ヘリナ 2
大変お待たせしました。
屋敷に戻ってきてからの私は、顔のにやけがとまらない。
お兄ちゃんが、私のことを好きでいてくれた。そして、これからも……。
その事実を再認識したことで、嬉しさのあまり顔がにやける。
だって、お別れしたはずのお兄ちゃんとこれからずっと一緒にいれるのだから、しょうがない。
「その顔は、うまくいったみたいね」
ハッとして声がした方に振り返る。
「……サリーシャさん。はい、うまくいきました。うまくいったのも、サリーシャさんのお陰です。本当にありがとうございました」
「い、いいのよ、べつにお礼なんて……」
「いいえ、サリーシャさんが言ってくださらなければ踏ん切りがつきませんでした。本当に感謝しています」
「だったら、私のこと呼び捨てで呼んでくれるわよね? あと敬語も無しね」
「そ、それは……」
すぐに了承できず、口ごもる。
なにせ、お兄ちゃんだという確信がなかったとはいえ、お兄ちゃんがモデルのガユード様を馬鹿にされた怒りに任せてサリーシャさんの首をはね飛ばしている。
そんな私がサリーシャさんのことを呼び捨てにしていいんだろうか。
だって、あそこまでする必要はなかった。
お兄ちゃんが言っていた通り、他にも方法があったはずなのに、私はその場の感情に任せてあんなことをしてしまった。
だから……。
そう思ったところへ、サリーシャさんが私の顔を挟んだ。
「もうっ、なにを悩んでるのか知らないけど、私が呼んでって言ってるんだから、呼びなさいよ!」
そう……だよね。
サリーシャさん自身がそう言ってるんだから、いいんだよね?
「わかりました、サリーシャ。……これでいいですか?」
「敬語は、やめてくれないのかしら?」
「私はメイドですので、敬語は……」
「いいじゃない、二人だけの時は。貴女の過去は知っているのだし、素でお話したいわ」
「……わかりました。ですが、後悔しないでくださいね?」
「そう言われるとちょっと躊躇するのだけど、いいわ、ドンと来なさい」
覚悟があるのなら仕方ない。
そして私は、口を開く。
「じゃあ、改めて、これからよろしくね。サリーシャ」
「えぇ、こちらこそ。ヘリナ」
◆
「それにしても、お兄さんの趣味って独特よね……」
あれから数分経ち、急にそんなことをサリーシャが呟いた。
「どういうこと?」
「だって、実の妹をメイドにするなんて、私には考えられないもの」
なんだ、そんなことか。
「お兄ちゃんはちゃんと、私のことわかってくれてるよ」
「えっ? どういうことなの?」
「私、前世ではメイドが好きだったの。だってカッコいいじゃない? 合図一つでご主人様の望むことをするなんて。そのことをお兄ちゃんに話してたから、メイドにしてくれたんだと思う」
「そ、そうなのね……」
サリーシャの反応は微妙だけど、納得はしてくれたみたい。
「お兄さんじゃなくて、ヘリナの趣味が悪いのね……」
「えっ? なんか言った?」
「え、えっと、どうしてお兄さんはヘリナのことを好きなのに、子どもを作れないようにしたのかなぁって……」
「ふぅん?」
まぁ、ちゃんと聞こえてたんだけどね。
私、このくらいのことでは怒らないから。
でも、メイドになりたいことのどこが趣味悪いのか理解できない。
私にとっては、お兄ちゃんに尽くすための最良の選択なのに。
「ねぇ、どうしてなの?」
「えっ? あぁ、それはね、お互いがいればいいからだよ。前世では、兄妹で子どもを作ると、正常な子どもが産まれない確率が高かいって言われてるの。でも、そういうの関係なく、私もお兄ちゃんも、死ぬまで一緒にいられたらそれでよかったし、子どもを産んだら二人っきりの時間が少なくなるからいらないと思ってたから。だから、子どもを作れないようにしたんだと思う」
さすがお兄ちゃんだよね。
私のことをよくわかってる。
私も、お兄ちゃんのことは誰よりもわかってる。
だから、お兄ちゃんと私は、最強のカップルだと思う。
「つまり、あなたたち二人とも、変わってるってことね」
「えへへ、ありがとう」
「褒めてないわよ!」
「えっ? だって、二人とも変わってるってことは、お兄ちゃんと同じ――つまり、一緒ってことだから、〝お似合いのカップル〟っていう褒め言葉でしょ?」
「飛躍しすぎよ! 褒めてないって言ったでしょ!?」
うーん、褒め言葉としか思えないんだけどなぁ。
そう思った矢先、お兄ちゃんから《伝言/メッセージ》が送られてきた。




