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元税務調査官、異世界で世界監査局を作ったら魔王軍の脱税を暴いて世界最強になりました  作者: 春野ケイ


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第17話 三日後

 三日後――。


 真人は夜明け前から入り江へ来ていた。


 岩陰へ身を潜め、静かに海を見つめる。


 この三日間、宿を拠点に港町を歩き、倉庫街を見回り、入り江の様子も観察し続けた。


 新たな動きはなかった。


 だが、四天王が言っていた期限は今日だ。


「今日、すべてが動く。」


 東の空がゆっくりと明るくなり始める。


 やがて沖合に、小さな船影が一つ、また一つと姿を現した。


「来たか。」


 前回よりも多い。


 一隻ではない。


 三隻の小型船が間隔を空けながら入り江へ近づいてくる。


 船が桟橋へ横付けされると、魔族たちは慌ただしく荷下ろしを始めた。


「急げ!」


「時間がない!」


「こっちはもういっぱいだ!」


 普段よりも張り詰めた空気が漂っている。


 疲れ切った表情の魔族も少なくない。


 それでも誰一人、手を止めようとはしなかった。


 しばらくすると、洞窟の奥から四天王が姿を現す。


「状況を報告しろ。」


 部下が駆け寄り、一礼した。


「予定どおり到着しました。」


「これで最後の積み荷です。」


 四天王は静かにうなずく。


「分かった。」


「中身を確認する。」


 部下が一本の木箱を運んできた。


 四天王は封印を慎重に解き、ゆっくりと蓋を開ける。


 真人は岩陰から、その様子を見つめた。


「【完全査定】」


 視界に淡い文字が浮かび上がる。


━━━━━━━━━━━━━━


対象:封印木箱


内容:世界循環阻害物質


用途:各地への運搬


危険度:高


━━━━━━━━━━━━━━


 真人は息をのむ。


「……海へ流すためじゃない。」


 港町だけの問題ではなかった。


 この木箱は、世界各地へ運ばれようとしている。


 つまり、この異変は始まりにすぎない。


 真人は静かに視線を四天王へ移した。


「あなたは、一体何のために……。」


四天王は木箱の中身を確かめると、静かに蓋を閉じた。


「封印に異常はない。」


「予定どおり運び出せ。」


「はっ。」


 部下たちは一斉に動き始める。


 その時、一人の若い魔族が木箱を抱えたまま足をもつれさせた。


「あっ……!」


 木箱が傾く。


 四天王は素早く前へ出ると、木箱を両手で受け止めた。


「気を付けろ。」


「申し訳ありません!」


 若い魔族は青ざめた表情で頭を下げる。


「す、すぐにやり直します!」


 四天王は怒鳴ることなく、静かに首を横へ振った。


「怪我はないか。」


「……え?」


「まずは自分を確認しろ。」


 若い魔族は戸惑いながらも、自分の身体を見回した。


「だ、大丈夫です。」


「ならいい。」


 四天王は木箱を抱え直し、部下へ手渡す。


「中身が漏れれば被害は広がる。」


「焦るな。」


「確実に運べ。」


「……はい!」


 若い魔族は何度も頭を下げ、木箱を抱えて走っていく。


 その様子を見ながら、年配の魔族が小さくつぶやいた。


「四天王様。」


「あなたは、いつも部下ばかり気に掛ける。」


 四天王は苦笑する。


「私が守れなければ、誰が守る。」


 だが、その表情はすぐに曇った。


「……それでも、命令は果たさなければならない。」


 岩陰から見つめる真人は、その一言を静かに胸へ刻んだ。


(やはり、この魔族も……。)


(自分の意思だけで動いているわけじゃない。)


その時、一人の部下が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「四天王様!」


「どうした。」


「一つだけ封印にひびが入った木箱が見つかりました。」


 四天王の表情が変わる。


「すぐにここへ運べ。」


「はい!」


 しばらくして運ばれてきた木箱には、小さな亀裂が入っていた。


 四天王は木箱を見つめ、険しい表情で口を開く。


「これ以上、このまま運ぶのは危険だ。」


「ですが、予定が……。」


「予定より人命だ。」


 部下は驚いたように顔を上げる。


「漏れれば、この近海だけでは済まない。」


「海流に乗れば、被害はさらに広がる。」


 真人はその言葉に目を見開いた。


(やはり……。)


 四天王は、この木箱が世界へ被害を及ぼすことを知っている。


 それでも運ばなければならない事情がある。


 四天王は静かに命じた。


「破損した木箱は運ぶな。」


「封印をやり直せ。」


「他の積み荷は予定どおり出航させる。」


「はっ!」


 その瞬間、真人は静かに【完全査定】を発動した。


 淡い文字が視界いっぱいに広がる。


━━━━━━━━━━━━━━


対象:四天王


監査条件


✔ 未納魔力確認


✔ 被害確認


✔ 証拠確保


✔ 責任者特定


監査実行可能


━━━━━━━━━━━━━━


 真人はゆっくりと息を吐く。


「……揃った。」


 決定的な証拠は、今この場で示された。


 あとは、この監査を始めるだけだった。


真人は表示を閉じると、ゆっくりと立ち上がった。


 岩陰から一歩踏み出す。


 乾いた小石が足元で小さく音を立てた。


 その音に、近くにいた魔族が振り返る。


「誰だ!」


 洞窟の空気が一変する。


 荷物を運んでいた魔族たちは一斉に動きを止め、それぞれが真人へ視線を向けた。


 四天王もまた、静かに真人を見据える。


「人間……。」


 低く落ち着いた声が洞窟に響く。


 その表情に焦りはない。


 敵意も、驚きも少ない。


 ただ、突然現れた侵入者を見極めようとしていた。


 真人はゆっくりと四天王の前まで歩みを進める。


 魔族たちは武器へ手を掛けた。


 だが、四天王は片手を軽く上げ、その動きを制した。


「待て。」


 短い一言で、部下たちの動きが止まる。


 四天王は真人から目を離さないまま口を開いた。


「ここまで来た目的を聞こう。」


 真人は静かに息を吸い込む。


 そして、まっすぐ四天王を見据えた。


「私は、あなたに話があります。」


 その一言で、洞窟は再び静寂に包まれた。


四天王は真人をまっすぐ見つめたまま、静かに問いかける。


「話……だと?」


「そうです。」


 真人は一歩前へ出る。


 周囲では魔族たちが緊張した面持ちで武器を握っている。


 だが、誰一人として四天王の命令なく動こうとはしなかった。


 真人はその様子を一瞥し、落ち着いた声で口を開く。


「私は榊真人。」


「王都から、この港町で起きている異変を調べに来ました。」


 四天王の眉がわずかに動く。


「……王都の人間か。」


「はい。」


「そして、この三日間、あなた方の行動を調べさせてもらいました。」


 真人は四天王を見据える。


「夜しか動かない倉庫。」


「秘密の洞窟。」


「世界循環を阻害する木箱。」


「そして、それを各地へ運ぶ密輸ルート。」


「すべて確認しています。」


 洞窟の空気が一気に張り詰めた。


 部下の魔族たちが息をのむ。


 一人が思わず四天王へ視線を向けた。


 だが、四天王は表情を変えない。


「……そこまで調べたか。」


 短くそう言うと、真人の目をまっすぐ見返した。


「それで、お前は何をするつもりだ。」


 真人は静かに息を吸い、迷いなく答えた。


「あなたを監査します。」


  その一言に、洞窟の空気が凍りつく。


 部下たちは困惑したように顔を見合わせた。


「……監査?」


「何を言っているんだ、あいつは。」


 聞き慣れない言葉に戸惑いが広がる。


 だが、四天王だけは真人から目を離さなかった。


「監査……か。」


 その言葉を静かに繰り返す。


「面白いことを言う人間だ。」


 四天王は小さく息を吐き、真人をまっすぐ見据えた。


「ならば聞こう。」


「お前は、一体何を監査する。」


 真人は一歩も引かない。


 その視線は、四天王だけを捉えていた。


━━━━━━━━━━━━━━


監査記録 No.0017


案件名:港町レヴィナ


状況:監査開始


━━━━━━━━━━━━━━


次回『監査』


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