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元税務調査官、異世界で世界監査局を作ったら魔王軍の脱税を暴いて世界最強になりました  作者: 春野ケイ


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第10話 人間にも未納はある

 王都へ戻る頃には、日が高く昇っていた。


 北門をくぐると、昨日までとは少しだけ街の空気が違う。


「見ろ、水が増えてる。」


「本当だ……昨日より井戸が深くなってるぞ。」


 井戸の前では、住民たちが驚いた様子で水面をのぞき込んでいた。


 水を汲む女性の表情にも、わずかな笑みが浮かんでいる。


 真人は足を止め、その様子を静かに見つめた。


 貯水湖だけではなかった。


 街にも少しずつ変化が現れ始めている。


 だが、それで終わりではない。


 真人は再び歩き出した。


 その時だった。


「榊真人殿。」


 後ろから声を掛けられる。


 振り返ると、王城の兵士が一人立っていた。


「陛下がお呼びです。」


 真人は少し目を丸くする。


「私を、ですか。」


「はい。」


「王城までお越しください。」


 真人は静かにうなずいた。


「分かりました。」


 兵士の後に続き、真人は王城へ向かって歩き始めた。


兵士に案内され、真人は王城の執務室へ通された。


 重厚な扉が静かに開く。


「榊真人、お連れしました。」


「入ってくれ。」


 部屋の奥から落ち着いた声が響く。


 兵士が一礼して部屋を出ると、執務室にはエリオス王と真人だけが残った。


 エリオス王は机から立ち上がり、真人へ歩み寄る。


「急に呼び立ててすまなかった。」


「いえ。」


 真人は軽く頭を下げた。


 エリオス王は窓際まで歩き、王都の景色へ目を向ける。


「昨日と今日、お前は北の森へ向かったそうだな。」


「はい。」


「そして、その直後から北の貯水湖の水位が戻り始めた。」


 王は真人へ向き直る。


「王城の者たちも原因を調べているが、まだ分かっておらん。」


「だから、お前に聞きたかった。」


 一拍置いて、静かに問い掛ける。


「……何かしたのか。」


 真人は王の目を見返した。


 その問いに疑いの色はない。


 民のために事実を知ろうとする、王としての眼差しだった。


真人は静かに口を開いた。


「北の森で異変の原因と思われるものを見つけました。」


「原因……。」


 エリオス王の表情が引き締まる。


「はい。」


「確認を行い、対処しました。」


「その結果、水位が戻り始めたのだと思います。」


 王はしばらく真人を見つめていた。


「そうか。」


 短い返事だった。


 だが、その声には安堵がにじんでいる。


「礼を言う。」


「民のために動いてくれたこと、王として感謝する。」


 真人は首を横に振った。


「まだ終わっていません。」


「今回、解決できたのは一つだけです。」


「異変の原因は、まだ他にも残っています。」


 その言葉に、エリオス王は静かにうなずく。


「……実はな。」


 王は再び窓の外へ目を向けた。


「近頃、気になることがある。」


「現場から上がってくる報告と、民から直接聞く話が噛み合わんことが増えてきた。」


「私の考え過ぎなら、それでいい。」


「だが、どうにも胸騒ぎがしてな。」


 真人は黙って耳を傾ける。


 王はゆっくりと真人へ向き直った。


「もし、お前が異変を調べ続けるつもりなら。」


「私も、お前の話には耳を貸そう。」


 その言葉を聞いた真人は、小さく頭を下げた。


「ありがとうございます。」


 その時だった。


 執務室の扉を叩く音が静かに響いた。


コンコン。


「失礼いたします。」


 扉が開き、一人の男が執務室へ入ってきた。


 身なりの整った壮年の男だった。


 胸元には王家の紋章が刺繍された濃紺の上着。


 王へ一礼すると、手にした書類を差し出す。


「陛下、本日分の報告書でございます。」


「ああ。」


 エリオス王は書類を受け取り、軽く目を通す。


 真人は男を何気なく見た。


 その瞬間だった。


 視界の端に、淡い文字が浮かび上がる。


(……【完全査定】?)


 発動するつもりはなかった。


 それでも、スキルは目の前の男へ反応していた。


【対象】


王直属の側近


未納魔力 2,860


 真人は思わず息を止める。


(人間にも……。)


 昨日まで、未納は魔族だけの問題だと思っていた。


 だが違う。


 目の前にいるのは、王に最も近い人間の一人。


 それでも、世界帳簿が示す答えは変わらなかった。


 真人は何も言わない。


 今は未納があると分かっただけだ。


 その理由も、事情も、まだ何一つ分かっていない。


 軽々しく結論を出すつもりはなかった。


 真人は静かに視線を外した。


側近は報告を終えると、エリオス王へ一礼した。


「では、失礼いたします。」


 静かに踵を返し、執務室を後にする。


 扉が閉まると、部屋には再び静けさが戻った。


 エリオス王は真人へ向き直る。


「すまなかった。」


「話の途中だったな。」


 真人は小さく首を横に振る。


「いえ。」


「私も、今日はご報告できることは以上です。」


 王はうなずいた。


「そうか。」


「また何か分かったことがあれば、遠慮なく知らせてほしい。」


「民のためになることなら、私は協力を惜しまん。」


「ありがとうございます。」


 真人は一礼し、執務室を後にした。


 長い廊下を歩きながら、先ほど浮かんだ文字を思い返す。


 未納魔力――二千八百六十。


 見間違いではない。


 だが、それだけでは何も判断できない。


 ガルドの時と同じだ。


 証拠を集め、事実を確認する。


 それが自分の仕事だった。


 真人は窓の外へ目を向ける。


 王都には、穏やかな日常が戻り始めている。


 だからこそ、この平穏を崩すわけにはいかなかった。


(まずは調べよう。)


 真人は静かに歩き出す。


 次に監査する相手を見据えながら。


王城を出ると、真人は立ち止まった。


 王直属の側近。


 未納魔力、二千八百六十。


 だが、それだけでは監査はできない。


 未納がある。


 それは事実だ。


 しかし、その未納が世界の異変と結び付いている証拠は、まだ何一つない。


 ガルドの時と同じだ。


 まずは調べる。


 話を聞き、証拠を集める。


 そして、事実を確認する。


 その順番だけは変えてはいけない。


 真人は王城を振り返る。


 王は民のために動いている。


 その王のすぐそばに、未納を抱えた人物がいる。


 それが何を意味するのかは、まだ分からない。


「まずは調べよう。」


 真人は静かにつぶやく。


 夕日に染まる王都を見つめたあと、一歩を踏み出した。


 次に向かう先は、もう決まっていた。


真人は人通りの少ない路地へ足を向けた。


 周囲に人の気配がないことを確認し、小さく息を吐く。


「【世界帳簿閲覧】」


 淡い光が目の前に広がる。


 そこへ、新たな文字が浮かび上がった。


━━━━━━━━━━━━━━


監査対象


王直属の側近


監査条件 未達成


不足項目


・世界循環との関連


・未納発生原因


・証拠


━━━━━━━━━━━━━━


 真人は静かに表示を見つめる。


「……やはり。」


 未納があるだけでは監査はできない。


 ガルドの時と同じだ。


 事実を集め、証拠をそろえる。


 その先に、初めて監査がある。


 真人は表示を閉じると、王城を見上げた。


「まずは調べよう。」


 そうつぶやき、静かに歩き出す。


━━━━━━━━━━━━━━


監査記録 No.0010


案件名:王城


監査対象:王直属の側近


状況:調査開始


━━━━━━━━━━━━━━


次回『王の側近』

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