処遇と勇者の手
お待たせしました。
今回、少し不快な描写・グロテスクな表現がありますので、注意して読んでください。
兵士を呼び、ヘグレドを地下牢獄へ連れていかせた後から、リオンが心なしか落ち込んだ様子だ。
理由はわかりきっているから、そっとしておこう。
そう思った矢先、コープスがリオンに話し掛けた。
「おい、人間の王、解決に協力したのだから用済みだろう! 早く我を解放しろ!」
しかも、呑むはずのない要求をした。
リオンも、コープスの要求は呑めないと断った。
「なぜだ!?」
「なぜだと言われても、みすみす見逃してこちらの……ガユード殿の情報が漏れる可能性がある。この戦いが終わるまで解放するわけにはいかない」
「くっ……当たり前だろう! 始祖竜が勇者のパーティーに同行している……報告すべき案件ではないか!」
それを正直に言っちゃう辺り、こいつの頭は弱いと見える。
「……それで、こいつの処遇はどうする?」
「それはもう決めてあります」
そう言ってコープスを俺の前まで連れてくるリオン。
まさか……。
「この魔族をよろしくお願いいたします。ガユード殿」
やっぱりか。
うーん、よろしくと言われても、こんなやつをヘリナ達に任せるわけにはいかないし、かといって連れていくわけにもいかないし……。
どうしたものか。
と思った矢先、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「でしたら、私に任せてください」
そう言って俺の影からニュッと現れたのは、ヘリナだった。
さっきあんなに顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたのに、その片鱗すら見せてない。非常に落ち着いている。
リオンとコープスは、影から現れたことでヘリナが吸血鬼だということは察したようで……
「ガユード殿、なぜ吸血鬼が? というかなぜメイド服を?」
「そもそも、なぜ吸血鬼が日中出歩ける! 普通は消えかかるはずだろう!」
と、疑問をぶつけてきた。
それに対し答えたのは、ヘリナ本人だった。
「初めまして。銀髪美少女吸血鬼のヘリナと申します。ガユード様のメイドをしております」
銀髪美少女吸血鬼って自分で言うのか? と呟くリオンとコープス。
「なぜ日中に出歩けるか、でしたか。それは、私が吸血鬼が持つ弱点すべてに絶対的な耐性を持った特殊個体だからです。その為、一族からお前は吸血鬼じゃないと言われ追い出されました。ですがそれは、私にとって幸運でした。そのお陰でガユード様に拾っていただけたのですから、一族には感謝しかありません」
リオンとコープスがなるほどと納得したのでそこで終わるかと思いきや、ヘリナの話は続いた。
しかも、頬を赤く染め上げながら。
「それに先程、抱き締めながらお前が一番だと言ってくださいました。私を拾ってくださったのは気まぐれだと思っていたので、私の想いは一方通行なのかと思っていました……」
えっ、それってつまり……。
「ガユード様。私も、ガユード様が一番です。これからも、私を一番でいさせてくださいますか?」
えっ、なにそのロマンチックな告白……。
というか、俺が断る理由……無くね?
だって、ヘリナは俺の理想の女の子で、好みとしては真ん中も真ん中、超ストライクだから。
なので頷いて答えた。
すると、ヘリナは一気に表情を明るくさせ、俺に抱きついてきた。
そんな俺とヘリナのやり取りを傍らで見ていたリオンとコープスが声を合わせて……
「「いやこれ、何を見せつけられているんだ……?」」
サリーシャがしたツッコミと同じようなことを言ったのだった。
◆
「では、この魔族を連れていきますので、私はこれで失礼いたします」
気を落ち着かせて表情は無表情だが、雰囲気が上機嫌なヘリナ。
よほど嬉しかったんだろう。かくいう俺も、内心ではテンション上がりまくってて、抑え込むのに必死なくらいだ。
「あぁ、頼んだぞ」
そんな状態の俺がそう言い終わるや否や、遠くから奴の声が聞こえてきた。
「おーい、そこの彼女ー。今から俺といいことしないかー」
声がする方を見れば、一応友人で勇者(笑)の陽向がこっちに向かって駆けてきていた。
俺は内心で陽向に対し殺意を抱きつつ、対面では勇者の従者であるガユードを保った。
「それは、私のことでしょうか?」
「そうそう。絶対に気持ちよくしてあげるからさ。な?」
そう言いながら陽向がヘリナの胸を触ろうと手を伸ばす。
しかし、陽向の手がヘリナの胸に触れることはなかった。
なぜなら、陽向の手首から先が切り落とされたからだ。
ボトリと地面に落ちる陽向の手。
陽向は自分の手首から先が無くなったことに気づくのに少し時間を要した。
ヘリナの早業は、俺の目なら確実に見切ることができるけど、一応勇者である陽向は無理だったようだ。
「あ、うあぁぁぁ!? うわぁぁぁぁ!? 手が! 俺の手があぁぁぁぁぁ!?」
気づいた陽向が悲鳴をあげ、腕を押さえながら地面に丸まる。
切られた腕からは血がドバドバと滝のように流れ出ている。
今回ばかりは、さすがのこういうのに慣れてない俺でもなんとも思わなかった。
ヘリナの胸を触ろうとしたんだ、当然の報いだ。としか思わない。
「気安く触れないでください。私に触れていいのは、この世でたった一人だけです」
蔑むような目で陽向を見下ろしながらそう告げるヘリナ。
さすがのヘリナも、陽向以外の人に触れられそうになって手を切り落としたりはしない。
せいぜい触れられる前に相手を気絶させる程度だ。
恐らく、最初に俺が陽向と会ったときのミシェルとのやり取りを俺の影から見ていたのだろう。
でも、この世界って確か一夫多妻制だったはずだから、それだけで手を切り落としたりはしないと思うんだけど……。
まぁ、それだけ俺のことが好きってことなんだよな? ……うん、そうに違いない。
「おい、お前、回復魔法使えないのか!」
「自分ですか?」
「そうだよ! お前あのババアの弟子なんだろ!? 使えるよな!?」
脂汗のようなものをかき、顔を青白くさせながら陽向がそう言ってきた。
実に痛そうだ。
今すぐ回復魔法をかけないと死ぬレベルだろう。
でも、だからといって、俺がやる必要はない。
たとえ友人だろうと、ヘリナの胸に触ろうとした奴にかける慈悲はない。
残酷かもしれないけど、俺に寝とられ願望はないし、こういう変態な奴らに慈悲をかけるほどお人好しでもない。
この世界では、俺がいる限り、生死は一種の状態でしかない。
でも、処女喪失は一度きり。
たとえ、《完全なる回復/パーフェクトヒール》で膜が復活したとしても、誰かによって喪失した事実は変わらない。
誰が最初に、という気持ちの問題だ。
まぁ、というわけで、治療はリオンに任せることにする。
と思った矢先、俺の考えていることを察したのか、リオンが兵士を呼びベリアルを呼ぶように指示した。
その後、ベリアルが駆けつけ陽向に回復魔法をかけ、無事血が収まったのだった。




