第13話:WHERE THERE'S LIFE, THERE'S HOPE
マリアは、監視室の椅子に座ったまま、動けなかった。
ヘッドセットから流れてきた声。あの二音。
――「スバル」。
確信した。間違いない。あの波形、あの呼吸、あの声の質。
三度目だ。
また、会った。
《VEIL-09、応答せよ》
通信が入った。エヴリンの声。
マリアは、ヘッドセットを外した。
「……マリア・シンクレア、応答します」
《任務報告を》
「……大規模会戦、継続中。VEGA、確認しました」
《VEGAの搭乗者は?》
マリアは、躊躇した。
言うべきか。言わざるべきか。
「……不明です」
嘘をついた。
《そうか。引き続き、観測を続けろ》
「了解」
通信が切れた。
マリアは、深く息を吐いた。
なぜ、嘘をついた。
なぜ、「スバル」という名前を報告しなかった。
答えは、分かっている。
――報告すれば、彼は「資産」になる。
Aionの管理下に置かれる。記録され、分析され、利用される。
それは、嫌だった。
マリアは、自分の感情に驚いた。
なぜ、敵の搭乗者を守ろうとしている。
なぜ、組織を裏切ろうとしている。
――いや、違う。
マリアは、目を閉じた。
裏切っているのは、組織じゃない。
自分自身の決意を、裏切っている。
――三度目は、断ち切ると決めたはずだった。
でも、声を聞いた瞬間、その決意が揺らいだ。
マリアは、立ち上がった。
部屋を出て、廊下を歩く。
Crown Hubの更新・記憶整理窓口。そこに、友人がいる。
リナ・ハート。
ドアを開けると、リナが端末を見ていた。
「あら、マリア」
リナが、顔を上げた。
「珍しいわね。こんな時間に」
「……少し、話がしたくて」
マリアは、椅子に座った。
リナが、端末を閉じた。
「また、記憶整理の相談?」
「いや……違う」
マリアは、言葉を探した。
「……リナ、私、また会ったの」
「会った? 誰に?」
「……分からない。でも、たぶん――」
マリアの声が、震えた。
「たぶん、彼だと思う」
リナは、目を細めた。
「……三度目?」
「うん」
マリアは、頷いた。
リナが、溜息をついた。
「マリア、あなた本当にそれ、信じてるの?」
「……信じてる」
「生まれ変わりなんて、科学的根拠がないのよ」
リナの声が、冷たくなった。
「あなたが会ってるのは、たまたま似た人。それだけ」
「でも――」
「でも、じゃない」
リナが、マリアの目を見た。
「マリア、あなたは三回、同じ過ちを繰り返してる」
マリアは、何も言えなかった。
リナが、続けた。
「一回目、二回目で学ばなかったの? 有限の人間と、無限の私たちは、一緒にいられない」
「……分かってる」
「分かってないわ」
リナの声が、厳しくなった。
「分かってたら、また探したりしない」
マリアは、俯いた。
リナが、少しだけ声を和らげた。
「……マリア、CIPを受けなさい」
「嘘」
マリアは、即座に答えた。
「記憶を消したくない」
「苦しむだけよ」
「それでも」
マリアが、顔を上げた。
「彼らとの記憶を、消したくない」
リナは、溜息をついた。
「……頑固ね」
「うん」
マリアは、少しだけ笑った。
でも、すぐに表情が曇る。
「……リナ、一回目のこと、覚えてる?」
「ええ。あなた、何度も話したもの」
マリアは、目を閉じた。
記憶が、蘇る。
――一回目。神代透。
戦渦の中で、彼と出会った。
あれは、希望だった。
絶望の中で、唯一の光だった。




