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黒音と白奈  作者: nakada
第3章
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36/78

36.事件の真相

喫茶店でのあの会話から、四日後。

黒音と白奈は、またいつもの喫茶店に集まっていた。

本田は席に着くなり、短く言った。

「お前らの言う通りだった」

黒音が思わず身を乗り出す。

「営業車ですか?」

「いや、その前に警察犬だ」

本田は運ばれてきたコーヒーを一口飲んだ。

「村上製作所に協力してもらって、中山が使っていた営業車を借り出したんだ」

「うんうん」

白奈が勢いよく机に身を乗り出す。

「反応、ありました?」

「ああ」

本田は手元の資料をトントンと整え、テーブルへ置いた。

「被害者の所持品から採取しておいた臭気と、トランクの臭気が一致した」

黒音が息を呑み、ぽつりと呟く。

「じゃあ……本当に遺体はその車で運ばれたんですね」

「そうなる」

本田は静かに頷いた。

「犬の反応を受けて、念のため本格的に鑑識にも回した」

資料を一枚めくる。その指先を二人の視線が追った。

「トランクの隙間から、微量の血痕と毛髪が検出された。DNA鑑定の結果、小西みなみ本人と一致だ」

店内に、水を打ったような静まり返りが訪れた。

白奈が小さく息を吐き出す。

「じゃあ……」

「ああ」

本田は短く答えた。

「中山はすべてを認めたよ」


ここからの説明は、中山がかなりの臆病者の怖がりであった現実


「動揺した中山は、バッグにすら指紋を付けたくなくて、小西のジャケットに包んで持ち運んだそうだ。

中のスマホを確認することも怖くてできず、電池が切れているかどうかさえ確かめられなかった。

バッグを遺体とは別の場所に埋めたのも、遺体を掘り返す勇気がなかったからだ。だから、すぐ近くに埋めるしかなかった。

ジャケットは、自分の指紋が付いていると思い込み、燃えるゴミとして処分した。

……問い詰めてみれば、拍子抜けするほど臆病な男だった」


しばらくの間、誰も口を開かなかった。

たった一度の逆上。

その後で必死に積み上げられた偽装工作。

スマホのタイムラインも。

山中に埋められた水色のバッグも。

すべては衝動的な殺人を隠すためだった。

やがて、本田がぽつりと続ける。

「正直な話、俺はあの犬の反応を見た時点で、中山の犯行を確信してた」

「鑑定結果が出る前からですか?」

黒音が尋ねる。

本田は小さく苦笑した。

「スマホは持ち主を騙せる。タイムラインだって、いくらでも作れる」

そう言って、本田は静かに窓の外へと視線を向けた。

「だが、警察犬は嘘をつかないからな」


ガラス窓の向こうの青空を見つめる本田の横顔を、黒音と白奈は黙って見つめていた。

あの日、山で最初に真実を見つけたのも、また犬だった。



本田は伝票を手に取ると立ち上がった。

「じゃあな」

「お疲れ様でした」

私と白奈が頭を下げる。

本田は片手を上げ、そのまま店を出ていった。

カラン、とドアベルが鳴る。

しばらく沈黙が続いた。

白奈がぽつりと言った。

「ねぇ、黒音」

「ん?」

「つまり今回のMVPって警察犬だよね」

「まぁ、そうなるな」

「私たち、何もしてなくない?」

私は少し考えた。

「いや、一応、スマホのアリバイには気付いただろ」

「そっか」

白奈は納得したように頷いた。

そしてテーブルの上の伝票を見た。

「じゃあ今回の報酬は?」

「ない」

「えっ」

「ない」

「解決したのに?」

「警察に協力しただけだろ」

白奈はしばらく固まっていたが、やがて肩を落とした。

「サンのドッグフード代くらい欲しかった……」

「お前のじゃないだろ」

私は全力でツッコミを入れた。

窓の外では、初夏の風が静かに木々を揺らしている。

事件は終わった。

けれど、私たちの日常は、たぶんこれからも変わらない。


(第三部 完)

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