正体
少し短いです。
ヘリナ(沙夜)のやつ、なにをさらっと俺の正体を置き土産にしてるんだよ……。
俺の正体を知ったら、〝勇者やらなくてもいいじゃん〟って思うかもしれないから黙ってたのに……。
あっ、その為の勇者としての責務を全うしてくださいなのか。
さすが沙夜、抜け目がない。
「まぁ、知られてしまったものは仕方がないか」
「で、では、本当に?」
「あぁ、儂が始祖竜と呼ばれている竜で間違いない」
「そうですか。これで、納得がいきました。先日の村での一件、私達が駆けつけた時にはすでに死傷者が出ていたはずでした。それが、報告では死傷者無し、負傷者無しとなっていたのでおかしいと思っていたのですが……ガユード様が復活魔法をお使いになったのですね。元神官として、最大の感謝を」
そう言って手を組み、膝を折って俺に向かって祈るミシェル。
元……ね。
「元神官とは、誰のことだ?」
「私です」
即答されちゃったよ……。
少しカッコよく決めようと思ったのに。
「それはそうだが、考えてみてくれ。国王であるリオンが勇者との関係を黙認している、それはつまり咎めるつもりがないということに相違ない。それほど、神官としてのミシェルへの信頼が厚いということだ」
俺の勝手な解釈だけど。
「ですが、私は、神官として、してはならないことを、してしまいました……。神官でいられるはずが……」
さっき〝陽向と生涯を共にすることこそ云々〟と豪語したのはなんだったんだ! と言いたいくらい自信なさげなミシェル。
「儂が許そう。そうリオンにも伝えておく。ただし、魔王を倒すまでの間だけだぞ? その後は、ミシェルの好きにするといい」
「……! ありがとうございます!」
パァッと表情を明るくしたミシェルが頭を下げてお礼を言う。
俺が言いたかったのは、魔王を倒すまでは絶対に神官として勇者パーティーにいること、それが終わった後は神官でいようがいまいが勝手にしろってことだ。
ミシェルもそれは汲み取ってくれたようだ。
しかし、陽向が割り込んできた。
「おい、待て待て。竜のお前のどこにそんな権限があるんだよ。偶々全部の種族より先に産まれただけだろ?」
「ヒュウガ様。いくらヒュウガ様でも、ガユード様への暴言は許容できません」
「なんでだよ、ミシェル……なんで、俺のミシェルの名前を勝手に呼ぶような奴の肩持つんだよ……」
「……ヒュウガ様?」
あ、これ、完全に嫉妬してるわ。
あのエロ大魔人が、立派に嫉妬をしている……成長したな、陽向。
いや、なにを感慨に耽ってるんだ……陽向の親か、俺は。
「ヒュウガ様。始祖竜であるガユード様は、精霊の最上位である四大精霊と契約をされています。四大精霊がどういった存在か、ベリアル様に習ったヒュウガ様ならおわかりでしょう?」
「それぞれの属性において限度なく操れる高位の精霊。精霊王とも言い、契約は精霊王から契約、破棄ができ、現在契約しているのは始祖竜のみ……だっけ」
「そうです。それがどういうことか、わかりますか? ガユード様がその気になれば、ご自身のみでも可能ですが、精霊を使ってこの世界を滅ぼすことができる、ということなのです。ガユード様が私達の数々の非礼を受けてもそうなさらないのは、ガユード様の心の器が大きいからに他なりません」
えっと、そんなに褒められると、照れるんですけど……。
ミシェルが頑なに俺の肩を持つのが俺が始祖竜だからってことなのはわかってる。
わかってるけど、照れる。
というか、個人から受けた借りを世界に返すって、それもうどこぞのビルなんとかって破壊神と同類だから。
そんな非道に成り下がりたくはないから、世界を滅ぼすとかそういうのはしない。断じてしない。
だって、そんなことしたらヘリナ(沙夜)との生活が台無しになるから。
ツッコミ所満載なミシェルの言葉に、陽向はどういうわけか急に顔を青くした。
「おわかりになりましたか? でしたらもうガユード様への暴言はやめてくださいね」
ミシェルがそう言うと、陽向は顔を青くしたままコクコクと頷いた。
なんで顔を青くしたのかはさっぱりだけど、今後陽向が俺に対して粗相することは少なくなりそうだ。




