44.閑話.美咲
いつもの喫茶店で、私と白奈と美咲の3人でお祝いをしていた。
美咲には、私と白奈から、スペシャルプリンアラモードをご馳走することにした。
「美咲、チャンネル登録者数1000人達成おめでとう!!」
「待って、嬉しいけど、まだまだこれからだから」
美咲の本業は、フリーのプログラマーだ。
副業で始めたYouTubeチャンネルの、クリエイターとしての活躍はまだまだこれからであるが、
登録者数1000人という収益化の条件をクリアしたことで、晴れてYouTuberを名乗れるようになったのである。
ただ、なぜか一番バズったのは、この間撮影したサンと白奈の、警察犬訓練の動画だった。
ちなみに、動画内の白奈の顔は、半分がマスクに覆われているため、一見しただけでは誰だかよく分からないようになっている。
もちろん、撮影当時、事前に白奈の許可を取ってあるのだが……
「えー、私をオチにつかわないでよー」
やら、
「バズったのは私とサンのおかげでしょー? 私にもおごってよぉ」
やらと、白奈は隣でいろいろと騒いでいる。
「でも、こうなってくると、またサンを連れて訓練に行かないといけないよね」
私が言うと、白奈が不敵に笑って返してきた。
「えー。じゃあ、今度は黒音がサンの訓練担当ねぇ」
……動画のネタになるなら、仕方がないか。
「……はぁ、分かったわよ」
◇
数日後、私たちは再びサンを連れて警察犬訓練のスクールを訪れた。
「では、今回も脚側行進から始めましょう」
私はサンと並んで歩く。
「あら、サンちゃん上手ね。これなら『遠隔停座』のステップに行けるかもしれないわ」
「遠隔停座、ですか?」
「ええ。犬を座った状態で待たせて、指導手が少し離れた位置から指示を出したり、戻ってきたりする練習方法です。信頼関係が試されるんですよ」
その様子を見ていた白奈が、羨ましそうに声を上げた。
「えっ、ちょっと、ずるいずるい! 私もやるー!」
しかし、交代して白奈がリードを持った途端、サンはそっぽを向いてしまい、まるで言うことを聞かなくなってしまった。
「うぇ~、なんでぇ? サーン、お座り! お座りだってばぁ」
「ふふ、困っちゃいましたね。昔は『犬は家族の中で順位付けをする』なんて言われていましたが、最近の研究では、犬なりの好き嫌いの好みや、一緒にいて安心できる人かどうか、という基準で態度を変えると言われているんですよ」
「サン、おやつの時だけ私のところ来るじゃん!」
「それは安心じゃなくて食欲だ」
「先生! どうしたらサンが私を安心できる人って認めてくれますか!? 教えてください!」
必死な顔で先生に教えを乞う白奈の横顔を見ながら、
私は心の中で、普段のサンと白奈のやり取りを思い出した。
白奈はよく、エサを前に置いて「待て、待て、待て」と繰り返す。
なのに、なかなか「良し」を言わない。
その結果、サンは勝手に『白奈が三回「待て」と言ったら食べていい』と学習してしまったのだ。
サンの賢さと、白奈の少々雑な接し方を思い浮かべて、少しだけニヤリとしてしまうのだった。
後日、今回の白奈の動画で、登録者が 500人増えた




