第11話:止まらない高揚
前線基地への補給ルート。Aion側が必ず狙ってくる場所。
「VEGA、配置についた」
昴は、VEGAを船団の左翼に配置した。右翼には亘一が見える。
『スバル、今日は警戒レベルが高い』
PQの声が、いつもより硬い。
「……何か、情報が?」
『Aion側の特務部隊が動いてる。REGULUSと、その配下の双子機』
昴は、息を呑んだ。
「レグルス……あの、黒い機体」
『うん。ルシアン・ケイドの機体。それと、CASTORとPOLLUX。双子の姉妹が乗る、AETERNUS改修機』
PQが説明を続けた。
『三機一組で動く。連携が完璧だ。厄介な相手だよ』
昴は、操縦桿を握った。手が、また震えている。
でも、今度は恐怖だけじゃない。
あの快感を、また味わえるかもしれない――そんな期待が、混ざっている。
それが、怖かった。
《全機、敵性反応。距離4000。Aion側、三機》
通信が入った。
センサーに、三つの光点が現れた。
一つは大きく、二つは小さい。
『来た。REGULUS、CASTOR、POLLUX』
PQの声が、緊張した。
『スバル、亘一と連携して。単独では勝てない相手だ』
「了解」
昴は、SHIFTに接近した。
《スバル、俺が前に出る。君は側面から援護》
亘一の声。いつもより、真剣だ。
「分かりました」
敵機が、接近してくる。
黒い機体――REGULUSが中央。左右に、双子機。
隊形が、完璧だった。
《Genea機、確認。VEGA……いるな》
男の声。冷静で、抑揚がない。
ルシアン・ケイド。
《今日こそ、君の性能を確かめさせてもらう》
昴は、答えなかった。
でも、PQが囁いた。
『スバル、相手は挑発してる。乗らないで』
「……分かってる」
戦闘が、始まった。
亘一が、REGULUSに突っ込んだ。
でも、双子機が割り込んできた。
一機――CASTORが、亘一の進路を塞ぐ。
《邪魔だ》
亘一の声が、苛立った。
SHIFTが加速する。でも、CASTORも速い。
そして、もう一機――POLLUXが、昴に向かってきた。
『スバル、POLLUXが来る!』
「見えてる!」
昴は、ライフルを構えた。
引き金を引く。
光が走ったが、POLLUXは回避した。紙一重で。
《……速いわね、VEGA》
若い女性の声。軽い。でも、油断がない。
《でも、私のほうが速い》
POLLUXが、急加速した。
昴の視界から消える。
『後ろ!』
PQの警告と同時に、背後から攻撃が来た。
昴は反射的に回避した。VEGAが滑るように動く。
砲撃が、装甲を掠めた。
「くっ……!」
《あら、避けるのね》
POLLUXの声が、楽しそうだった。
《じゃあ、もう一回》
連続攻撃。パターンが読めない。
昴は必死に回避を続けた。
――その間に、亘一はCASTORと激しく交戦していた。
《どけ!》
亘一のSHIFTが、CASTORを押す。
でも、CASTORは引かない。
《あなたこそ、どきなさい》
女性の声。冷たく、鋭い。
《ルシアン様の邪魔はさせない》
二機が、拮抗する。
その隙に、REGULUSが動いた。
船団へ、真っ直ぐ。
『まずい! REGULUSが船団に――』
PQの声が、焦った。
昴は、POLLUXを振り切ろうとした。
でも、振り切れない。
「くそ……!」
《あら、焦ってる?》
POLLUXの声が、笑っていた。
《でも、私を振り切るのは無理よ》
昴は、歯を食いしばった。
このままじゃ、船団がやられる。
「PQ……!」
『分かってる』
PQの声が、決断した。
『RB-3、使うよ』
「RB-3……?」
『Limiter Break。機体の構造リミッターを解除する。RB-2より出力が上がる。でも――』
PQの声が、沈んだ。
『機体への負担が大きい。使いすぎると、VEGAが壊れる』
昴は、迷った。
でも、選択肢はない。
「……やろう」
『了解。RB-3、起動準備』
PQの声が、システムトーンに変わった。
『Reverse Boost Level 3:Limiter Break。承認コード確認。起動まで、3、2、1――』
VEGAが、唸った。
機体全体が振動し、出力が跳ね上がる。センサーの情報量が爆発的に増える。
世界が、また変わった。
RB-2のときより、更に鮮明に。
敵の動きが、全て読める。
POLLUXの癖。攻撃パターン。呼吸のタイミング。
全部、見える。
昴は、動いた。
VEGAが、POLLUXの攻撃を完璧に回避した。
そして、反撃。
光が走り、POLLUXの武装が砕けた。
《え……!》
POLLUXの声が、初めて動揺した。
《何、今の――》
昴は、更に攻撃を続けた。
VEGAが、POLLUXを圧倒する。
《くっ……姉さん!》
POLLUXが、助けを呼んだ。
CASTORが、反応した。
《POLLUX!》
CASTORが、亘一を振り切って、POLLUXの援護に向かった。
でも、昴のほうが速かった。
VEGAが、二機の間に割り込む。
そして――
――その時。
REGULUSが、急停止した。
《……何?》
ルシアンの声が、初めて動揺した。
《VEE、状態報告!》
『警告。機体温度、限界値超過。冷却システム、機能低下』
VEEの声が、淡々と告げた。
『原因:短納期改修による冷却系統の不具合』
《……くそ》
ルシアンが、舌打ちした。
《CASTORフ、POLLUX、撤退する》
《でも、ルシアン様――》
CASTORの声が、焦った。
《撤退命令だ》
ルシアンの声が、有無を言わさぬトーンになった。
でも、昴は止まらなかった。
RB-3の高揚感が、昴を支配していた。
勝てる。倒せる。
昴は、REGULUSに向かって突っ込んだ。
『スバル、待って!』
PQの声が、止めようとした。
でも、昴は聞かなかった。
ライフルを構える。引き金に指をかける。
――その時。
CASTORが、割り込んできた。
《ルシアン様を――》
CASTORが、REGULUSの前に立ちはだかった。
《触れさせない!》
昴は、引き金を引いた。
光が走った。
CASTORの左腕が、砕けた。
《きゃあっ!》
CASTORの悲鳴。
《姉さん!》
POLLUXが、叫んだ。
ルシアンの声が、低く響いた。
《……CASTOR、POLLUX、即座に撤退しろ》
《で、でも――》
《命令だ》
ルシアンの声に、怒りが滲んでいた。
でも、その怒りは昴に向けられたものではなかった。
自分自身に、向けられていた。
三機が、離脱した。
昴は、追おうとした。
でも――
『スバル、RB-3解除!』
PQの声が、強制的にシステムを切った。
VEGAが、通常状態に戻る。
昴の視界が、元に戻った。
同時に、全身の力が抜けた。
「……何で、止めた」
『限界だった。これ以上続けたら、VEGAが壊れた』
PQの声が、厳しかった。
『それに、スバル、君は……』
「……俺は、何だ」
『……止まらなかった』
PQの声が、悲しそうだった。
『僕が止めても、聞かなかった』
昴は、何も言えなかった。
自分でも、分かっていた。
あのとき、昴は制御を失っていた。
戦うことの快感に、飲まれていた。
《スバル、大丈夫か》
亘一の声が、心配そうだった。
「……はい」
《……嘘だな》
亘一の声が、静かになった。
《後で、話そう》
昴は、答えなかった。
ただ、VEGAを船団に戻した。
手が、震えていた。
恐怖ではない。
後悔。
そして、自己嫌悪。
――俺は、何をやっているんだ。
昴は、自分に問いかけた。
答えは、出なかった。




