43.事の顛末
富山県警からの緊急要請を受け、東京の警視庁は即座に動いた。
覆面男の供述にあった「マネージャー」という言葉が、捜査を一気に加速させたのだ。
「Xの投稿元IP、都内の漫画喫茶を特定しました」
「防犯カメラ映像を確認……一致。米沢美香で間違いありません」
その報告を聞いた瞬間、私は思わず息を呑んだ。
火乃 精のマネージャー——。
あの、彼女を“絶対売れる”と信じていた女性が。
言い逃れのできない証拠を突きつけられ、美香はその日のうちに逮捕された。
取調室での彼女は、ふてぶてしいようで、どこか晴れやかな表情をしていたという。
「火乃 精は関係ないわ。全部、私一人でやったことよ。
あの子は絶対に人気が出る。私が見つけた、本物の金の卵なんだから」
その言葉を聞いたとき、私は複雑な気持ちになった。
愛情なのか、執着なのか、狂気なのか。
どれでもあり、どれでもないように思えた。
◇
翌日。
ニュースはどこも火乃 精の話題で持ちきりだった。
『涙の説得劇! 一日署長が人質事件を救う』
そんな見出しがニュースとして報じられた数日後には
『涙の熱演もヤラセ! 勇敢なアイドル“火乃 精”、ひのせい(火のせい)だけに大炎上!』
どこかの誰かが上手いことを言ったつもりなのだろう。
そのフレーズはSNSで瞬く間に拡散され、
面白おかしく消費されていった。
私はスマホの画面を見つめながら、胸の奥がじわりと痛んだ。
(……火乃 精は、本当に知らなかったのか?)
あの涙は演技ではなかった。
少なくとも、私にはそう見えた。
だが、世間はそんなことお構いなしに叩き続ける。
少女の未来を奪った大人の身勝手さ。
そして、それを寄ってたかって叩くネットの悪意。
私はぽつりと呟いた。
「……ぜんぜん、面白くない」
外は梅雨空で、湿った風が交番の窓を揺らしていた。
富山の梅雨明けは、まだ先になりそうだった。
(第四部 完)




