村人達の救出
今回、少し短めです。
自分でやってはいないとはいえ、やっぱり殺しを目の前で見るのはいい気分はしない。
これから先もこういうことになるのなら慣れないといけないととは思うけど、なるべく殺すのは避けたい気もする。
「ガユード様。どう? 久しぶりの私の活躍に惚れた?」
思考に耽っていた俺の体に自らの豊満な体を擦り付けてくるウンディーネ。
惚れるっていうか、堕ちそう。
「そんなことより、燃えている家の消火を頼めないか」
「むぅ、相変わらずいけずね……。まぁ、頼まれたからにはやるけれど」
そう言ってウンディーネが俺から離れ天に向かって手を掲げる。
すると、小さい雨雲が幾つも産み出され、各家の上から雨を降らせ始めた。
そして、数秒のうちにすべての家の消火が完了した。
そこへ、ベリアルから《伝達/メッセージ》が届く。
『村人達の救出完了したよ。魔族共は大将が殺されたのを見て逃げていったよ』
「そうか。では死傷者を一ヵ所に集めておいてくれ」
『わかった』
通信を切り、ベリアルがいる場所へと向かう。
ウンディーネは見られると厄介なのでお帰りいただいた。
ちゃんと、今まで喚ばなかったことを謝ってから。
◆
ベリアルのいるところは、広場のようになっているところだった。
死傷者一同が並べられ、その周りには無傷の村人達が嘆いている。
身動き一つしない男性を揺すりながらお父さんと泣き叫ぶ男の子と、それを抱き締めながら自らも泣く母親。
若者の男が死んでいる恋人と思われる女性の名を呼びながら悔しそうな表情を浮かべ、その目には魔族に対する怒りと憎しみが見てとれる。
死に至らずとも腕を失った人や脚を失った人、背中をバッサリ斬られた人など様々な容態の人がいる(騎士の人達含む)。
この惨状にまた吐き気を催したので再び《精神安定/トランクライズ》を使う。
死傷者を一ヵ所に集めてほしいと頼んだのは俺なんだから、しっかりしなければ。
そう意気込んで、俺は死傷者に順に《復活/リザレクション》や《完全なる回復/パーフェクトヒール》をかけていく。
それにより、死んでいた人達は何事も無かったかのように蘇り、怪我を負っていた人達は、喜びではしゃぐことができるほどに回復した。
先程の母子や若者の男やその他大勢の人が、蘇ったり回復した知り合いを抱き締めて喜んでいる。
こういうのを見ると、助けた甲斐があるというものだ。
一仕事終えた俺のもとへ、騎士の一人がやってきて跪いた。
若いけど、身のこなしからして相当できる人だと思う。
「ヒカン村騎士団長のシリウスと申します。どなたか存じませんが我々を救っていただき感謝いたします」
若いのに騎士団長か。本当にできる人なんだな。
というか、妙に〝どなたか存じませんが〟の部分を強調していたような気がする。
もしかして――
「ご安心ください。ベリアル様から事情は伺っております。我々も村の者達も、この事は他言しません」
あ、うん。これは俺の正体知ってる感じだ。
だったらこうしよう。
「そうか。では、この村は勇者によって救われたことにしてくれ」
「承りました。その様に陛下にご報告致します」
「いや、それは儂からしよう」
そう言ってリオンに《伝達/メッセージ》を送る。
「リオン、聞こえるか」
『ガユード殿ですか。どうかしたのですか?』
「実はな……」
そう言って俺は今までの経緯を順を追って説明した。
『そうですか。勇者殿が……。正義感があると思っていたのは、私の見当違いだったようですね』
「それでだ。勇者が功績を挙げていないのはよくない。というわけで、今回のことは勇者がやったことにしてほしい」
『ガユード殿自らそう言われるのでしたら、私に反論の余地はありません。その様に手配しましょう』
「すまないな」
『いえ。では早速事に当たります』
そこで通信を切る。
ったく、世話の焼ける勇者だ。
……あれを未だに友人と思える俺って、どうかしてるな。
◆
焼失した家々は、ベリアルと手分けして《修復/リペア》を使って完璧に直した。
この魔法は、使った対象が壊れる前に戻すことができる魔法だ。
これにも村人達は大喜びだった。
そして今度はヒカン村の村長である老人にお礼を言われた。
「何から何までありがとうございます。ガユード様」
「これくらいどうということはない。気にするな」
「いいえ。これだけのことをしていただいたのです。ぜひ、お礼をさせてください」
と言われ、あれよあれよという間に宴の席に同伴させられていた。
そこまでしてもらうつもりは無かったんだけどな……。
というか、なんで食糧倉庫だけ無事だったんだよ。運良すぎか。
「ガユード、なにを浮かない顔してるんだい。あんたも食べな」
「そうだぞ、ガユード殿。せっかく開いてくれた宴を楽しまずしてどうする。さぁ、飲め! ここの酒も結構美味いぞ!」
ベリアルとドゥーダにそう言われ、「まぁいいか」と半ば諦めて宴を楽しむことにした。