第10話:LOOSE LIPS SINK SHIPS
翌日の哨戒任務中、それは起きた。
共通帯域に、ノイズが混ざった。
『スバル、誰かが傍受してる』
PQが、すぐに警告した。
「……また?」
『うん。でも、今回は違う。能動的に探ってる』
昴は、背筋が冷えた。
「……Aion側?」
『たぶん。それも、特定の誰かが』
PQの声が、緊張した。
『スバル、今から君が話すことは、全部聞かれてると思って』
「了解」
昴は、沈黙を選んだ。
共通帯域には、必要最小限しか話さない。
でも、心の中でPQと会話は続ける。
「PQ、これってまずいんじゃないか」
『まずい。でも、避けられない』
「なんで?」
『共通帯域は、誰でも聞ける。それが、ルールだ』
昴は、苛立ちを覚えた。
「じゃあ、俺たちの情報は筒抜けってことか」
『そうだ。だから、沈黙するしかない』
――その時。
帯域の向こうで、呼吸が聞こえた。
静かな呼吸。でも、確かに人間の呼吸。
誰かが、聞いている。
昴の声を。
『スバル、気にしないで。任務を続けて』
PQの声が、昴を引き戻した。
「……分かった」
昴は、哨戒を続けた。
でも、背中に視線を感じた。
誰かが、見ている。
聞いている。
――Aion側、VANTAGE ORBITAL FLEET(ヴァンテージ軌道艦隊)。
ルシアン・ケイドは、REGULUSのコックピットで記録映像を見返していた。
昨日のVEGAの動き。RB-2発動時の圧倒的性能。
『データ解析、継続中』
VEEの声が、淡々と告げた。
『RB-2:推定稼働時間、3分47秒。機体負荷、通常の320%』
「……たった4分弱で、あれほどの性能差を生む」
ルシアンは、溜息をついた。
「Geneaは、とんでもないものを作った」
『VEGA捕獲作戦、立案を推奨』
「却下」
ルシアンが、即答した。
「あの機体は、捕獲できない。鹵獲防止機構があるはずだ」
『では、破壊を――』
「それも難しい」
ルシアンが、画面を見つめた。
「あの性能差では、接近する前に撃墜される」
『では、どうする』
「……観察を続ける」
ルシアンが、音声ログを開いた。
共通帯域の記録。傍受した音声。
男の声。若い。「スバル」と呼ばれている。
「VEGAの搭乗者……天城昴」
ルシアンは、その名前を口にした。
「君は、何者だ」
答えは、返ってこない。
でも、いつか知ることになる。
その時が、楽しみだった。
――そして、マリアも、聞いていた。
監視室。ヘッドセットをつけて、共通帯域を監視する。
あの声を、探して。
波形が跳ねる。ノイズの中に、微かな音声が混ざる。
でも、今日は沈黙している。
昨日、圧倒されてから、VEGAは慎重になった。
マリアは、波形の癖を記録した。
音声の立ち上がり。呼吸の間。
帯域の指紋。
次に聞いたら、確信できる。
この声が、本当に――
――「スバル」なのか。
マリアは、ヘッドセットを外した。
胸が、高鳴っていた。
確信に、近づいている。
でも、同時に恐怖もあった。
もし本当に「スバル」だったら。
もし、また会えたら。
そして、また失ったら。
マリアは、目を閉じた。
考えたくない。
でも、考えてしまう。
――三度目は、もう耐えられない。




