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元税務調査官、異世界で世界監査局を作ったら魔王軍の脱税を暴いて世界最強になりました  作者: 春野ケイ


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19/21

第19話 徴収

「それでは――監査を開始します。」


 真人の言葉が洞窟に静かに響いた。


 次の瞬間。


 淡い光が真人の足元から広がり、洞窟全体を包み込んでいく。


 部下の魔族たちが思わず身構えた。


「な、何だ……!」


「魔法か?」


 しかし、その光に害意はない。


 温かく、静かな光だった。


 四天王だけは動かず、その光景を見つめている。


「これが……監査。」


 真人は静かに右手を前へかざした。


「【完全査定】」


 光が四天王を包み込み、一枚の巨大な帳簿のようなものが二人の間へ浮かび上がる。


 真人だけが見ていた表示とは違う。


 今度は四天王にも、その内容が見えていた。


 四天王は目を見開く。


「これは……。」


 帳簿には、淡い文字が一行ずつ刻まれていく。


━━━━━━━━━━━━━━


監査対象


四天王


監査結果


世界循環阻害物質の運搬


港町レヴィナへの被害


世界循環の悪化


未納魔力 極大


━━━━━━━━━━━━━━


 洞窟は静まり返っていた。


 部下たちは表示を見ることはできない。


 だが、四天王の表情が変わったことだけは誰の目にも明らかだった。


 真人は静かに帳簿を見つめる。


「これが監査結果です。」


「あなたは、世界循環を乱す物質を運搬し、その結果として港町へ被害を及ぼしました。」


 四天王は何も言わない。


 ただ、帳簿を見つめ続けている。


 真人は続けた。


「ですが。」


「未納魔力が発生した理由は、部下を守ろうとしたことではありません。」


 四天王がゆっくりと顔を上げる。


「あなたは、この木箱が世界へ被害を及ぼすことを知っていました。」


「それでも運搬を続けた。」


「世界帳簿は、その結果を未納として記録しています。」


 四天王は静かに目を閉じた。


 否定の言葉は、一つもなかった。


 長い沈黙の末、小さく息を吐く。


「……そのとおりだ。」


「私は、知りながら運び続けた。」


 真人は一歩前へ出る。


「監査は終了しました。」


「これより、未納魔力の徴収を執行します。」


真人の言葉と同時に、宙に浮かぶ帳簿がゆっくりとページをめくった。


 洞窟の空気が静まり返る。


 四天王は逃げようとしなかった。


 ただ、真人をまっすぐ見つめている。


「徴収とは、命を奪うものではありません。」


 真人は静かに告げる。


「世界へ返されるべきものを、本来あるべき場所へ戻す。」


「ただ、それだけです。」


 四天王は小さく目を閉じた。


「……来い。」


 真人は静かに右手を掲げる。


「徴収、執行。」


 次の瞬間。


 帳簿から無数の光が溢れ出し、四天王の身体を優しく包み込んだ。


 黒く淀んでいた魔力が、細い光の粒となって次々と身体から離れていく。


 それらは帳簿へ吸い込まれ、淡い金色へと姿を変えた。


 洞窟全体を満たしていた重苦しい空気が、少しずつ薄れていく。


 同時に、積み上げられた木箱にも変化が現れた。


 木箱を覆っていた黒い靄が音もなく消え、封印の紋様が淡い光を放ち始める。


「これは……。」


 部下の魔族たちが驚きの声を漏らす。


 一つ、また一つと木箱から禍々しさが消えていく。


 四天王はゆっくりと両手を見つめた。


 胸を締め付けていた重圧が、少しずつ消えていく。


「身体が……軽い。」


 真人は静かに帳簿を閉じる。


「徴収、完了。」


 その瞬間。


 洞窟へ吹き込んできた潮風は、これまでとは違う澄んだ香りを運んできた。


その時だった。


 洞窟の外から、潮騒とは違う音が聞こえてきた。


「おい!」


「見ろ!」


 誰かの叫び声だった。


 部下の魔族たちが思わず入り江へ駆け出す。


 真人と四天王も後に続いた。


 入り江の海は、先ほどまでとはまるで違っていた。


 濁っていた海面はゆっくりと透明さを取り戻し、穏やかな潮の流れが岩場を優しく洗っている。


 その水面の下を、無数の魚影が群れをなして泳いでいた。


「魚だ……。」


 一人の魔族が思わず声を漏らす。


 四天王は目を見開いたまま、海を見つめていた。


「こんなことが……。」


 遠くの港からも歓声が風に乗って届いてくる。


「魚が戻ったぞ!」


「網がいっぱいだ!」


「こんなの何年ぶりだ!」


 港町の人々は、まだ理由を知らない。


 それでも、海が戻ったことだけは誰もが感じていた。


 真人は静かにその光景を見つめる。


「世界は、少しだけ元の姿を取り戻した。」


 四天王はゆっくりと真人へ向き直った。


 その表情からは、張り詰めていた力が抜けていた。


「……榊真人。」


「私は、お前に敗れたのではないな。」


 真人は穏やかに首を横へ振る。


「勝ち負けではありません。」


「私は、この世界を本来あるべき姿へ戻したいだけです。」


 四天王は小さく笑う。


「そうか。」


「ならば私は……救われたのかもしれんな。」


四天王は静かに部下たちを見渡した。


 疲れ切った表情。


 傷だらけの手。


 誰もが限界まで働き続けていた。


 四天王は小さく息を吐く。


「作業は中止だ。」


 部下たちが驚いたように顔を上げる。


「四天王様……?」


「今日は休め。」


「残りのことは、私が責任を負う。」


 一人の部下が思わず声を上げた。


「ですが、それでは四天王様が……!」


 四天王は静かに首を横へ振る。


「責任者とは、そういうものだ。」


「少なくとも今日くらいは、安心して休め。」


 部下たちは顔を見合わせ、やがて深く頭を下げた。


「……ありがとうございます。」


 真人はその様子を静かに見届ける。


 四天王は真人へ向き直り、穏やかに口を開いた。


「榊真人。」


「お前の監査は、私の考えを変えた。」


「だが、この先は簡単ではない。」


 真人は静かにうなずく。


「分かっています。」


 四天王は遠くの海へ目を向けた。


「私の上には、さらに大きな存在がいる。」


「その者たちまで正そうというのなら……。」


 一拍置き、小さく笑う。


「覚悟だけは、しておけ。」


 真人はまっすぐ四天王を見返した。


「覚悟なら、最初からできています。」


 短いやり取りのあと、二人は互いに小さくうなずいた。


 敵としてではなく。


 それぞれが、自分の信じる役目を果たす者として。


港町を後にした真人は、小高い丘の上で足を止めた。


 振り返ると、夕日に照らされたレヴィナの港が見える。


 港には活気が戻り、人々の笑い声が風に乗って届いてきた。


 真人は静かに目を閉じる。


「【世界帳簿】」


 淡い光が目の前に広がる。


━━━━━━━━━━━━━━


世界帳簿


世界健全率


13.7%


   ↓


15.2%


未納魔力総量


減少


港町レヴィナ


監査完了


世界循環


正常化


━━━━━━━━━━━━━━


 表示が切り替わる。


━━━━━━━━━━━━━━


新たな異変を検知


対象地域


鉱山都市グランベル


推定未納魔力 極大


━━━━━━━━━━━━━━


 真人は表示を静かに見つめ、小さく息を吐いた。


「……次は鉱山か。」


 表示はゆっくりと光の粒になって消えていく。


 真人は港町へ一度だけ視線を向けると、迷うことなく街道を歩き始めた。


━━━━━━━━━━━━━━


監査記録 No.0019


案件名:港町レヴィナ


結果:監査完了


世界循環正常化


━━━━━━━━━━━━━━


第二章 完

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