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元税務調査官、異世界で世界監査局を作ったら魔王軍の脱税を暴いて世界最強になりました  作者: 春野ケイ


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第18話 監査

 四天王は真人をまっすぐ見据えたまま、静かに口を開く。


「お前は、一体何を監査する。」


 真人は一歩前へ出た。


「あなた個人ではありません。」


 その言葉に、部下たちがざわめく。


「じゃあ、何を……。」


 真人は洞窟全体をゆっくりと見渡した。


「この港町で起きている異変。」


「夜だけ動く倉庫。」


「秘密の洞窟。」


「世界循環を阻害する木箱。」


「そして、それを各地へ運ぶ、この一連の流れ。」


 真人は四天王へ視線を戻す。


「私は、それらすべてを監査します。」


 洞窟の中は静まり返っていた。


 四天王は表情を変えず、静かに問い返す。


「……そこまで調べたということか。」


「はい。」


 真人は迷いなく答える。


「港町に着いてから三日。」


「現地を歩き、人々から話を聞き、あなた方の行動も見てきました。」


「そして、一つの結論にたどり着きました。」


 真人は静かに木箱へ目を向ける。


「この木箱が、港町の異変を引き起こしています。」


 部下たちの表情が強張る。


 だが、四天王だけは落ち着いたままだった。


「……続けろ。」


 真人は小さくうなずく。


「この木箱に封じられている物質は、世界の循環を乱しています。」


「港町で魚が獲れなくなった原因も、それによる影響です。」


「さらに、それを各地へ運べば、同じ被害が他の土地にも広がる。」


 洞窟に沈黙が落ちる。


 四天王はしばらく目を閉じたまま立っていた。


 やがて静かに目を開く。


「……そこまで分かっているのなら。」


 一拍置いて、低くつぶやく。


「お前の言うことは、間違っていない。」


部下たちが息をのむ。


「四天王様……。」


 誰もが否定すると思っていた。


 だが、四天王は言い逃れをしなかった。


「この木箱が世界へ悪影響を与えていることも知っている。」


「港町の海が変わってしまったことも知っている。」


 四天王は木箱へ静かに視線を落とす。


「だからといって、私には止めることはできない。」


 真人は四天王を見据えた。


「なぜですか。」


 四天王は自嘲するように笑う。


「命令だからだ。」


「私には守らなければならない部下がいる。」


「ここで私が命令を拒めば、この場にいる全員が責任を負うことになる。」


 部下たちは黙ったまま俯く。


 その様子だけで、その言葉が嘘ではないことが伝わってきた。


 四天王はゆっくりと真人へ視線を戻す。


「人間。」


「お前ならどうする。」


「部下を守るために命令へ従うか。」


「それとも、世界のために部下を見捨てるか。」


 洞窟に重い沈黙が流れる。


 真人はすぐには答えなかった。


 四天王の問いは、相手を試すためのものではない。


 苦しみ続けた末に、ようやく口にした本音なのだと感じたからだ。


しばらくの沈黙が流れた。


 やがて、真人は静かに口を開く。


「……難しい問いですね。」


 四天王は何も言わず、その続きを待った。


「もし私があなたの立場でも、すぐに答えは出せなかったと思います。」


 部下たちが驚いたように真人を見る。


 責められると思っていた。


 だが、真人の口から出たのは非難ではなかった。


「部下を守りたいと思う気持ちは、間違っていません。」


 四天王の眉がわずかに動く。


「ですが。」


 真人は一歩前へ進んだ。


「あなたが守ろうとしている部下の外には、この港町で暮らす人たちがいます。」


「漁に出ても魚が獲れず、生活に苦しむ人たちがいます。」


「この木箱が運ばれれば、その被害は他の町へも広がるでしょう。」


 真人は静かに四天王を見据えた。


「あなたは部下を守ろうとしている。」


「でも、そのために、守られるはずだった多くの人たちが犠牲になっています。」


 洞窟は静まり返っていた。


 誰一人、口を開かない。


 四天王は拳を強く握り締める。


「……分かっている。」


 その声は、これまでで一番小さかった。


「そんなことは、誰よりも私が分かっている。」


 苦しげに絞り出したその一言に、部下たちは静かに目を伏せた。


四天王はゆっくりと目を閉じた。


 しばらくして、小さく息を吐く。


「私も、この仕事を始めた頃は止めようとした。」


 部下たちが顔を上げる。


 その話は、誰も聞いたことがなかった。


「だが、結果は変わらなかった。」


「命令は覆らず、逆らった者は処分された。」


 四天王は自嘲するように笑う。


「私が四天王になったのは、力があったからじゃない。」


「部下を少しでも守れる立場になりたかったからだ。」


 その言葉に、洞窟の空気が重く沈む。


 一人の部下が唇を噛みしめた。


「四天王様……。」


 真人は静かに問いかける。


「だから、自分がすべての責任を背負うと決めたのですか。」


 四天王は否定もしなければ、肯定もしなかった。


 ただ、静かに言う。


「責任者とは、そういうものだ。」


「部下に責任を負わせるくらいなら、私一人で背負った方がいい。」


 真人はその答えを聞き、静かにうなずく。


「あなたが部下を思う気持ちは、本物だと分かりました。」


 一拍置いて、真人はまっすぐ四天王を見据える。


「ですが。」


「それでも私は、この監査を止めることはできません。」


 その声は穏やかだった。


 しかし、その決意だけは少しも揺らいでいなかった。


四天王は真人を見つめたまま、静かに笑った。


「不思議な人間だ。」


「私を責めるでもなく、見逃すでもない。」


「ただ、事実だけを見ている。」


 真人は首を横に振る。


「私は、人を裁きに来たわけではありません。」


「この世界で何が起きているのかを確かめ、その原因を正すために来ました。」


 四天王はゆっくりと目を閉じる。


 洞窟には波の音だけが響いていた。


 やがて、静かに目を開く。


「……ならば。」


 四天王は一歩前へ出る。


 部下たちが思わず声を上げた。


「四天王様!」


 しかし四天王は片手を上げ、その声を制する。


「武器を下ろせ。」


「この人間は、私と話をしに来ただけだ。」


 部下たちは戸惑いながらも、ゆっくりと武器から手を離した。


 四天王は真人の前まで歩み寄る。


 二人の距離は、あと数歩。


「榊真人。」


「お前の言う監査とやらを、受けよう。」


 その一言に、洞窟中が静まり返った。


 真人は静かにうなずく。


「ありがとうございます。」


 そして、四天王の目をまっすぐ見据えた。


「それでは――監査を開始します。」


━━━━━━━━━━━━━━


監査記録 No\.0018


案件名:港町レヴィナ


状況:監査受理


━━━━━━━━━━━━━━


次回『徴収』

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