暗な世界。何も見えない。

 その間に、何発も攻撃を受けた。

 VEGAが、悲鳴を上げる。

『RB-1、強制解除!』

 PQの声が、叫んだ。

 世界が、元に戻った。

 思考速度が、通常に戻る。

 敵の動きが、また速く見える。

 そして、RB-3も解除された。

 VEGAの出力が、急激に下がる。

 昴の身体から、力が抜けた。

「……っ」

 呼吸が、できない。

 心臓が、バクバクと暴れている。

 視界が、霞む。

『スバル、操縦を代わる』

 PQの声が、遠くに聞こえた。

「……何?」

『君は、もう動けない。僕が、操縦する』

 昴の手が、操縦桿から離れた。

 でも、VEGAは動き続けた。

 PQが、操縦している。

 昴の意思なしで。

 VEGAが、マリアの機体に接近した。

 そして、張り付いた。

 まるで、抱きしめるように。

《……何?》

 マリアの声が、困惑した。

《VEGAが、私の機体に――》

 ルシアンが、攻撃してきた。

 でも、PQはマリアを盾にして、VEGAの機体を守った。

 攻撃を受けないように。

 ひたすら、防御に徹した。

『ごめん、スバル』

 PQの声が、悲しそうだった。

『これで、精一杯だ』

 昴は、何も言えなかった。

 視界が、どんどん狭くなっていく。

 意識が、遠のいていく。

 ――その時。

 味方機が、被弾して制御を失った。

 その機体が、VEGAとマリアの機体に突っ込んできた。

『まずい……!』

 PQの声が、焦った。

 衝撃。

 VEGAとマリアの機体が、絡み合ったまま、回転する。

 制御を失う。

 そして――

 二機とも、戦場から弾き出された。

 慣性で、飛ばされていく。

 どこへ。

 昴には、もう分からなかった。

 意識が、途切れた。

 ――どのくらい経ったのか。

 昴は、ゆっくりと目を開けた。

 VEGAのコックピット。生きている。

『スバル……起きた?』

 PQの声が、弱々しかった。

「……ああ」

 昴の声が、掠れていた。

「……どのくらい?」

『6時間』

 昴は、目を見開いた。

「6時間……! どこに――」

『惑星に引かれてる。NIVARAニヴァラ。Rim Belt(外縁)の辺境惑星』

 PQが、説明した。

『このままだと、不時着する』

「……マリアは?」

『一緒に落ちてる』

 昴は、センサーを確認した。

 すぐ近くに、マリアの機体が見えた。

 二機とも、惑星の重力に引かれている。

『推進器が壊れてる。制御降下は無理』

 PQの声が、沈んだ。

『衝撃に、備えて』

 大気圏。

 VEGAが、燃え始めた。

 マリアの機体も、隣で燃えている。

 地面が見えた。荒地。赤茶けた地面。

 衝撃。

 VEGAが、地面に激突した。

 昴の身体が、シートに叩きつけられた。

 そして――

 また、意識を失った。

 ――目が覚めたとき、昴は生きていた。

 コックピットから這い出る。

 外は、暑かった。空気が、乾いている。

 赤茶けた荒地。岩が点在している。空は、薄い紫色。二つの月が、昼間なのに見えている。

「……ここ、どこだ」

『NIVARA。外縁の辺境惑星』

 PQの声が、イヤモニから聞こえた。

 昴は、周囲を見回した。

 少し離れたところに、マリアの機体が墜ちていた。

 大破している。装甲が割れ、推進器が焼け焦げ、武装が全て失われている。

 そして――

 ハッチが、開いた。

 人影が、降りてくる。

 女性。

 パイロットスーツを着ている。ヘルメットを脱ぐ。

 長い髪が、風になびいた。

 整った顔立ち。疲労で、少し頬がこけている。

 でも、美しかった。

 ――マリア・シンクレア。

 昴は、初めて見る、敵の顔に息を呑んだ。

 そして――

 胸の奥で、何かが動いた。

 懐かしい、という感覚。

 どこかで会ったことがあるような。

 いや、会ったことはない。初めて見る顔だ。

 でも、知っている。

 なぜ、そんな気がするんだ。

 昴の手が、震えた。

 マリアも、昴を見た。

 二人の視線が、交差した。

 マリアの目が、見開かれた。

 そして――

 涙が、零れた。

「……やっと」

 マリアの声が、震えた。

「やっと、会えた……」

 昴は、混乱した。

 なんだ、この感覚。

 なんで、胸が苦しいんだ。

 敵なのに。

 初めて会うのに。

 なんで――

『スバル』

 PQの声が、昴を引き戻した。

『落ち着いて』

「……PQ?」

『今の君は、混乱してる。でも、相手は敵だ』

 PQの声が、慎重だった。

『それに、ここは中立惑星みたいだ。通信が規制されてる』

「……中立惑星?」

『うん。だから、今攻撃するのは得策じゃない』

 昴は、深呼吸した。

 そうだ。

 敵だ。

 マリア・シンクレアは、敵だ。

 この感覚は、何かの間違いだ。

 昴は、マリアに向かって声をかけた。

「……マリア・シンクレア」

 マリアが、顔を上げた。

「……スバル」

 その名前を呼ぶ声が、あまりにも優しくて、昴は戸惑った。

「……俺たち、敵だ」

「……分かってる」

 マリアの声が、悲しそうだった。

「でも、今は――」

「一時休戦しないか」

 昴が、提案した。

「ここ、中立惑星みたいだ。通信も使えない。お互い、機体も壊れてる」

 マリアは、少しだけ考えた。

 そして、頷いた。

「……分かった」

 でも、その目には、複雑な感情が渦巻いていた。

 ――やっと会えた。

 ――でも、気づいてもらえない。

 ――こっちは、ずっと探してたのに。

 ――こっちは、ずっと苦しんでたのに。

 ――そんな人の気も知らないで――

 マリアの拳が、震えた。

 苛立ちと、悲しみと、安堵が、混ざり合っていた。

 でも、今は何も言えない。

 言っても、伝わらない。

 マリアは、ただ頷いた。

「……休戦、了解」

 二人は、距離を取って座った。

 敵同士が、同じ星に墜ちた。

 これから、何が起きるのか。

 二人とも、まだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ