表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

13 見えなかった者2 (それぞれの愛)

「……。」


 少年は小さな吐息と共に目を開ける。透き通った金の瞳が見え、 一同は固唾を呑んで見守る。


 彼は表情を変えずにそのままでいたが、暫くして、唇が開いた──。

「……じゃ、そこ座ってもいい?」


 そことは、現在、橙が立っている玉座のことであった。

 少し首を傾げ、指を差して尋ねた内容は、他愛のないことで──、


「「「「「「……え」」」」」」


 予想外だったのか、一同、鳩が豆鉄砲を食ったように唖然とした表情を返す。


「ん? 何か変なこと言った?」


 少年の首は更に傾く。


「……ふっ、やはり、貴方は面白い方ですね。」

「……」


  口元を綻ばせた者や、じっと見詰める者がいる中、呆れ、驚き、戸惑いの気配も見られた。


「ん、どうしたの、青?」


 何か言いたそうな雰囲気を察してじっと見詰めてくる、騎士の出で立ちをした者に少年は尋ねた。


「……。……いえ。」


 一言愛想なく、応えた。青と呼ばれた、騎士の出で立ちをした者は、目をこちらに向けることもなかった。

 その際、ほんの僅か、眉がぴくっと動いたことを少年は見逃さなかった。


「ふーん?」


 少年は笑む。包容力すら感じるそれを見て、青は目元を険しくさせる。


「……。……何ですか。再三言っていますが、赤に何かあったら許しませんから。」


 淡々と言いつつも、力が随所に込められた言い方であった。


「ちょっと、青!?」


 驚きつつ、抗議の声を上げた者は、青が赤と呼んだ、赤一色の少女だった。それを青は気にせず、少年を逸らすことなく見据えた。

 興奮しているせいか、目元周辺がほんのり赤色に染まる。と言っても、外からはそれ程激しい様子でもなく、表情の変化もないので、厳しい口調で少年を責めているように見えるのみ。


「うん、知ってる。」


 少年は変わらず、微笑んでいた。


「……。」


 青は目を逸らし──。


「それなら、いいです。」


 苦々しい表情だった。その裏で──、

 ザリッ──。小さな歯軋り。それは、本人にしか聞こえない内密の音。

 


「流石だなっ! ダチのために強く思うその心、恐れ入ったぜ!」


 そんな二者によって築かれた独特の空気を見事にぶち壊して、中に入ってきたのは、緑だった。


「……、……。……貴方が言ったら、安っぽくなりました。口出さないでください。」


 何かを言おうとして、止め、僅かに見開いた目を伏せる。最終的に紡がれた言葉は、明確な拒絶だった。青は憤りのためか、先程よりは薄くなりつつも、染まった色は、未だ消えそうもなかった。


「おいおい、それはないだろ!? ……なぁなぁ、俺に対しての扱いが一番酷くないか!?」


 そのような青の様子に、一切気付けていない緑は嘆く。多彩な表情変化を見せる緑と比べれば、気付けないのも無理はない。


「……。」

「無視かよ!?」


 喚く緑に対しての応答は一瞥のみで、ふいっと顔を背けた。


「貴方は無神経にずかずか言って、知らないところで人を傷付ける癖がありますからね。しょうがありませんね。」


 そこに声を掛ける人物がもう一人、──それは黄だった。


「うっ! いや、そーだけど! そーだとしてもだっ! そこは、フォローしてくれよ!?」

「する気が起きませんね。」


 バッサリと切り捨てた。


「俺とお前のダチ同盟は!?」

「……。……ないですよ。全く結んだことすらないのを、あるように持ち出されても困りますね。」


 一瞬隙を突かれたように言い淀むも、溜め息混じりに通常通り話した黄は、肩を竦める。


「~っ!」


 否定されて、言葉にならない呻き声を上げると、


「シュッ、シュユウ! み、皆が俺を苛める!」

「あー、はいはい。どうどう。」


 緑は涙目で少年の掌にすり寄って来た。少年はそんな緑を撫でて宥める。

 ……行動とは裏腹に、適当な慰めの言葉であった。


「こらこら、苛めないの。 苛めると可愛いからって。」


 そしてあまりにも酷い言い様、止めさせる理由にもなっていないのである。


「シュッ、シュユウ!」


 それに、ガバッと顔を上げ怒る──


「やっぱり、シュユウだけだっ! 俺のこと分かってくれるのは!」


 ……怒ったわけでもなく、ただただ感激し、うるうるした瞳で、全面的な信頼を少年に寄せていた。

 その小さな両手で、しっかりと少年の指を押さえていた。


「見事に雰囲気で流されてますね。」

「……まるめ、こまれ、てる。」

「何故、気付かないんですの?」

「……。」


 呆れて何も言わない者と、


「……。」


 目を逸らした者と、


「……シュユウ。」


 憂いを帯びた表情の者。


「俺は、シュユウのことが好きだー!」


 今度は少年の指を全体で抱くようにして、スリスリし始めた。傷心気味であるためか、半ば自棄になっている。


「わぁ、素面なのに、酔ってる? うん、僕も好きだよー」


 その最後の一言に一同、ビシッと固まる。……分かっている。この少年の言葉に、特別意味がないことは。大方、面白いからで済む話だろう。……しかし──。

 誰からというわけでもなく、互いに見合わせる──、


「そこまでですわ! もう、十分ではなくって! それ以上、見苦しい真似をするならば、減点ですわ!」


 そのような周囲と一線を画して、先陣を切ったのは、やはりというべきか赤だった。


「いいぜ! 減点、受けてやる! 俺の評価は既にマイナスだからな! マイナスが増えるだけなら、減点されても怖くないぜ!」


 開き直りは頑固さを引き起こして、梃子でも動かない、面倒臭さを倍増させた。


「俺達の愛を邪魔する障害は、何であろうと越えてみせる!」


 決意を漲らせ、益々少年に、正しく言えば少年の指だが──、がしっと、しがみ付く。


「壮大な物語になってきたねー。君が楽しそうなら、何よりだよ。」


 語られている二人の温度差は、広がりを見せていた。


「何ですの! 貴方がお可哀想だと思って、すぐに指摘することなく、そのままにしてあげましたのよ!」

「いいんだ! 俺は可哀想な奴で!」

「みっともないですわ! 少しはシュユウの迷惑も考えたらいかが!?」

「僕は迷惑じゃないよー。 ずっとこのままだと、差し支えはあるけど。」

「貴方はややこしくなるので、黙ってなさい!」

「はーい。」


 少年は大人しく返事をした。


「やだ! 俺は絶対離すもんか!」


 やだやだと首を振る。


「……赤に迷惑を掛けるなら」


 ギラッと青い瞳が光る。それは、夜の海に反射された、灯台の光を錯覚させる程、潜在的で静かなのに激しい。


「それまで……、……!」

「……ヘンタイ、排除」


 同時に放たれた異なる言葉──。青はもう一つの気配に目を見開く。

(いつの間に、……不覚。)

 ぐっと奥歯を噛み締めた。


「うおっわああ! ……やめろ、やめろっ。そのブツどけてくれっ」


 静観していた者達が動き出した結果、喧しさは加速していた。

 緑が動揺するのも仕方がない。

 肩と言えば肩だが、首の根本のギリギリに置かれた、剣──。

 首から肩が露出しているドレスなので、ひんやりとした冷覚が直に肌から伝わった。

 それに気付いて緑は叫んでいた。


「……。外れ……」


 青は眉を寄せた。


「……、何故?」


 考え込み始めた青に対して、


「なんつーっ、危ねーもの向けてるんだっ! ドレス着ている俺に向かって!」

「……?」

「あ、言っとくけどドレス着てなきゃ、向けていいわけじゃねーからな!」

「そうですか。」

「そうですか、じゃなくて、どけろ! ……、お前じゃないのか?」

「……は?」

「なんかこう、むず痒いというか、いや、これは収まったな。じゃなくて、こう、ゾッゾッゾってするんだけど。」


 緑は真面目な顔をして話すが──。


「……。」

「止めろ! 今言ってること以上、言うのは止めろ!」

「……何も言ってませんが。」

「いや、なんか目から、俺が傷付くことを言ってる気がする。」

「……。」

 青は剣を退けた。緑の要望通りになった訳だが……、

「あ、これ以上話しても無駄だって思ったろ!」

「……。」


 青は一瞥して──、側にいた、呆然としている赤の手首を掴む。


「行きましょう。」


 見てても無駄と早々に決め、颯爽と踵を返す──、


「青っ!? 」

「……待った、待った! まだ、話すことはあるはずだぜ! 俺を見てくれ!」


 驚きに声を上げる者と、焦りの声を上げる者に分かれた。


「……」


 ピタッと足が止まる。


「……気持ち悪い。」

「はぁ!?」

「私が見たいと思うのは、赤──」


 金の瞳が脳裏を掠める。そして、呑み込まれる程の深い──、自分とは似て非なる藍──。

 バッと青は少年を見る。

 少年はちゃっかりと玉座に座っており、ひらっと片手を振った。細められた金の瞳が、青を映していた。

 手を振っていない側の肩には、黄が悠然と座っている。


「青?」

「……。」


 怪訝そうに呼び掛ける声で、正気に戻る。


「いえ」


 知らず知らず口元を覆っていた手を外し、目を逸らし、緑を見据えた。


「元から、私が見たいと思うのは、赤だけだ」


 それ以外は許さないと言わんばかりの強い眼差し。瞳の放つ輝きは、太陽から海に向けられたギラつく反射光となり、強烈でその瞳の真意は見えない。先程の激しい静けさが、表面に出てきたかのようであった。

 ──許してはならないのだ、何があっても。変化はいらない。望まない。


「傲っていればいい。今、首を狙うのは、私だけではない。お忘れなきよう。」


 所々抜け落ちた敬語。そこに意思の強さが窺える。


「……行きましょう。」


 今度こそ、しっかりと赤の手首を掴む。その様は自分に何かを言い聞かせているようで──、


「……ええ。」


 何かを察した赤は目を伏せる。


「……おっ、おいっ!」


 呆然とその二者を見送った緑は我に返り、尚も呼び止めようとするが──、


「動くな、変態」

「……!」


 ピタッと緑に気配なく張り付いていた者により、動きを止めざるを得なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ