勇者への罰
今回、少し短いです。
とはいえ、今しているのは、俺が陽向とミシェルの関係を祝福する話ではなく、陽向がしたことについての話だ。
「そうですか。貴女がそれでいいならいいんですが、それより、勇者様がしたことについての謝罪の話に戻しましょう」
俺がそう言うと、陽向とミシェルはハッとし、俺の方を向き直り姿勢を正した。
「今回の件、実のところ自分に謝られても意味がないんですよ。彼女は自分のメイドですが、今回の被害者は彼女なんですから。そんなに罰を与えてほしいのなら、本人に決めてもらいましょう」
「わかりました」
突如、背後からヘリナ(沙夜)の声がした。
見れば、俺の後ろに伸びる影から出てきていた。
話聞いてたのか。今、《伝達/メッセージ》で呼ぶつもりたったのに。
「き、吸血鬼、のメイドさん、ですか?」
そう訊ねてきたのは、ミシェルだった。
影移動は吸血鬼しか使えない能力だし、この世界の住人であれば誰もが知っていることだら、当然の反応だ。
一方の陽向は、トラウマになっているのか、ヘリナ(沙夜)を見た途端に顔を青くして震えていた。
ヘリナ(沙夜)は色んな奴にトラウマを植え付けるな……。
お兄ちゃん、沙夜の将来が心配だよ。
どっちも俺のためだったから、嬉しいことは嬉しいんだけど、過激な子になるんじゃないかって不安が過っちゃう。
そんなヘリナ(沙夜)が、陽向とミシェルに挨拶をする。
「初めまして。ガユード様のメイドをしております。銀髪美少女吸血鬼のヘリナと申します」
そう言って頭を下げるヘリナ(沙夜)。
陽向とミシェルは、「えっ、それ自分で言うの?」と言いたげな顔をしているが、自分達の現在の立場がわかっているからか言わなかった。
そういえば、今までは俺が作ったヘリナが設定通りに言ってると思ってたけど、今は妹が言っていると思うと不思議な感じだ。
俺が作った設定に忠実にヘリナになっている妹に、感謝と尊敬の念を抱き、――これが一番重要事項なことだが――惚れ直した。
そうしているのは、俺のためだとわかっているからだ。
記憶の中の妹もすべて、俺が作ったヘリナそのものだった。
だからこそ、俺のためだとわかり、惚れ直す。
「さて、罰を与えてほしいのでしたか……」
おっと、こんな思考を繰り広げてる場合じゃなかった。
いつの間にか罰を与える話になってるじゃないか。
そう思ってヘリナ(沙夜)の言葉に耳を傾ける。
陽向とミシェルは、ゴクリと唾を飲み込みながら、ヘリナ(沙夜)の次の言葉を待つ。
「勇者としての責務を全うしてください。お話した通り、ガユード様はあくまでもベリアルの補佐ですので、お手を煩わせないようにお願いいたします」
えっ、お話した通りって、なにをどこまで話したんだ?
というか、それを聞いた陽向とミシェルがものすごい勢いで首を縦に振ってるんだけど……ほんとになにをどこまで話したんだ?
「では、話も終わりましたので、私はこれで失礼いたします。ガユード様、時々、本当に時々でいいので、私を呼んでください……寂しいので」
それは俺も同じなので、頷く。
「あぁ、もちろん。それまでは、あいつらを頼んだぞ」
「畏まりました」
返事をしたヘリナ(沙夜)は、俺の影から屋敷へ戻っていった。
今さらながら、妹がメイドをしていることを認識した。
堂に入っててものすごくメイドだった。
俺がこの世界で目覚めてから……いや、ガユードの記憶の中でもメイドを完璧にこなしている。
さすが沙夜だ。
「あ、あの、ガユード様……」
「はい。なんでしょうか?」
ミシェルが恐る恐るといった感じで呼び掛けてきたのを疑問に思いながら答える。
「ガユード様は、始祖竜様、なのですか?」
…………んんんんんんんん!?!?!?
なんで知ってるんだ!? もしかして、さっきヘリナ(沙夜)が喋った!?
「どうして、そう思うんですか?」
「いえ、思ったのではなく、先程、ヘリナ様がお話になっていましたよ?」
聞いてなかったのですかと付け足される。
…………マジ?




