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元税務調査官、異世界で世界監査局を作ったら魔王軍の脱税を暴いて世界最強になりました  作者: 春野ケイ


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第16話 四天王

 翌朝。


 港町レヴィナは、今日も静かな朝を迎えていた。


 真人は宿の部屋で机に向かい、昨夜の出来事を頭の中で整理する。


 未納魔力を含む木箱。


 秘密の洞窟。


 海へ向かった小型船。


 そして、そのすべてを指揮していた責任者の魔族。


「……まずは、この荷の行き先を突き止める。」


 真人は静かに立ち上がると、宿を後にした。


     ◇


 向かった先は港だった。


 朝から漁師や商人たちが忙しく動き回っている。


 真人は船着き場で荷下ろしをしていた年配の港湾作業員へ声を掛けた。


「少し、お聞きしてもよろしいでしょうか。」


「なんだい、旅人さん。」


「この港を出入りする船について教えていただきたいんです。」


 作業員は手を止め、真人を見た。


「商船なら毎日何隻も出入りしてるぞ。」


 真人は首を横に振る。


「正式な商船ではありません。」


「夜だけ動く小型船です。」


 その言葉を聞いた瞬間、作業員の表情がわずかに曇った。


「……見たのか。」


 真人は黙ってうなずく。


 作業員は周囲を気にするように見回し、小さな声で続けた。


「港の連中は、あの船には近付かねぇ。」


「どうしてですか。」


「理由は知らん。」


「ただ、昔から『関わるな』と言われてきた。」


 真人はさらに尋ねる。


「船はどこへ向かうんですか。」


 作業員は少し迷ったあと、小さく息を吐いた。


「港の北に、小さな入り江がある。」


「地元の漁師も近寄らない場所だ。」


「俺が見たのは一度だけだが……あの船は、そこへ向かっていた。」


 真人は静かに頭を下げた。


「ありがとうございました。」


 港湾作業員は苦笑しながら言う。


「旅人さん。」


「あんたも、あまり危ないことはするなよ。」


 真人は小さく笑みを返し、その場を後にした。


「北の入り江か……。」


 真人は港の北を見つめ、静かに歩き始めた。


港町を離れると、人の姿は次第に少なくなっていった。


 海岸沿いの細い道を進み、岩場を越える。


 やがて、切り立った岩壁に囲まれた小さな入り江へたどり着いた。


 真人は周囲を見回す。


 人の気配はない。


 波だけが静かに岩へ打ちつけている。


「ここか……。」


 港湾作業員の話が正しければ、あの船はここへ来るはずだ。


 真人は岩陰へ身を隠し、息を潜めた。


 時間だけがゆっくりと過ぎていく。


 やがて――。


 沖の水平線に、小さな船影が現れた。


 真人は目を細める。


「来た。」


 船は速度を落としながら、周囲を警戒するように入り江へ近づいてくる。


 やがて静かに桟橋へ横付けされた。


 船上の魔族たちは無駄な言葉を交わすことなく、次々と木箱を陸へ運び始める。


 その数は、一つや二つではない。


 昨夜洞窟で見た木箱と同じものだった。


 真人は岩陰から、その様子を静かに見つめる。


「やはり、ここが荷の行き先か。」


 しばらくすると、洞窟の奥から一人の魔族が姿を現した。


 昨夜、積み込みを指揮していた責任者だった。


 その姿を見た部下たちは、一斉に作業の手を止め、深く頭を下げる。


「四天王様。」


 その一言に、真人の表情がわずかに変わる。


「……四天王。」


 王都でも、その名くらいは耳にしたことがある。


 魔王軍最高幹部。


 魔王に仕える四人の将。


 だが、その一人が、この密輸を指揮しているとは思わなかった。


四天王は運び込まれた木箱を一つひとつ確認していく。


 蓋がきちんと閉まっているか。


 封印に傷はないか。


 その目は厳しかった。


「報告を。」


 低く落ち着いた声が響く。


 部下の一人が前へ出る。


「昨夜の積み込みは予定どおり完了しました。」


「運搬中の事故もありません。」


「そうか。」


 四天王は静かにうなずいた。


「ご苦労だった。」


 部下はどこか安心したように胸をなで下ろす。


 その様子を見ていた別の魔族が、おずおずと口を開いた。


「あの……。」


「昨日から休めていない者が何人かおります。」


 一瞬、場の空気が張りつめる。


 だが、四天王は怒鳴ることなく答えた。


「交代できる者は交代させろ。」


「休息も任務のうちだ。」


 その言葉に、部下たちはほっとした表情を浮かべる。


 しかし次の瞬間、四天王は小さく息を吐いた。


「……とはいえ、期限は変わらん。」


「三日後までに、すべて終わらせなければならない。」


 部下たちは黙ってうなずいた。


 誰一人、不満を口にする者はいない。


 口にできないのかもしれなかった。


 四天王は空を見上げ、小さくつぶやく。


「私も……急がねばならん。」


 その声は、誰にも聞こえないほど小さかった。


 岩陰から見つめる真人は、その一言を聞き逃さなかった。


(この魔族も、誰かの命令で動いている……。)


四天王が部下たちへ指示を出している間、真人は岩陰から静かに様子をうかがっていた。


 今なら届く距離だ。


 真人は小さく息を整える。


「【完全査定】」


 淡い光が視界に浮かび上がる。


━━━━━━━━━━━━━━


対象:四天王


種族:魔族


未納魔力   極大


危険度    高


監査条件   未達成


━━━━━━━━━━━━━━


 真人は眉をひそめた。


「……監査条件、未達成。」


 未納魔力は確認できる。


 だが、それだけでは監査はできない。


 これまでの相手と同じように、決定的な証拠が必要だった。


(まだ何かが足りない。)


(この木箱だけではないはずだ。)


 その時、部下の一人が四天王へ駆け寄る。


「四天王様。」


「次の積み荷ですが、予定どおり三日後には到着します。」


 四天王は静かにうなずいた。


「分かった。」


「それまでに、こちらの準備も終わらせておけ。」


「上への報告は、私が行う。」


「はい!」


部下は深く一礼すると、足早に持ち場へ戻っていった。


 再び洞窟の中には、木箱を運ぶ音だけが響き始める。


 四天王は積み上げられた木箱を静かに見つめると、一つだけ封印の状態を確かめ、小さくうなずいた。


「引き続き作業を続けろ。」


「期限は三日後だ。」


「それまでに、すべて終わらせる。」


「はっ!」


 部下たちは疲れた表情を浮かべながらも、再び木箱を抱え始めた。


 その様子を岩陰から見つめる真人は、小さく息を吐く。


「……三日後。」


 その日が、この事件の鍵になる。


 未納魔力を含む木箱。


 密輸ルート。


 四天王。


 ここまではつながった。


 だが、まだ決定的な証拠が足りない。


 焦って動けば、すべてを失う。


 今は待つしかない。


 真人は最後にもう一度だけ四天王へ視線を向けた。


「……三日後、必ず真実を明らかにする。」


━━━━━━━━━━━━━━


監査記録 No.0016


案件名:港町レヴィナ


状況:四天王を確認

   監査条件未達


━━━━━━━━━━━━━━


次回『三日後』

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