魔王軍襲来
今回、〝ガユードが〟活躍します。
えっ、勇者? 知らない子ですね。
あれから数日経ち、リオンから召集がかかった。
魔王軍のそれも四天王の一人が軍を率いて北の方にある村を襲っているという連絡が入ったからだ。
村に配置された騎士団が応戦しているが長くは持たないらしい。
その為、予定日を繰り上げて急遽旅立つことになった。
この数日間、自分の屋敷ではなく城に住まわせてもらっていたため二人とは離れて暮らしていたけど、ヘリナとサリーシャにはすでに《伝達/メッセージ》で伝えてあるので問題はない。
それにしても、急だな。
この数日間、何事もなかったのに。
考えられることとしては、勇者の情報が魔族に流れて一刻も早く滅ぼさないとと思ったのではないか、ということ。
そうなると情報漏洩してることになるから、身内に魔族がいるか裏切り者がいる可能性があるんだけど……。
「ったく、せっかく良いところだったのに邪魔しやがって……! さっさと行ってさっさと倒そうぜ!」
コイツ、勇者向いてないわ……。
俺が危惧していることに全く気づいていない。
というか、良いところって、またミシェルとそういうことしてただろ!
お前の性欲はどうなってるんだ。
ともかく、ある意味では陽向の言うことは正しい。
モタモタせずさっさと行かなくては、騎士や村人の犠牲が増えるだけだからだ。
ただ、ここから村まで5㎞はあるため、たとえ馬や馬車で向かったとしても間に合わない可能性が高い。
ならばどうするか、答えは簡単だ。
転移魔法を使えばいい。
本来であれば、師匠(偽)のベリアルにやらせるべきなんだろうけど、転移魔法は失敗する可能性が高い魔法なので、俺が使うことにする。
あくまでも、師匠(偽)のベリアルよりは得意だということでだ。
自分の身一つでの転移なら失敗することはないけど、多人数を一緒にとなると失敗する可能性がある。
というのは、ガユードの記憶が証明していることだ。
「おい、なにボーッとしてやがる。早くしやがれ」
俺の体に触れている陽向が、急かしてくる。
べつにボーッとはしてなかったつもりなんだけど……。
因みに、なぜ陽向が俺の体に触れているのかというと、転移で他人を一緒に転移させるには触れていないといけないからだ。
全員が触れたことを確認し、リオンに見送られながら《転移/テレポート》を唱えた。
◆
転移が完了すると、そこにはあかあかと燃える村人達の家々、逃げ惑う村人達、逃げるのが遅れこめかみ辺りから角が生えた者達――魔族に惨殺される村人達と、散々な有り様が広がっていた。
サリーシャが目の前で首を飛ばされて死んだのを見たから少しは大丈夫だろうと思っていたけど、浅はかだった。
こんなに酷く容赦なく殺されていくのを見れば、吐き気はもちろんのことだけど、見ていられない。
でも、今の俺は始祖竜であるガユードだ。
そう思って吐き気も見ていられない気持ちも理性で抑え込む。
念のため《精神安定/トランクライズ》を使っておく。
陽向は、この惨状を目の当たりにしているくせになんとも思っていないのか、平然と立っている。
そこへ――
「転移の魔法を感じて来てみれば、まさか、勇者直々に来ていたとはな」
頭上からそのような言葉が聞こえてきた。
全員が揃って上を見ると、如何にも強そうながたいの悪魔の容姿をした男が飛んでいた。
その口ぶりから、勇者の容姿を知っていることは容易にわかる。
やっぱり、城内に間者か裏切り者がいる可能性が高いな。
「我が名は魔王四天王が一人、コープス。ちょうどいい。ここで勇者を倒せば、魔王様の憂いも一つは消えることだろう」
そう言って、魔族の男――コープスは陽向に向かって炎を放った。
すかさずドゥーダが陽向を盾で守る。
ドゥーダが使っている盾には俺の鱗が使われているため、どんな攻撃系の魔法でも防ぐことができる。
というか、自分ですら壊すことができない盾を、この世界の者が壊せるはずがない。
「防いだか。ならばこれならどうだ?」
そう言ってコープスが手をかざすと、陽向だけを包み込むように炎の柱が立った。
ミシェルが陽向の名を呼び叫ぶ。
しかし次の瞬間、炎の柱がかき消えると同時に水の柱が天高く立った。
「なにっ!? 人間ごときがどんな魔力量をしているのだ! 勇者というのは伊達ではないということか……!」
コープスがそう言った直後、陽向の声が発せられた。
「いきなりなにするんだ、クズ野郎! 死ぬところだっただろうが!」
年中無休で発情してるお前がクズ呼ばわりするな! と言いそうになるギリギリのところで口をつぐむ。
「つーわけで、俺は逃げる。おいお前、俺が逃げる時間を稼げ!」
は? 俺? というか、コイツはいったい何を言ってるんだ?
あれだけの水の柱を出せるなら、そこそこ戦えると思うんだけど……。
と考えてる間に本当に逃げ出した。
ミシェルをしっかり連れて。
「ハッ、敵前逃亡するとは、今代の勇者は臆病者のようだな! これは傑作だ!」
そう言って嗤うコープス。
「ガユード殿」
「ガユード」
「わかっている。お前達は村人の救出に向かってくれ。ここは……儂一人で充分だ」
俺の言葉に頷いた二人は、村人達の救出に向かってくれた。
「ほう、貴様一人で充分だと? この魔王四天王のコープス相手に随分と大きく出たな、人間の小僧」
「儂の正体を見破れない時点で、お前の程度は知れている。かかってこい。魔族の小童」
こういう台詞は俺の柄じゃないけど、実際に言ってみると気分がいい。
まぁ、こういう台詞が言えるのは、ガユードになってるからこそなんだけど。
「小童だと!? 人間の小僧ごときがおこがましい……! 死ね! 《地獄の炎/ヘルブレイズ》!」
コープスの手から漆黒の炎が放たれる。
【水の精霊王よ、我が声に答えよ】
炎が迫るなか、俺は精霊語で呼び掛ける。
すると、俺の目の前に水の精霊王であるウンディーネが現れる。
その容姿は、コープスの鼻の下がのびるほど魅惑的なものだ。
そんなウンディーネが俺に身を寄せてくる。
「もう、ガユード様ったら、全然呼んでくれないから忘れられたのかと思ってたわよ?」
「それは後で謝罪する。今は……」
「わかってるわ」
そう言った次の瞬間には漆黒の炎は消えていた。
「久々に呼ばれたんだもの。それなりの働きはしないとね」
「ば、馬鹿なっ! 精霊王だと!? そんなものを召喚できる人間など、いるはずが……」
「あら、正体も知らずに戦っていたの? 無謀ね、魔族の坊や。まぁ、知ってて戦っていても無謀なことに変わりはないのだけど」
そう言ってクスクスと笑うウンディーネ。
その笑っている姿すら魅惑的なの、どうにかならないのか……。
自分で設定しておいて難だけど、魅惑的すぎだ。
コープスは何やら焦燥仕切った顔をしている。
「精霊王を喚び寄せられる……ま、まさか、始祖竜だというのか!?」
「だから最初に言ったではないか。正体を見破れない時点でお前の程度は知れていると。だがもう遅い。お前の地獄行きは決定している。村人を惨殺した罪を償え」
俺の言葉が終わるや否や、ウンディーネがコープスの顔を水で包み込んだ。
それにより息ができず、コープスはもがきにもがき、結果、力尽きて地面に倒れ息絶えた。




