35.白奈の推理
白奈はテーブルの上の資料を見つめながら言った。
「例えばだけど、聞いて」
本田先輩が腕を組む。
「続けろ」
「仮に小西さんが六月三日の朝、六時二十五分より前――例えば五時半頃に殺されたとする」
私は黙って聞く。
「犯人はスマホの入ったバッグを持ち出して、小西さんの家の近くに隠した」
「宅配ボックスとか?」
「うん」
白奈は頷いた。
「宅配ボックスでも、植木鉢の陰でもいい。とにかくスマホだけを、彼女の自宅近くのどこかに置いておく」
本田先輩は何も言わない。
だが、否定もしていなかった。
「その後、中山さんは普通に会社へ行く。バイクでね」
「営業車に乗るためか」
本田先輩が補足する。
「そう」
白奈は頷いた。
「会社に着いたら、外回り用の営業車に乗る。
そして仕事の途中で一度、自分の家に引き返すの。
トランクに小西さんの遺体を積んで、山へ向かうために」
店内が、水を打ったように静まり返った。
「そして、埋める」
本田先輩が低く言った。
「最後に、スマホの電池が切れた頃合いを見計らって、彼女の家の近くに隠しておいたスマホを回収して、同じ山へ持って行く」
「ところが」
白奈が指を立てた。
「まだ電池が切れてなかった」
私は思わず息を呑んだ。
「だから……スマホに『バイク移動』の記録が残っちゃったんだ。
中山さんが自分の原付バイクでスマホを山まで運んだから」
「そう」 白奈は小さく頷いた。
「全部、私の仮定だけどね」
私は腕を組み、二人の顔を交互に見つめた。
「でも先輩、それなら証明できるかもしれません」
「え?」
白奈が私を見る。
「遺体を営業車で運んだなら、トランクに何か痕跡が残るはずです。
体液とか、目に見えない微細な毛髪とか」
私は少し頭をひねり、訓練中のあの子たちの姿を思い浮かべた。
「それに、警察犬です。死体を運んでいたなら、シートやトランクに独特の臭気が残ります。
臭気選別なら、数日経っていても追えるはずです」
本田先輩がゆっくりと顔を上げた。
「営業車なら中山個人の所有物じゃない。
村上製作所の協力が得られれば、すぐにでも調べられるな」
本田先輩は静かに立ち上がった。
「ちょっと会社に話を聞いてくるか。
中山の鼻をあかせる証拠を見つけにな」
そう言うと先輩は、テーブルの上に置かれた『三人分』の伝票を手に取ることもなく、
その場に自分の分と言わんばかりに1000円札をおいて
本田先輩はそそくさと店を出て行ってしまった。
「……行っちゃいましたね」
「うん。でも、コーヒー一杯しか飲んでないのに1000円札置いて行ったよ。お釣り、あとで計算して返さなきゃ」
「えーっ!? これ先輩の自分の分だけなんですか!?」
「え? 多分そうだけど……何でそんなに驚いてるの?」
「だって、前は『ここは俺が持つ』っておごってくれたじゃないですか!
だから今回もまたおごってもらえると思って、もうスペシャルプリンアラモード頼んじゃいましたよ!
これじゃ私の持ち出し(赤字)が出るじゃん!」




