第16話:HOPE SPRINGS ETERNAL
透の死後、長い年月が過ぎた。
百年以上。
人間なら、何世代も入れ替わる時間。
でも、マリアは変わらなかった。
クローン更新を繰り返し、外見年齢は二十代のまま。
心だけが、透の記憶を抱えて重くなっていった。
マリアは、それでもまだ探していた。
声を追って、記憶を辿って。
透が言った。
「必ず生まれ変わって、君を見つける」
その言葉を、信じていた。
いや、信じるしかなかった。
でも、見つからなかった。
何年経っても、何十年経っても、何百年経っても。
似た声を聞くたびに期待して、違うと分かって落胆する。
その繰り返し。
マリアは、少しずつ諦めを覚えていった。
透の言葉は、嘘だったのかもしれない。
生まれ変わりなんて、ないのかもしれない。
ただの、死に際の慰めだったのかもしれない。
でも――
諦めきれなかった。
そして、ある日。
マリアは、ある街で、彼と出会った。
画家。
新堂彼方。
小さなギャラリーで、絵を描いていた。
マリアは、たまたまそこを通りかかった。
窓から見える、彼の横顔。
――似ている。
透に。
同じ、優しい目。
同じ、柔らかい雰囲気。
マリアは、引き寄せられるように、ギャラリーに入った。
「いらっしゃい」
彼方が、振り返った。
笑顔。
透と同じ、笑顔。
マリアの心臓が、跳ねた。
「……あの、絵を見せていただいても?」
「もちろん。どうぞ」
彼方が、作品を指した。
マリアは、絵を見た。
風景画。街の風景。人々の営み。
温かい色使い。優しい筆致。
――透が、生きていたら、こんな絵を描いたかもしれない。
マリアは、そう思った。
「……綺麗ですね」
「ありがとう」
彼方が、嬉しそうに笑った、そして
「……あの、ちょっと顔を見せていただいても?」
「え?」
マリアが、不思議そうな顔をした。
「顔……ですか?」
「はい。失礼なお願いですが……」
彼方は、手を伸ばした。
そして、マリアの顔に触れた。
上から下へ。ゆっくりと。
透の癖。
――その瞬間、マリアの目が見開いた。
「……あれ?」
彼方が、困惑した。
「今、何だろう……懐かしい感じがした」
マリアは、息を呑んだ。
「……懐かしい?」
「うん。初めて会ったのに、どこかで会ったことがあるような……」
彼方が、首を傾げた。
「不思議ですね」
マリアの目から、涙が零れた。
「……見つけた」
「え?」
「見つけた……やっと、見つけた……!」
マリアは、彼方を抱きしめた。
彼方は、戸惑いながらも、マリアの背中に手を回した。
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫……大丈夫じゃない……でも、会えた……」
マリアの声が、震えた。
――これが、二度目の出会いだった。
希望が、再び灯った。
でも、マリアはまだ考えていなかった。
希望の後には、必ず絶望が来ることを。




