77.つながった
翌日。 寮のリビング。
白奈がソファに寝転がっていた。
私は向かいの椅子で本を読んでいた。
すると突然、白奈が「……あっ!」と声を上げた。
ソファからガバッと跳ね起きる。
「どうした?」
「先輩の言ってたこと、書類の上ではその通りなんだよ」
「どういうこと?」
「事故証明書にも保険の聴取記録にも、確かに『初対面』って書いてある。
でも、それって当日――事故があったその瞬間に、初めて顔を合わせたって意味でしかないよね」
「……あたま大丈夫?」
「違う!」
白奈は勢いよく立ち上がった。
「事故の前から知り合いだったなら、書類に書きようがないじゃん。
だって、誰も聞いてないんだもん」
「どういうこと?」
「七百五十万円を持ってることを知っていた人間がいた。
でも、前日に銀行から現金を下ろしたことまでは知らなくてもいい。
その現金を持っている日を本人から直接聞いたんだよ」
「誰が?」 白奈は、事故現場の記録を思い返す。
「後部座席の女の人」
「あの女性?」
「うん」
「でも、あの人が犯人だという証拠はないよ」
「まだね」
白奈はニヤリと笑った。
「だから、確認するの。多分あってるとおもうよ」
◇
数日後。 予言通り、あの被害者の男性が、思い詰めたような顔で交番にやってきた。
「あの……すみません。先日の七百五十万円の件ですが」
「はい」
「よく考えたら、盗まれたんじゃなくて、勘違いで自分でどこかに落としただけだと思うんです」
「えっ……?」
私は目を丸くした。
「勘違い、ですか?」
「はい。ですので、盗難届じゃなくて、遺失物届に変更していただけますか」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
私は思わず声を上げた。
「七百五十万ですよ!? 盗難届でいいんじゃないんですか?」
「いえ、もう……いいんです」
男性はどこか遠い目をして、力なく首を振った。
「奥様には何と……?」
「妻には、結局言えてません、でも、もう……いいんです……」
そのときだった。
後ろから書類を抱えた白奈が、ぬっと割り込んできた。
「無くなったまま、諦めることにしたんですよね?」
「えっ」
「だってしょうがないですよね」
白奈は男性をじっと見る。
「お金は戻ってこないし、警察に犯人を捕まえられたら――『もっと困る』から」
「な、何を……」
男性の顔がこわばった。




