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黒音と白奈  作者: nakada
第7章
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58/78

58.閑話.ナンパは不審者

夕方の交番。

制服姿の女子高校生が、どこか怯えた様子で駆け込んできた。

「あの……相談してもいいですか」

「どうしました?」

黒音が椅子を勧めると、女子高生は何度か深呼吸してから口を開いた。

「学校帰りにファボーレ寄ったんです。

そしたら駐車場で、赤いスポーツカーに乗った知らない男の人から」

少し言いづらそうに視線を落とす。

「『おねーさん、お茶しない?』って声をかけられて……」

「それで?」

白奈が優しく促す。

「なんか怖くて……そのまま逃げてきました」

黒音と白奈は顔を見合わせた。

男の特徴。

車種。

色。

ナンバーの一部。

一つずつ丁寧に聞き取っていく。

幸い実害はない。

だが、地域への注意喚起は必要だろう。



女子高生を見送った後。

黒音はパソコンの前に座り、慣れた手つきでキーボードを叩き始めた。

「黒音、何してるの?」

「共有通達」

「え?」

「安全情報ネットへの登録。不審者情報だからね」

画面を見ながら続ける。

「必要ならXや『とやまポリス』にも流れるし」

「へぇー」

白奈が感心したように頷く。

その様子を見ていた上司が、湯呑みを片手にぼやいた。

「時代は変わったもんだなぁ」

「何がです?」

「『お茶しない?』で不審者扱いだ」

しみじみと言う。

「俺らが若い頃なんて、ナンパなんかそこら中にいたぞ」

黒音は苦笑した。

「昔と今じゃ危険性が違いますから」

「ネットもあるし、ストーカーもいるし!」

白奈が元気よく割り込む。

「女の子からしたら、通報しやすい方が絶対安心ですよ!」

「まあなぁ」

上司は肩をすくめた。

「俺が年取っただけか」



しばらくして。

白奈がニヤニヤしながら黒音を見た。

「ねえ」

「なに」

「もし黒音が休みの日にナンパされたらどうする?」

「は?」

「『おねーさん、お茶しない?』って」

黒音は一瞬だけ考えた。

「そうだな」

そして真顔で答える。

「まず警察手帳を見せる」

「うわ」

「それで事情を聞く」

「うわぁ」

「未成年への声掛けを繰り返してるなら、なおさらね」

白奈が腹を抱えて笑い始めた。

「相手の人かわいそう!」

「不審者情報を一件でも減らすのが私たちの仕事でしょ」

黒音は平然とエンターキーを押す。

登録完了。

画面に表示された文字を確認すると、満足そうに頷いた。

その横で白奈はまだ笑っていた。

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