5.事件の内容
入ってきたのは、少し疲れた顔をした本田先輩だ。
私服姿だが、その鋭い眼光は隠せていない。
「お待たせしたな」
先輩は私たちの向かいにどっかと腰を下ろした。
オーナーが手際よく、頼まなくてもいつものブレンドコーヒーを運んでくる。
「それで、先輩。例の事件、どうなったんですか?」
白奈が身を乗り出す。
私は「しっ、声が大きい」とたしなめながらも、やはり気になって先輩の手元に視線を向けた。
先輩は周囲を一度見回し、声を落として切り出した。
「……とりあえず現在のところ、容疑者は三人、どいつも被害者の山崎と深いトラブルを抱えていた連中だ。」
先輩は手帳を開き、三人の名前を指でなぞった。
「まずは、山中好実、二十一歳。女子大生だ。亡き父から相続した土地を、山崎に強引な手口で格安で買い叩かれたらしく、かなり揉めていた。
二人目は時田茂、三十八歳。山崎の不動産会社に勤める部下だが、日常的に酷いパワハラを受けていたという証言が社内で山ほど出ている。
最後は、山崎の古い友人だった 村上拓海、五十歳。友人とは名ばかりで、実は山崎から一千万円近い借金をしていた。返済を巡ってかなり追い詰められていたようだ」
動機は十分。誰が犯人でもおかしくない。
だが先輩は苦々しい顔でコーヒーを口にした。
「……だが、厄介なことに三人とも死亡推定時刻にはアリバイがあるんだよ」
私が問い返すと、先輩は頷いた。




