4. 行きつけの喫茶店
あれから数日後。
私たちは行きつけの喫茶店で、ケーキセットを頼みながら本田先輩が来るのを待っていた。
「……あんた、本当に漢字は知らないし計算は間違えるし。どうやって警察学校を卒業できたのよ。
頭が悪い自覚があるなら、せめて机に向かって勉強しなさいよ」
「えー、言い方ひどいよぉ。勉強しなきゃって思うと、ペンが止まっちゃうんだもん」
「じゃあ、どうやって試験を通ったのよ」
「えっ、それは……。カンニングペーパー作って……あ、でも違うの! カンニングはしてないよ!」
「はあぁ!? あんた、カンニングペーパー作ってたの!? ふざけるな、それでも警官か!」
「黒音ちゃん、声が大きいわよ」
店のオーナーが苦笑しながらやって来た。
「はい、ケーキセット。黒音ちゃん、他のお客さんの迷惑になっちゃうから、ね?」
「オーナー……! オーナーからも叱ってやってくださいよ。こいつ、卒業試験でカンニングしてたって自白したんです」
「あら? 白奈ちゃん、カンニングはしてないって言わなかった?」
「そうだよぉ!」
「でもあり得ますか? なら、なんのためにカンニングペーパーなんて作るんですか」
オーナーはティーカップを置きながら、私を優しく諭すように言った。
「じゃあヒント。黒音ちゃん、あなたは試験前にどうやって勉強してる?」
「私は……一夜漬けですけど、やっぱり紙に書いて覚えるのが一番効率いいですから」
「うん。で、白奈ちゃんは勉強が苦手で、机に向かうのも嫌いなんだよね?」
「うん」
白奈が小さく頷く。
「じゃあ、カンニングペーパー作りは?」
「勉強じゃないもん。消しゴムのケースに入るくらいの小さい紙に、教科書の内容をぎゅうぎゅうに詰め込むの」
「黒音ちゃん。目的は違うけど、やってることはあなたと同じじゃない?」
「あ……」
「勉強が苦手でペンが進まない。行き詰まったなら、ちょっと考え方を変えてみる。
見方を変えるって大事なことよ。小さい用紙に書くことに集中してるから、
その用紙のどこに何を書いたか全部頭に入っちゃってるのよね?」
オーナーが白奈に微笑むと、白奈は胸を張った。
「そう、それ! だから本番では紙なんて見てないもん。カンニングはしてないよ!」
「でも、カンニングペーパーを作ってるだけだから、テストが終わったら覚えてないのよね」
「もー、いじわる。それを言ったらおわりじゃん」
オーナーと白奈が笑っている。
「でも、オーナー、よく分かりましたね」
白奈が言うと、オーナーは肩をすくめた。
「黒音ちゃん、わからない? オーナーもね、昔はカンニングペーパー作りの経験者だったのよ」
白奈がニヤリと笑って「ね、オーナー?」と振る。
オーナーも笑った。
「おいおい……」
私が頭を抱えていると、カランカラン、と喫茶店のドアが開いた。




