73.閑話.スクリーンカーテン
今日は白奈との夜勤だ。
交番の前に一台の軽自動車が止まった。
運転席から三十代くらいの女性が降りてくる。
助手席には、小学生くらいの男の子が不思議そうな顔で座っていた。
「どうされました?」
「郵便局の斜め向かいのお宅なんですけど……。」
女性は少し言いづらそうに声を潜めた。
「窓いっぱいに、プロジェクターで、その……大人向けの映像が映ってるんです。」
「子どもの塾の帰り道なので、何とかしていただけませんか。」
「わかりました。確認します。」
◇
現場へ向かうと、住宅街の一角だけ妙に明るい。
「……あれか。」
リビングの窓いっぱいに、プロジェクターの映像が映し出されていた。
「うわぁ……。」
白奈が思わず目をそらす。
「スクリーンカーテンを本当のスクリーン代わりにしてる……。」
通常、映写機用のスクリーンは2重構造になっていて、裏映りなんかしないのだが――
「家具屋にあるスクリーンカーテンは、ただの白い布がスクリーンの様に垂れ下がってるだけだから、当然裏映りする……」
「本人、気付いてないんだろうね。」
「だな」
私は、インターホンのボタンを押した。
「あっ、動画が停止した、えっ、このタイミング……」
『はい、何でしょう』
「富山西交番の渡辺と言いますが、ちょっとよろしいですか?」
『えっ、警察?、何でしょう、今開けますね』
しばらくドタバタと音が聞こえ、そしてドアから、30代くらいの男性が出てくる。
今履きました感がすごいズボン、
シャツが斜めにズボンに突っ込まれてる。
「とある方から苦情がきましてね、まぁ、見てもらった方が早いかな」
私は外の窓の場所に男性を連れ出した。
「うっ、うわあぁぁぁ!!」
男性が窓を見た途端、慌てて、玄関に舞い戻った。
そして、
「あっ、切れた」
部屋が真っ暗になり、男が再び、とぼとぼと玄関から現れた。
「すみませんでした。まさか、裏映りしてるとは、思ってもみませんでした。」
「でしょうね」
私は、ため息を一つ。
「以後、気を付けてください。」
「えっ、逮捕」
「されたいんですか?、できますけど、故意ではなさそうですので、次回からは捕まえます」
「あっ、ありがとうございます」
「浜巡査、帰るよ」
「はーい」
車の中では、白奈が興奮気味に話していた。
「……すんごいの見ちゃった。」
「馬鹿馬鹿しい。」
◇
警察官たちが去ったあと、男は暗くなった部屋で一人、熱い息を吐き出していた。
「富山西交番の……渡辺さん……ハァハァ……凛々しかったなぁ……」
男のパソコン画面には、
新たに『警察官 制服』
の検索結果が並んでいた。




