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黒音と白奈  作者: nakada
第3章
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33/78

33.水色のバッグ

遺体発見から三日後。

私と白奈は、いつもの喫茶店にいた。

「それで?」

白奈が身を乗り出す。

向かいの席では、本田先輩がコーヒーをすすっていた。

「それで、じゃない」

「教えてくださいよ」

「駄目だ」

「そこをなんとか」

「駄目だ」

「先輩」

「駄目だ」

「先輩」

「駄目だ」

「先輩」

「……」


本田先輩は額を押さえた。

「お前、学習能力ないのか」

「あります」

「ない」

私と本田先輩の声が揃った。


白奈は不満そうに頬を膨らませる。

本田先輩は深いため息をついた。

「前回世話になったから、今回も少しだけだ」


白奈の目が輝く。

「本当ですか!」

「ただし」

本田先輩は指を一本立てた。

「くれぐれも内緒な」

「もちろんです!」

その『もちろん』が一番信用できない。

私は心の中でそう思った。


本田先輩は周囲を確認してから声を落とした。


「まず身元が判明した」

「早かったですね」

「バッグの中に財布が入ってた」

白奈の表情が変わる。

「身分証ですか?」

「ああ、運転免許証だ」

本田先輩は頷いた。


「被害者は、小西みなみ、二十七歳の女性。一人暮らしのフリーランスだ」

「フリーランス?」

「イラストレーターらしい」

私は思わず顔を上げた。

「行方不明届は?」

「出てない」

「え?」

「家族は県外だ。普段から連絡も少なかったらしい」


白奈は黙って話を聞いている。

本田先輩はコーヒーを一口飲んだ。

「それから、彼女と最後に会った人物もすでに判明している。

中山なかやまつとむ、二十八歳の村上製作所の営業社員だ」

「関係は?」


「中山が言うには恋人関係だったらしい」


「中山に確認した所、1週間前の六月二日の夜に中山の家に彼女が来て

 翌朝帰ったそうだ。 これは彼女のタイムラインと一致している。」

 

「タイムライン?」


「あぁ、彼女のそばに一緒に埋まっていた青色の小さなバッグがあっただろ

 あの中にスマホが入っていた。」


あぁ、そういえばバッグがちょっと離れた別の場所に埋まってたな。ん、

なんで別の場所なんだろう・・・


「タイムラインによると、六月二日の二十二時五分に中山の家に歩いて行っている

彼女の家は、700m程の所にある、まぁ富山だと、車で移動する距離だが、

別に歩いていく分には何もおかしくない距離だ

その後、翌六時二十五分に、歩いて自宅に帰っている。」


「ずいぶん朝早いですね」

「まぁ、その日は中山も会社だからな、別におかしくはない」

「そして、六月四日の十八時三十分にバイクでどこかへ移動したところでタイムラインが途切れている」

「途切れてる?」

「ああ。電源を切ったのか、電池が切れたのかまでは分からん。だが、それ以降スマホの通信記録もない」

本田先輩は資料をめくった。

「ああ。警察は、彼女がこの四日の夜に自らバイクで山へ向かい、そこで犯人に襲われたと見ている」

私は資料を覗き込む。

「でも、それなら中山さんの話と矛盾しないんじゃないですか?」

「普通ならな」

本田先輩はコーヒーを口に運んだ。

「問題は移動手段だ」

「移動手段?」

「被害者は普通免許しか持っていない。車は軽自動車を所有している」

「車なら問題ないですよね」

「だが、タイムラインには『バイクで移動』と表示されている」

私は思わず眉をひそめた。

「バイク?」

「ああ」

本田先輩は頷く。

「本人は二輪免許を持っていない。原付なら乗れるが、所有記録もない」

「レンタルとか?」

白奈が言う。

「調べたが見当たらない」

「ふーん……」

白奈は資料をじっと見つめた。

「それに、過去のタイムラインにもバイク移動は一度も出てきてない」

「急にバイクに乗りたくなったとか」

私が言うと、

「黒音、それは無理があると思う」

白奈が即座に否定した。

「そうか?」

「だって変じゃない?」

白奈は首を傾げる。

「今まで一回も乗ったことない人が、急に夜にバイクで山の方へ行くんだよ?」

「……確かに」

そしてここで、

「えっ、でもタイムラインって車か徒歩かは分かるって聞いたことあるけど、バイクまで分かるの?」

「ああ」

本田先輩は頷いた。

「GPSの移動速度や停止の仕方なんかから推定しているらしい」

「へー」

白奈は感心したように言った。

「すごいね」

そう言いながらも、白奈の視線は資料から離れなかった。

何か引っかかっている。

そんな顔だった。

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