目撃
お待たせしました。
ヘリナが妹であったこと、そして世界が変わろうと生まれ変わろうと相思相愛だということがわかり、顔のニヤケが止まらない。
こんなところ、リオンやベリアルやドゥーダに見られたら、どんな反応が返ってくるかわかったもんじゃない。
でもダメだ。思い出すだけでニヤケが……。
散歩でもして気を散らそう。
でも、このままだとニヤケ顔を晒しながら歩くことになってしまう。
それは嫌なので、《透明化/インビジブル》を使って姿が見えないようにしてから部屋を出た。
この時の俺は、《精神安定/トランクライズ》があることを失念し散歩という手段を選択したがために、あのような現場を目撃することになるとは、知るよしもない。
◆
そういえば、陽向の奴どうしてるかな。
一応従者なわけだし、お見舞いに行っておいた方がいいよな。
そう思った俺は、陽向がいると思われる救護室に向かった。
救護室に差し掛かると、微かに女の声が聞こえてきた。
なぜか途切れ途切れ途切れで、こう色っぽいというか、艶っぽいというか、喘ぎ声に似たような感じのものだ。
救護室の扉の前まで来た俺は、扉に耳を当ててみる。
すると――
「あ、激し……んっ……気持ちいいです、ヒュウガ様、愛してます……!」
「ミシェルが気持ちいいなら、俺も嬉しい。俺も愛してるぞ、ミシェル」
などというのが聞こえてきた。
こういう場面でよくあるパターンは、俺の立ち位置にいるやつが扉を開け放って「お前らなにしてるんだ!」って入ったら実はただのマッサージで勘違いだったとかなるんだろう。
しかし、何とは言わないがパンッパンッと打ち付け合う音が聞こえてくることから、二人がそういうことをしてるのは明確だ。
お前ら、こんなところで何してんの?
というか今、陽向のやつミシェルのことを愛してるって言ったか?
確か陽向のやつ、女はとっかえひっかえするのが一番だから彼女は作らないとか最低なことをほざいてた気がするんだけど……。
いったい、俺が来るまでになにが起こったんだ?
取り敢えず……入ってみるか。
――ドンドン
小さいと聞こえないだろうから、強めに扉を叩く。
『えっ!? 誰っ!?』
「ガユードです。お見舞いに来ました」
『お、おう、よく来たな! でも少しそこで待っててくれ!』
すごい慌てようだな。一段落したところを見計らってノックしたのに。
少しして、入ってきていいと陽向が言ったので、《透明化/インビジブル》を解いてから失礼しますと言って中に入った。
中に入ると、咄嗟に着たことがバレバレな服、救護室の中に充満する匂い、そしてミシェルが睨み付けてきているのが、二人がそういうことをしていたことを物語っていた。
完全にお邪魔虫扱いだな。
それでも俺は、気にせず陽向に話し掛ける。
「手、元通りになったようでよかったです。それに、元気があるようで安心しました。先程までお楽しみだったようなので」
「「……ッ!?」」
ギクッという音が聞こえそうなほど顔を青くし体を硬直させる陽向とミシェル。
「まぁ、それはどうでもいいんです。それより、せっかくお見舞いに来たので、お話、しましょうか?」
俺はまだ、ヘリナ(沙夜)にしようとしたことを許してはいないからな。
そういった意味合いを込めて、ニッコリ笑顔でそう言うと、陽向が先手を打つように頭を下げた。
「俺が悪かった。許してほしい」
「……それは、何に対しての謝罪ですか?」
「メイドに手を出そうとしたこと、それと、勇者としてやってはいけないことをしたことに……」
そう言いながら頭を少し上げ、俺の様子を窺う陽向。
まさか謝罪の言葉が出てくるとは思っていなかった俺は、内心驚いている。
この友人――もといエロ大魔人は、自分がしたことに反省も後悔もしない男だ。
そんな反省も後悔もしないエロ大魔人から謝罪の言葉が出てきたのだから、明日世界が滅ぶんじゃないかと思ってしまう。
でも、異世界に来てあんな経験をして謝罪する気になったんだから、一歩前進したんじゃないか?
それもこれも、ヘリナ(沙夜)のお陰だけどな。
「あの、ガユード様、私からもお詫び致します。どうかヒュウガ様をお許しください。お許しいただけないのであれば、ヒュウガ様の代わりに私に罰をお与えください。なんでも受け入れます」
「み、ミシェル!? やめろ! それでガユードがお前の体を求めたらどうするんだ!?」
「ヒュウガ様以外に抱かれるのは耐え難いですが、罰として一度だけと確約していただけるなら受け入れます」
陽向とミシェルのやり取りにイラッときた俺は、声を張る。
「あの、盛り上がってるところ悪いんですけど、自分を勇者様と同類にしないでください。不愉快です。謝る気あるんですか?」
俺がそう言うと、陽向とミシェルはハッとした後、気まずそうに顔を俯かせた。
「だいたい、神官である貴女が貞操を軽々しく扱うのは、あってはならないことですよ? もう神官ではいられないと思いますが、それをわかっている上で勇者様に抱かれたんですか?」
「最初は嫌でした……ですが、ヒュウガ様と過ごしているうちに、ヒュウガ様の優しさに気づき惚れてしまったのです。神官でいられるかどうかなど、今の私には些細なことです。ヒュウガ様と生涯を共にすることこそ私にとって至上の喜びなのですから」
頬を染めながら語るミシェル。
完全に惚気話です。本当にありがとうございます。
気づけば、隣でミシェルの惚気話を聞いていた陽向の顔が真っ赤になっていた。
やっぱりこの二人、そこまでの関係になったんだな。
そこは素直に祝福しておこう。




