42.逮捕後
取り押さえられた覆面男は、すぐに別室へ移され、本田巡査部長が取調べを始めた。
マジックミラー越しに、私は浜と並んでその様子を見つめていた。
「銀行強盗未遂に加えて、人質事件だ。かなり重い罪になるぞ」
本田先輩の低い声に、男の顔がみるみる青ざめていく。
「そ、そんなはずない……!
脅すだけなら大した罪にならないって……聞いたんだ……」
「誰に聞いた?」
その問いかけに、男はピタリと口を閉ざした。
視線が泳ぎ、額に汗が滲む。
“言えない相手”がいるのは明らかだった。
私はミラー越しにその様子を見ながら、胸の奥にあった違和感が形を持ち始める。
浜が小さく呟いた。
「やっぱり誰かに依頼されたんだよ。
あの男、アイドルに興味なんてなかったもの。
黒音が名前を出すまで、"一日署長"って言ってたし」
「確かに、妙でしたね。Xにあれだけ堂々と書き込んでおきながら、現場に警察がいることを本気で焦っていた。
書き込み主と実行犯は別人かもしれない。
もし裏で誰かに雇われていたとしたら、金の動きがあるはずです。
通帳か、通信履歴か……」
インカム越しに本田先輩が短く返す。
「……なるほどな。通帳と通信履歴、徹底的に洗ってみるか」
◇
その頃、一日署長を終えた 火乃 精 ら一行は、
その日のスケジュールを終え東京に帰って行った。
そして翌日。彼女は一躍「時の人」となる。
テレビのワイドショーやネットニュースは、どこも彼女の勇敢な説得劇を大々的に取り上げる事態になっていた。
◇
翌日から、執拗な取調べが続いた。
そして数日後——。
「お前の通帳に、100万円の入金があるな。誰から受け取った?」
本田先輩の問いに、男は唇を噛みしめて沈黙する。
だが、追い詰められた表情は隠せない。
「銀行強盗未遂だけなら、お前の言う通り数年で出られる可能性もあっただろう
だが、人質の首に刃物を当てた時点で話は別だ。
一気に罪は重くなる」
その言葉に、男の肩がビクリと震えた。
「……だまされたんじゃないのか?
そんな奴をかばって意味があるのか?」
しばらくの沈黙のあと、男はついに崩れ落ちるように口を開いた。
「……マネージャーだよ。
前金で100万、成功報酬で300万……
“銀行強盗未遂ならすぐ出てこられる”って……言われたんだ……」




